8月10日、金融庁はローソン銀行に銀行業の免許を交付した。ローソン銀行は9月10日の開業、10月15日のサービス開始を予定している。

これは、ローソンが進めてきた新しい取り組みの一つだ。

 従来、ローソンは関連会社であるローソン・エイティエム・ネットワークス(ローソン銀行の前身)を運営し、地銀などとの提携によってATMを運営してきた。ローソン・エイティエム・ネットワークスにはローソン以外にも多くの銀行が出資していた。そのため、ATMの利用手数料などはローソンが独占できなかった。ローソンの判断で金融ビジネスを強化し収益力を高めることが、銀行免許取得の理由だ。

 ローソンは銀行免許の取得に代表される新しい取り組みを、独自の取り組みというよりも、三菱グループのヒト・モノ・カネ(信用力)を用いて進めてきた。特に、同社が三菱商事の子会社となったことに関して、ローソンが三菱グループ内の企業ネットワークなどを活用しやすくなったと考える経済の専門家もいる。商社の物流機能や、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)の金融技術をローソンが活用し、従来にはないコンビニエンスストアの運営が進むことも考えられる。

●コンビニに新しい要素を結合するローソン

 コンビニとは、食料品や飲料を中心に、必要最低限の生活必需品を消費者に提供する小売業の一形態だ。たとえば、朝食がないときにコンビニに行って必要な食料品を買うのは、コンビニを使う代表例だろう。

 経済産業省の商業統計では、コンビニは飲食料品小売業のひとつに位置付けられている。そのなかでも、コンビニとは売り場面積が30平方メートル以上250平方メートル未満、一日14時間以上営業する飲食料品小売業をいう。
この定義から、比較的小規模の店舗に飲食料品などを仕入れ、それを販売して収益を得ることが、コンビニの基本的なビジネスモデルだ。

 ローソンはこのビジネスモデルに、新しい要素を加えてきた。それは、セブンイレブンなどのライバルにはない品ぞろえや店舗運営を目指す取り組みといえる。コンビニ業界の競争は激化している。新しい取り組みを進めて消費者の満足感を高めることができないと、収益性が低下する恐れがある。

 ローソンの店舗に行くと、医薬品を取り扱っているところがある。コンビニで医薬品が手に入るのは便利だ。ただ、一般用医薬品を販売するためには、営業時間の半分以上、登録販売者を置かなければならない。この問題をクリアするために、ローソンは登録販売者を確保しつつ、医薬品を取り扱う店舗を増やそうとしている。これは、ライバルにはない取り組みだ。

 また、2017年1月、ローソンは競合他社に先駆けて、中国のIT先端企業であるアリババのモバイル決済システム「アリペイ」を全国で導入した。主たる目的は、中国などからの訪日客増加への対応だ。
ローソンの調査によると、スマートフォンを用いた支払いを選択する消費者の消費額は比較的多い。そうした消費者の取り込みも、ローソンがアリペイを導入した理由だろう。

 さらにローソンは、IoT(モノのインターネット)テクノロジーの活用も重視している。特に「ローソンスマホペイ」は、無人店舗運営に向けた取り組みだ。これは、消費者がローソンのアプリを使い、商品をスキャンして購入(決済)する仕組みだ。

●ローソンと三菱グループの関係強化

 こうした取り組みを、ローソンは独自の取り組みとして進めてきた。それに加え、ローソンは三菱グループのヒト・モノ・カネを活用して競争力を高めようとしている。ローソン銀行はその代表例である。

 17年2月、三菱商事は約1440億円を投じて、ローソンへの出資比率を50%超に引き上げ、子会社化した。人事面でも、玉塚元一会長が退任し、新社長に三菱商事出身の竹増貞信氏が就任するなど、三菱商事との関係が強化された。三菱商事の株式の5%程度は、MUFGが保有している。この資本関係が、ローソンが三菱商事を中心とする三菱グループのなかでコンビニ運営の強化を目指していると考える理由だ。


 三菱商事によるローソンの子会社化について、ローソンの経営の独立性が低下していると受け止めるアナリストもいる。しかし、銀行設立など新事業の育成のための資金を、ローソン単体の信用力で調達することは、そう容易なことではない。三菱商事の信用力を裏付けにしてローソンが資金調達のコストを抑えることは重要だ。また、企業間の関係を重視するのは、わが国経済の文化ともいえる。

 三菱グループとの関係強化によって、ローソンにはさまざまなシナジー効果が期待できるだろう。たとえば、三菱商事のロジスティックス(物流)ネットワークを活用することで、ローソンはコンビニの物流機能を強化できるはずだ。ローソンは、スマホで生鮮食品を予約する「ローソンフレッシュピック」の強化を重視している。ローソン単独で生鮮食品の物流網を確立するよりも、三菱商事のネットワークを従来以上に活用できたほうが効率的だ。

 ローソン銀行の将来を考えた場合にも、三菱グループとの関係強化は重要だ。三菱UFJ銀行は、「MUFGコイン」の開発など、フィンテック(金融とIT技術の融合)を重視している。ローソンが三菱グループとの関係を強化することにより、将来的にローソン銀行がMUFGのフィンテック技術を活用することもあるだろう。その結果、ローソン銀行が、他のネット銀行や小売り系の銀行にはないサービスを提供する可能性もある。


●ローソンに期待される新しい店舗運営への取り組み
 
 16年の年初頃にローソンの株価は最高値を付けた。それ以降、同社の株価は下落トレンドをたどっている。市場参加者は、同社がどのような成長を目指しているか、つかみかねていると考えられる。

 ローソンの経営陣に求められることは、三菱グループとの関係強化からもたらされるシナジー効果を早期に発現させていくことだろう。それができれば、ローソンは三菱グループとの関係強化の意義を市場参加者に示すことができる。

 具体的な取り組みを考えると、都市部においてローソンは無人店舗の運営を加速させる可能性がある。そのなかで、商社の物流機能がどのように役立っているかなど、具体的な成果が示される必要がある。

 また、ローソンには過疎化に直面する地方での取り組みも期待したい。ひとつの思考実験として、コンビニに食料品販売の機能に加え、インターネットや通販を通して注文した荷物の受け取りや配送の拠点、銀行の機能などが備わったと想像してみよう。その地域に住む人々にとって、そのコンビニを使う満足度は一段と高まるはずだ。

 そうした取り組みを考えることは、過疎化が進む社会における暮らしやすさを考えることでもある。ローソンがグループ内の物流や金融の知見、ネットワークを活かし、従来にはない付加価値を提供できるコンビニが誕生するとよい。


 すでに、コンビニと他の業種の融合も進んでいる。コンビニの機能をもつドラッグストアの出現はその一例だ。ローソンが他の業種と協働することも増えていくだろう。ローソンは医薬品販売、介護相談などの機能を備えた「ヘルスケアローソン」の店舗を展開している。医療機関などと連携して店舗運営を行うなど、ローソンが従来にはない発想で出店戦略を進め、その結果として人々の満足感を高めることができれば、同社の成長期待は高まるだろう。ローソンが、三菱グループの力を活用して、新しい取り組みを進めることを期待したい。
(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)

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