今回は身近なお金と所得税について、女性公認会計士コンビ、先輩の亮子と税務に強い後輩の啓子が解説していきます。

啓子「亮子さんはギャンブルしますか?」

亮子「私は一切しないなあ。

突然どうしたの? もしかしてギャンブルで大金持ちになったとか?」

啓子「いいえ、私もしないのですが、カジノを含む統合型リゾート施設(IR)に関する法律も成立しましたし、税制もどうなるのかなあ、となんとなく気になって」

亮子「なるほど。カジノで勝った場合の所得税やつぎ込んだお金の取り扱いなど、確かに気になるね」

啓子「というわけで、節税につながるかはわかりませんが、今回は身近なお金と所得税について、触れてみたいと思います」

●身近なお金に税金はかかるのか?

 突然ですが、クイズです。以下のうち、所得税がかかるものはどれでしょう?

(1)競馬の当たり馬券の払戻金
(2)宝くじが当たって得たお金
(3)クイズ番組の賞金で得たお金
(4)拾って(最終的に持ち主が見つからず)得たお金
(5)株を保有していることによって得た株主優待

●競馬の払戻金は規模によって所得の種類が変わる!?

(1)の競馬の当たり馬券の払戻金には、所得税がかかります。所得税を計算するにあたって、所得は10種類に分類されるのですが、一般的な競馬観戦者が得た払戻金は、「一時所得」に分類され、所得税が課せられることになります。一時所得とは、「営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の所得で、労務や役務の対価としての性質や資産の譲渡による対価としての性質を有しない一時の所得」と定義されています。つまり、事業で得た所得、労働の対価や不動産の譲渡などで得た所得以外の一時に受け取った所得のことを一時所得といい、競馬などで得た払戻金も一時所得に該当します。

 競馬の払戻金である一時所得は、次のように計算をします。

・(1年間の馬券の払戻金合計-1年間の当たり馬券の購入費合計額-50万円(※))×1/2

※50万円は特別控除額といって、上限50万円まで収入から差し引くことができます。

 たとえば、1年間の馬券の払戻金合計が200万円、1年間当たりの馬券の購入費合計額が60万円だとすると、次のとおり一時所得は45万円となります。

・(200万円 - 60万円 - 50万円)×1/2= 45万円

 仮に税率が30%(所得税率20%+住民税率10%)となる会社員の場合には、競馬の払戻金にかかる税金は約13.5万円(45万円×30%)となります。また、計算式のとおり、1年間の払戻金から当たりの馬券購入費用を差し引いた後の金額が50万円を超えない場合には、一時所得が0円となりますので、税金がかからず確定申告も不要です。

 例外的に、競馬の払戻金が「雑所得」となる可能性もあります。
「雑所得」という所得は給与所得や事業所得、一時所得など9種類の所得いずれにも該当しないものをいいます。

 このケースにあてはまる場合とは、「馬券購入の期間、回数、頻度その他の態様、利益発生の規模、期間その他の状況等の事情を総合考慮して区分される」とされています。

 たとえば、馬券の購入を機械的に大規模に行っていて、その事実を証明する記録が残っている場合には雑所得に該当する場合があります。実際に馬券を自動的に購入するソフトウェアを使用し、年間を通じて利益が出るように一定の購入パターンを組んで利益を得たという事例で、雑所得とされた例もあるようです。

 一時所得ではなく雑所得とされた場合にも、基本的な所得計算の考え方は同じで、収入から費用を差し引いて所得を計算することになりますが、いくつか違う点がありますので、次にそれぞれの違いについてみていきましょう。

●ハズレ馬券を捨てないほうが良い可能性も

 一時所得の場合には、年間の払戻金から当たりの馬券の購入費合計を差し引いて所得を計算しましたが、雑所得に分類される場合には次のように計算をします。

・雑所得 = 1年間の馬券の払戻金合計 - 1年間の馬券購入費合計(ハズレ馬券含む) 

 一時所得と雑所得の異なる点は、ハズレ馬券購入費用も収入から差し引くことができるか、50万円を差し引くことができるか、最後に2分の1を乗ずるか、という3つです。たとえば、払戻金が200万円で当たり馬券購入費が100万円、ハズレ馬券購入費150万円というケースを前提に、(1)一時所得と(2)雑所得それぞれどのようになるか、計算をしてみます(税率は所得税・住民税あわせて30%として計算します)。

(1)一時所得の場合

・1年間の馬券の払戻金合計200万円 - 1年間の当たり馬券の購入費合計額100万円 - 50万円)×1/2=25万円
・一時所得25万円 × 30% =税額7.5万円

(2)雑所得の場合

・1年間の馬券の払戻金合計200万円 - 1年間の馬券購入費合計(100万円+150万円)= △ 50万円
・雑所得は50万円の赤字となり、税金は0円となる。

(1)は7.5万円の税金がかかるのに対して、(2)はハズレ馬券の購入費用も収入から差し引くことができるため、所得が赤字となり税金が0円となるため、雑所得のほうが有利となります。ただし、国税庁の見解としては雑所得に該当する場合は特殊な例であって、「いわゆる一般の競馬愛好家の方」については一時所得に該当し、ハズレ馬券の購入費用は収入から差し引くことはできないとされているため、注意をしてください。

●みんなでお金を出し合って馬券を購入した場合は?

 みんなでお金を出し合って馬券を購入した場合には、誰にどのように課税されるのでしょうか?

 これは一律にどのように課税されるか断定しがたい事象ですが、基本的には実質的に判断されることになります。
つまり、お金を出し合って購入し、当たった払戻金をそれぞれに配分した場合には、実質的に儲けを受け取った人に課税されることになります。共同して購入する金額が高額な場合には、明らかに共同して購入したとわかる通帳などの根拠資料があると安心です。仮に、「代表者が購入して儲けを得た」と客観的に見えてしまうと代表者に所得税が課税され、各々に配分した儲けは贈与として贈与税が課されてしまう可能性もあります。

●競馬の払戻金の確定申告はどうすればいい?

 確定申告書は税務署で入手するか、国税庁のウェブサイトで簡単にわかりやすく入力できるサイトがありますのでインターネットで検索をしてみてください。勤務先から受け取る源泉徴収票をもとに確定申告書に給与所得に関する情報を記載し、確定申告書の一時所得または雑所得を記載する欄に、先ほどの計算式により算出した所得を記載して最終的な税金の計算をすることとなります。確定申告書と一緒に源泉徴収票も添えて税務署へ提出します。1年間の馬券払戻金合計がわかる資料と1年間の当たり馬券(雑所得の場合はハズレ馬券も)は提出する必要がなく、ご自宅で根拠資料として保管しておけば大丈夫です。

●もしも宝くじが当たったら

(2)の宝くじに当たって得たお金には、税金がかかりません。すでに税金が徴収されているようなものだからです。宝くじの購入金は約40%が収益金として発売元の都道府県などに納められ、教育や福祉などに使用されています。そのため、宝くじを購入した時点で税金を払っているような仕組みとなっていて、改めて当選金に税金がかからないこととなっています。

●海外で購入した宝くじが当たった場合

 海外旅行や海外出張の際、海外で売られている宝くじを購入する機会もあるでしょう。
運よく当選した場合には、日本で税金がかかります。日本の宝くじに税金がかからない理由は、購入時点ですでに納付しているに等しいからでした。一方、海外で当たった当選金は、日本の税金が徴収されていないため、一時所得として所得税を計算することになります。

 なお、外国の宝くじの当選金について、その国でも課税がされる場合には日本と購入した国の税金について二重課税となるため、「外国税額控除」という制度の適用を検討することとなりますが、難しい制度ですのでそのような場合には専門家に聞くことをお勧めします。

亮子「競馬の払戻金が、規模によって異なるのは、なんだか不思議」

啓子「はい。雑所得になるのは、本当に特殊なケースですけれどね」

亮子「宝くじの賞金は、すでに色々な用途にお金を使った残りを分配しているから、さらにここから税金を納めることはないのね」

啓子「次回はクイズの残りの3つの答えを見ていきますね」
(文=平林亮子/公認会計士、アールパートナーズ代表、徳光啓子/公認会計士)

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