「まるで“第二の加計学園”じゃないですか?」

 ある自治体関係者が思わず漏らした言葉に、事件の本質が潜んでいた。

 獣医学部を新設するために、96億円の補助金をはじめとして200億円近い税金が投入される加計学園を誘致した愛媛県今治市。獣医学部新設をめぐる選定プロセスばかりが取り沙汰されたが、獣医学部を誘致した地元に巨額の補助金に見合うリターンがあるのかと問われたら、誰もが答えに窮するだろう。

 それとよく似た構造なのが、2019年秋に開業が予定されている和歌山市の“ツタヤ図書館”である。

 新しい市民図書館が設置されるのは、総事業費123億円をかけて建設される和歌山市駅前の再開発エリアだ。この再開発事業を進める南海電鉄には、総額で64億円の補助金が支給される。図書館部分の建設費30億円などを合わせると、図書館を目玉とした和歌山市駅前再開発事業に投入される公金は、合計94億円にも上る。

 123億円の駅前再開発事業を、南海電鉄は自己負担25億円で手に入れるわけだが、「94億円の公金に見合うリターンを和歌山市民は得られるのか?」との素朴な疑問に、おそらく即答できる人はほとんどいないに違いない。

 そんな非常識なスキームが、どうして可能になったのだろうか。これは構造が複雑なので、ここからは、いくつか論点を絞って話を進めていきたい。

●巨額補助金を“引き出した”国土交通省の官僚

 第一のポイントは、国の巨額補助金を可能にした“国土交通省からの天下り”である。

 レンタル大手TSUTAYAを全国展開するCCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)が13年から運営する佐賀県武雄市図書館・歴史資料館、通称・ツタヤ図書館に14年11月13日、和歌山市から官民合同の視察団が大挙して訪れていた。地方議員の視察は特段珍しくもないが、ほぼ全員が実務者である市と県の職員に加えて、プロジェクトの幹事社である民間事業者も連れ立った合同視察となると、その意味合いはかなり異なってくる。

 和歌山市から武雄市を視察した視察団は総勢15名。うち行政側は、和歌山市から4名、和歌山県庁から3名の計7名。そのなかで、ひときわ異彩を放っていたのが、県都市住宅局・都市政策課長(当時)の皆川武士氏である。

 皆川課長は、もともと県庁の人ではない。12年に国土交通省から人事交流で派遣されてきた若手のキャリア官僚だ。当時まだ30代で、一般的な「天下り」には当てはまらないかもしれないが、中央官庁からの影響力を背景にした人事であることに変わりはない。

 行政側と開発主体である南海電鉄が定期的に協議する調整会議にも、皆川課長は発足当初からほぼ毎回出席している。そして、15年7月に退任して国交省に戻る際には、地元メディアに「皆川課長は、任期中(中略)、和歌山市駅前の再開発に道筋を付けました」と報じられた。

 新図書館を目玉とした和歌山市駅前再開発プロジェクトには、少なくとも64億円もの補助金が投入される見込み。その半分の32億円は国から交付される。和歌山市駅前の再開発は、16年に国交省が管轄する社会資本総合整備計画事業に認定されていることからすれば、巨額の補助金獲得に国交省出身の皆川氏が少なからぬ役割を果たしたと考えるのが自然だ。

●和歌山市長と和歌山県県土整備部のつながり

 2番目のポイントは、国の補助金と結び付いた政治との関係である。

 武雄市の視察に、和歌山市から参加した4名の顔触れをみると、こちらにもキーマンがひとりいた。和歌山市都市計画部の「部長級」とされている中西達彦氏である。同氏について、ある自治体関係者はこう話す。

「中西さんは県庁から市の都市整備課に人事交流で来た専門技官です。確か、16年には県庁に戻って県土整備部の都市住宅局長になっているはずです」

 都市住宅局といえば、前出の皆川氏がいた部署である。14年8月に市長に当選した尾花正啓氏の古巣が県土整備部だったことを考えれば、中西氏は市長が古巣から連れてきた「懐刀」という見方もできるかもしれない。

 ちなみに、尾花市長の後任として県土整備部長になった石原康弘氏も、皆川氏と同じく国交省から人事交流で和歌山県庁に来ていたが、皆川氏と同じタイミングで本省に帰任している。さらに、皆川氏の県庁での後任も国交省から来た若手キャリアだ。

 2人のキーマンから浮かび上がるのは、総事業費123億円におよぶ和歌山市駅再開発の計画を主導していたのは、国交省だったのではないかという疑問である。

 国交省関係者は、人事交流についてこう話す。

「市のレベルでは(国交省との人事交流は)あまりありませんが、県庁なら双方向であります。国交省は現場を知らない人物では務まらないし、逆に自治体は制度を知らないといけない。そのため、双方向からの交流は有意義です。補助金の制度も頻繁に改定されているので、そこをサポートする意味でも、国からの派遣は重宝されるのではないでしょうか」

 国の補助金を上手にひっぱってくるためには、国交省キャリアの力は欠かせないということなのだろうか。ある図書館関係者は、逆の立場から、国と自治体との関係をこう解き明かす。

「国が推進するコンパクトシティ計画(都市再生特別措置法に基づく立地適正化計画)が着々と進んでいます。もともと図書館は集客能力が高く、地方ではこれを入れた立地計画があちこちで進められました。図書館を目玉にした国交省・県と建設設計業者のかかわり、さらには図書館を指定管理にすることで指定管理業者とのかかわりが生まれ、地元の業者や役所の双方が甘い汁を吸う構造だと思います。

 私がいた自治体でも、土木部長は国からの出向でした。大きな都市のほとんどが同様の構造になっていると思います。建設に限らず、国はそのようなかたちで内側から自治体を支配しているように考えられます」

 国から補助金を受けられる事業として認定されるためには、人が呼べる公共施設は不可欠。なかでも図書館は中心拠点誘導施設として最適。まさに、巨額補助金が支給される駅前再開発のダシに図書館が使われているといえる。

 では、和歌山市では、どのようにして和歌山市駅の再開発は話が進んだのだろうか。ある市議会関係者は、尾花市長就任の経緯を次のように明かす。

「大橋建一前市長は、ハコモノが大嫌いな人でした。とにかく財政を立て直すことを優先していたので、保守系からは『失われた10年』などと揶揄されていたほどです。その後任としてかつがれたのが、県の県土整備部長だった尾花さんでした。そのため、周りの期待はかなり大きかったと思いますよ」

 当時、市政の当面の課題だったのが、乗降客数が減り続けていた和歌山市駅とその周辺の再開発。乗降客数は1日2万人と、1972年の駅ビル完成当時と比べて半減。駅前の賑わいのシンボルだった高島屋が13年に撤退を表明してからは、市議会や県議会でも中心市街地の空洞化対策に関する質問が相次いだ。

 そんななか、大橋前市長の市長選不出馬表明を受けて登場したのが、県土整備部長だった尾花氏だ。13年秋に県庁を60歳で退職し、14年8月に市長に当選後は、盤石な政治基盤を築いてきた。

 そんな尾花氏が市長に就任する直前から始まり、市と県と南海電鉄の三者で和歌山市駅再開発について話し合うために設置されたのが、「南海和歌山市駅活性化調整会議」だった。

●ツタヤ図書館誘致を導いたコンサルタント

 3番目のポイントは、ツタヤ図書館という「集客装置」を計画の中にあらかじめ盛り込んだコンサルタントの存在である。

 先述した通り、14年11月には調整会議メンバーが和歌山市から大挙して武雄市の図書館に押し寄せている。すでに復命書は廃棄されているので詳細は不明だが、総事業費123億円の市駅再開発プロジェクトの目玉となる、自称「年間100万人が押し寄せたツタヤ図書館」は、視察団の目にどう映ったのだろうか。

 視察2カ月前の14年9月に発表された行政文書を見てみると、都市計画の公共施設配置の構想のなかには、すでに武雄市と宮城県多賀城市における「CCCが運営するツタヤ図書館」がクッキリと描かれていた。

 そこでは4つの事例が紹介されているが、指定管理者がクローズアップされているのは武雄市と多賀城市。この時点で多賀城市は、まだ新装開館どころか、建物すら完成していないにもかかわらずだ

 この案を基に都市計画が15年に策定され、16年には国交省の社会資本総合整備計画事業に認定された。発表された事業構想では、ホテルや商業施設も入るオフィスビルに駐車場、駅前広場などの整備が盛り込まれていたが、事業の目玉は、駅ビルを建て替えた後に建設される4階建の新市民図書館だった。

 いったい、誰がこんなに巨額の補助金が出る開発計画の絵を描いたのだろうか。その点については、次号で詳しく迫っていく。
(文=日向咲嗣/ジャーナリスト)