厚生労働省が発表する国の基幹統計である「毎月勤労統計調査」の不適切な方法が大きな問題となっている。政府統計は、政策を決定するための重要なベース。
「毎月勤労統計調査」は国の基幹統計のひとつ。従業員500人以上の事業所については全てを調査対象とし、賃金や労働時間の実勢を把握する。その結果は、雇用保険や労災保険の給付額の算定基準となる。
しかし、東京都分では2004年から15年間にわたり調査対象となる約1400のうち、3分の1しか調べていなかった。その際、賃金の高い大企業を除外し、中小企業を調査対象としたため、統計では賃金が実際より低く算定され雇用保険と労災保険の過少給付が生じている。特に、2018年分からは勝手に統計を「修正」するという杜撰な実態が明らかになっている。過少給付の総額は約540億円にのぼり、影響は延べ約1970万人に及ぶと見られている。
不正はこれだけではない。昨年、「毎月勤労統計調査」で発表される2018年1月以降の賃金伸び率が急激に上昇し、それまでの統計データとの明らかな乖離が問題になった。同月からの統計で、従業員に支払われる「現金給与総額」(名目賃金)の前年比増加率が昨年の平均0.4%を大きく上回り、8月に発表された6月の同調査では、労働者1人当たりの現金給与総額(名目賃金)の平均が、速報で前年同月比3.6%増を記録(確報では3.3%)となった。
「毎月勤労統計調査」では、調査対象事業所のうち30人以上の事業所については2~3年ごとに無作為抽出した事業所に総入れ替えしていたが、2018年1月分の調査から約半数を入れ替える方式に変更。この際、賃金の高い企業を中心に入れ替えたため、“いかにも賃金が上昇しているかのような”結果となった。通常、統計のベースとなる取得データを変更した場合には、変更に合わせて過去の統計を修正・改訂するのが当たり前。厚労省は、それすら怠っていた。
賃金上昇の統計が発表されたことで、マスコミはこぞって「アベノミクスの成果」などと称賛したが、実態は「つくられた嘘の数字に踊らされたもの」であり、厚労省がアベノミクスの成果を強調するために、統計数字を“忖度”したのではないか、との疑惑まで指摘された。
●名目GDPに“水増し”との指摘も
さらに、「毎月勤労統計調査」をベースにしている内閣府の「雇用者報酬」でも賃金の急上昇が認められている。昨年には、経済産業省がまとめる「繊維流通統計調査」で改ざん、「貴金属流通統計調査」ではデータのミス、国土交通省の「建築着工統計調査」では計上ミスが発覚した。今年に入っても、総務省は1月10日、「消費動向指数」に誤りがあると発表、2018年4~11月分を修正するとした。
今月に共同通信社が行った世論調査では、政府統計を「信用できない」との回答が78.8%にのぼった。「信用できる」はわずか10.5%だけだった。政府説明に関しても、69.1%が「納得できない」と回答し、政府統計への強い不信感が浮き彫りになった。
言うまでもなく、政府統計は政策を決定する際の重要なベースとなる。
昨年は、最重要政府統計である名目GDP(国内総生産)でも、恣意的な数字の調査が指摘された。2016年にGDPの推計方法を変更し、「研究開発投資」を追加して加算するなどの見直しを行ったことで、名目GDPが“水増し”された。GDPの信頼性に疑問を持った日本銀行が、データの提供を求め、独自にGDPを算出しようとする事態まで起こった。
改ざん、不適切な調査などにより発表された政府統計の多くが、アベノミクス政策の効果を示すような結果になっていることは興味深い。 “忖度が働いている”との疑問を持たれても仕方ないだろう。国民生活を支える政府の政策のベースとなる政府統計には、絶対に不正があってはならないことはいうまでもない。
(文=鷲尾香一/ジャーナリスト)