監禁、暴力、爆破などの過激なシーンが満載の学園クライムサスペンス『3年A組 ―今から皆さんは、人質です―』(日本テレビ系)。
「視聴率が獲れないから」と学園が舞台の作品が激減し、「視聴率を獲るため」に1話完結の事件ドラマが量産されるなか、ワンテーマを追う長編サスペンスを選んだこと自体、チャレンジ精神を感じる。
また、教師の不祥事、いじめによる自殺、学級崩壊などの深刻な学校問題が次々に報じられるなか、「不謹慎狩り」のリスクを恐れない姿勢も評価されてしかるべきではないか。
そんな姿勢が視聴者に伝わったのか、平均視聴率は1話から10.2%、10.6%、11.0%、9.3%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と、日曜22時30分からの放送としては明らかな好結果を得ている。
同作は、なぜ支持されているのか? 一方で、どんな死角があるのか? それぞれのポイントを解説していく。
●極端な設定とネタバラシの狙いとは
まず「教師が生徒を監禁する」という極端かつシンプルな設定は、脳内刺激を求め、ながら視聴の多い若年層への訴求度が高い。
さらに、実は刑事が仲間だったり、生徒が殺されていなかったり、主人公が病気を抱えていて倒れたり……。ネタバラシのスピード感が速いのも、モタモタ展開を嫌ってバッサリ斬り捨てる若年層対策に見える。
主人公の柊一颯を演じる菅田将暉を筆頭に、永野芽郁、川栄李奈、上白石萌歌、今田美桜、福原遥、堀田真由、大原優乃、箭内夢菜、鈴木仁、片寄涼太、萩原利久、今井悠貴ら、すでに同年代のファンを持つ若手俳優を大量起用したことからも、若年層シフトは明らかだ。
各話のストーリーとしては、「教師の柊と週替わりでフィーチャーされた生徒が1対1で向き合い、激しい言葉をぶつけ合う」というクライマックスを定番化させている。そのイメージは、1970年代の中村雅俊か、それとも80年代の武田鉄矢か。昭和の学園ドラマを思わせる熱量たっぷりのやり取りは、かなりクサイ。大人の年代にとっては「かつて見たようなシーン」だが、若年層には「今どきめったに見られないシーン」で新鮮味があるのかもしれない。
ただ、序盤はインパクト十分だったそれらのシーンも、視聴者は刺激に慣れて飽き始めている。
しかし、4話の最後で柊が倒れたのは、「ここから物語が大きく動きますよ」というメッセージだろう。ここまで各話ひとりずつ若手俳優をフィーチャーしてきたのは、映画や演劇では見られない連ドラならではの前振りであり、「本当の問題や核心は別のところにある」ことの示唆でもある。
●緊張感を薄め、笑えない教師の寸劇
だからこそ気になったのは、目立ちたがり屋の教師・武智大和(田辺誠一)を中心にした教師たちの脱力感に満ちた寸劇。同作最大の魅力であるシリアスで狂気に満ちたムードを分断するものであり、実際に緊張感は薄れている。
これは低視聴率の作品に浴びせられる「重すぎてつらい」「暗い気持ちになるものは見たくない」という声を制作サイドが気にしたからではないか。ただ、シリアスなシーンからホッと一息つくように、クスッと笑わせられればいいのだが、現状では「笑えない」「寒い」という声が目立っている。
序盤から「柊はサイコパスと見せかけて、人情味がある」というカットを何度となく差し込んでいたのも同様の理由だろう。「視聴者から嫌われないためにバランスを取ろう」とする制作サイドの姿勢がうかがえる。
しかし、バランスを取った分、緊張感は薄まり、最後のカタルシスは小さなものになってしまう。たとえば、2005年に放送された『女王の教室』(同)の女教師・阿久津真矢(天海祐希)は、子どもたちに厳しい言葉を浴びせ続け、恐怖での支配を徹底したことで、最後に見せた笑顔が大きな感動を誘った。
当作も、柊がもっとサイコパスな振る舞いに徹したほうが、最後の感動は大きくなるだろう。
もちろん制作サイドも、それくらいのことはわかっているのだが、「大コケしないように、バッシングされないように、バランスを取らなければいけない」のがつらいところだ。
●サスペンスからミステリーへの変化
2月3日放送の5話では、柊が倒れたことで生徒たちの心が大きく動きだす。
柊を心配する生徒もいれば、懸命に脱出方法を探す生徒や、外部と連絡を取る生徒もいる。さらに、死んだと思われていた6人の生徒が合流し、「まさかの訴えをする」という。
「教師が生徒を監禁する」という状況が崩れたことが意味するのは、「スリルを楽しむサスペンス」から、「結末を予想して楽しむミステリー」への変化。もっといえば、当作の醍醐味はサスペンスやミステリーではなく、「生徒たちの意識が変わり、教師との強い絆が育まれる」という密室劇ならではの人間ドラマではないか。
もちろん、「黒幕は誰なのか」「先生グループのあいつが怪しい」などと推理をして楽しむのもいいし、のちに「今思えば『3年A組』のキャストがすごかった」という記事が報じられることを踏まえて、最後まで見届けるのもいいだろう。
ともあれ、終盤は間違いなく盛り上がるタイプの作品だけに、「まだ見ていない」という人は、公式ホームページに各話5分でまとめたダイジェスト動画があるので、チェックしてみてはいかがだろうか。
(文=木村隆志/テレビ・ドラマ解説者、コラムニスト)