今回は親との同居と税金の関係について、女性公認会計士コンビ、先輩の亮子と税務に強い後輩の啓子が解説していきます。
亮子「結婚して、相手の親と同居するってアリ?」
啓子「うーん、今のところ、現実味がないのでわかりません(笑)」
亮子「私の知り合いで、同居している人がいるのだけど、良い面と悪い面があるみたい。
啓子「そうですね。どんなことにも両面あると思います」
亮子「そういえば、税制にも親との同居によって得られるかもしれない良い点があったよね?」
啓子「では、親との同居について、税制面から考えてみましょう!」
●親との同居で得られる可能性があるのは、扶養控除と小規模宅地等の特例
親との同居が節税につながることもあります。扶養控除の適用による所得税の軽減や、小規模宅地等の特例の適用による相続税の軽減の可能性があるのです。
「扶養控除」は、誰かを扶養している分、税金負担を軽減する趣旨の制度です。一般的には子供を扶養している場合に利用する制度として知られていると思いますが、親を扶養している場合でも利用することができます。扶養控除は所得控除の1つです。一定金額を差し引くことで課税される所得を減らすことができ、その結果、所得税が軽減されるという仕組みです。同居は必須要件ではありませんが、同居していると税金の軽減度合いが高くなります。
一方、小規模宅地等の特例とは、相続税の計算の際に使える制度です。たとえば親が亡くなって、親が持っていた居住用の土地を相続する場合。その土地は時価に基づいて評価され、その評価額に応じて相続税が課せられるのですが、この特例を適用することができれば、評価額を時価よりも低くすることができ相続税の負担を軽減することができるのです。相続税の支払いのために住み慣れた住居を手放さなくてもいいようにしようという趣旨に基づく制度です。
●扶養している親がいるなら同居がお得?
親を扶養している場合に利用できるのは「老人扶養控除」です。親に限定されるものではなく、扶養する親族の年齢が70歳以上で、次の要件を満たした場合に適用可能です。
(1) 配偶者以外の親族(6親等内の血族及び3親等内の姻族をいいます)又は市町村長から養護を委託された老人であること。
(2) 納税者と生計を一にしていること。
(3) 年間の合計所得金額が38万円以下であること (給与のみの場合は給与収入が103万円以下)。
(4) 青色申告者の事業専従者としてその年を通じて一度も給与の支払いを受けていないこと又は白色申告者の事業専従者でないこと。
なお、70歳という年齢はその年の12月31日時点の年齢で判断することになります。たとえば、平成30年分の所得に扶養控除を適用する場合には、平成30年12月31日時点で70歳となっている人が対象となります。
同居していなくても扶養控除を利用でき、所得から差し引くことができる金額は48万円となります。扶養している親族と同居している場合には10万円を上乗せして58万円を所得から差し引くことができます。
同居しているかどうかでどれだけ税金が変わるのでしょうか。仮に、所得税率20%の人が70歳以上の両親を扶養している例で考えてみましょう。
同居していない場合には扶養親族一人あたり48万円の控除を受けることができるので、所得から差し引くことができる金額は96万円(48万円×2人)となります。所得がその分減るので、19.2万円(96万円×20%)所得税を軽減することができます。
一方、両親と同居している場合には、扶養親族一人あたり58万円の控除を受けることができるので、所得から差し引くことができる金額は116万円(58万円×2人)となります。所得がその分減るため、23.2万円(116万円×20%)の税金が軽減されることになります。
また、住民税も軽減することができますが、所得税法上の控除額と金額が異なります。住民税の計算上、同居していない場合に扶養親族一人あたり38万円、同居している場合に扶養親族一人あたり45万円を所得から控除することができます。住民税率は一律10%なので、同居していない場合には7.6万円(38万円×2人×10%)、同居している場合には9万円(45万円×2人×10%)住民税が軽減されます。
その結果、所得税・住民税合わせて軽減される税額は同居していない場合26.8万円、同居している場合は32.2万円となりますので、同居のほうが税金は約5万円多く軽減されるということになります。
なお、同居はせずに地方に住む両親を扶養しているというケースもあると思いますが、この場合に扶養控除を適用するためには、実際に生活費や療養費等のために両親へ仕送りとして銀行振込や現金書留による送金など、実際に両親と「生計を一」としているという証拠が必要になります。
●夫婦共働きで一緒に親を扶養している場合
夫婦共働きの場合で、かつ両親を扶養している場合には、どちらから扶養控除することができるのでしょうか。両親を扶養している状態であれば、夫婦どちらでも扶養控除を適用することができますが、収入の多いほうに扶養控除を適用するとお得になります。所得税は所得が多ければ多いほど税率が高くなります。そのため、一般的には収入が多いほうに扶養控除を適用すると良いでしょう。
ただし、所得の多いほうに扶養控除以外に適用できる所得控除が多くある場合や、夫婦の収入に大きく差がない場合には、扶養親族が複数いれば夫婦に分散させて扶養控除を適用するというのも一つの方法です。
●扶養控除は年末調整で
一般的な会社員の場合、勤め先が税金計算をする年末調整で扶養控除の手続きをすることができます。
勤め先から年に1回、上記のような扶養控除等申告書という用紙が配られます。この用紙の赤枠部分が扶養親族に関する情報(名前や生年月日など)を記載する箇所なので、ここに扶養している親族の名前などを記載しましょう。そして、この扶養控除等申告書を勤め先に提出すれば手続き完了です。勤め先が代わりに所得税の税金計算をして手続きをしてくれます。また、住民税についてもそのまま自動的に計算されますので、この用紙を正確に記載して、勤め先に提出しさえすれば、手続き完了です。
なお、過去の年末調整で申請を誤っていたり、申請が漏れていた場合でも、過去5年以内であれば遡って申告することができますので、あきらめずに手続きをしてみてください。
確定申告する場合には、扶養控除を適用する年分の源泉徴収票を用意してください。その源泉徴収票をもとに給与収入や給与所得などの金額を確定申告書に記入して、所得控除の欄には扶養控除の金額を記載して所得税を計算し申告することになります。還付される銀行口座の記載箇所がありますので、口座情報を記載しておくと後日還付される税金が振り込まれることとなります。
亮子「今回、扶養という言葉が出てきたけれど、年金制度における扶養とは要件が異なるから注意が必要だね」
啓子「民法でも扶養という言葉が出てきますが、それぞれがどのような意味で使われているのか、気をつけないといけません。今回は、税務上の扶養控除について解説しました」
亮子「控除自体は、それほど大きいとはいえないかもしれないけれど、要件に当てはまるなら、しっかりと控除しておいて損はないよね」
啓子「はい。税金が軽減されるのであれば、適用しない理由はありません。次回解説する小規模宅地等の特例は影響額がもっと大きくなる可能性がありますから、併せて知っておいてほしいです!」
(文=平林亮子/公認会計士、アールパートナーズ代表、徳光啓子/公認会計士)