公共事業の落札者が、入札の2年前に“談合”で決まっていた。
今秋、新装開館が予定されている和歌山市民図書館の建設を含む再開発プロジェクトに関して、談合の動かぬ証拠が出てきたのだ。
同館は、南海電鉄・和歌山市駅前に移転後、全国でレンタル店「TSUTAYA」を展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)を指定管理者に選定、いわゆる「ツタヤ図書館」として開館することが決まっている。その不透明な選定過程を当サイトでは、これまでたびたび取り上げてきたが、今度はその図書館が入る総事業費123億円の再開発プロジェクトに、談合疑惑が飛び出してきたのだ。
下の図は、新図書館が入る予定の駅前再開発について、市民が市に情報開示請求を行い、2月4日に開示された文書である。
施主である南海電鉄が、設計関連業務の指名競争入札を実施。「資金計画作成業務」「基本設計業務」「実施設計業務」など、横列に並んだ業務について「入札日」や「予定価格」「契約額」が記載されている。
これら一連の設計関連業務をアール・アイ・エー(RIA)がすべて落札した。5つの業務の落札総額は、4億円を超える。
注目したいのは、最初の「資金計画」の入札日が「平成28(2016)年8月1日」となっている点である。
一般常識で考えれば、このあとにRIAが資金計画を立案して発表するはずだ。ところが、そこから溯ること1年半前の関係者会議の席において、すでに同プロジェクトの資金計画がRIAによって発表されていたことが別の資料からわかった。それが下に示した会議資料だ。
「南海和歌山市駅周辺活性化調整会議 幹事会 記録」と題された文書の日付は「平成26(2014)年12月17日」となっている。
つまり、落札日よりもずっと前に資金計画は作成されていたのだ。
南海電鉄と和歌山市、和歌山県の三者が集まる関係者定例会議の席で堂々と発表されていたのだから、「あからさまな談合」とのそしりは免れないだろう。
新図書館が入る総事業費123億円の同プロジェクトは、南海電鉄に対する補助金だけで64億円に上り、駅ビル完成後に市が新市民図書館を30億円で買い取る分も入れると、総額で94億円もの公金が投入される予定だ。
それほど巨額の税金が使われる事業であるにもかかわらず、和歌山市と南海電鉄が公表しているのは、施工を担当する事業者の選定のみ。そのほかの計画・設計業務については、筆者のたび重なる開示要請を両者とも頑なに拒否し続けてきた。
しかし、当サイト上での一連の報道や、地元図書館サークルなど市民の粘り強い働きかけの結果、ついに市は2月4日に落札情報を開示するに至った。その情報を、筆者がこれまで入手してきた関連文書と照らし合わせてみたところ、談合疑惑が発覚したという経緯である。
●和歌山市「業界では慣例的に行われている」
さて、この動かぬ証拠について、当事者はどう釈明するのだろうか。
まず和歌山市の担当者に問い合わせたところ、開示された資料に記載されている、資金計画入札日が16年8月1日であることは「間違いない」と認めた。一方、その1年半前の14年12月17日に開催された関係者会議の出席者欄に、この担当者の名前があったため「出席したのを覚えているか?」との問いには、「かなり前のことなので記憶にはないが、資料を確認したら、確かにその会議は開催されている」とあいまいな返答だった。
さらに、「その落札の2年前にRIAが資金計画をすでに発表しているのは、いったいどういうことなのか」と問うと、次のように釈明した。
「資金計画と一口に言っても、実際の再開発計画を正確に進めるうえでの正式な資金計画と、『だいたいこれくらいの費用がかかってくる』『こういった項目の費用が必要』という情報を関係者に説明する、ざっくりした資金計画がある。落札の2年前にRIAが発表したのは、その概算的な資金計画のことだ」
そのうえで、この行為はなんら問題ないとする見解を示した。
「再開発プロジェクトが立ち上がったばかりの頃に、コーディネーターがざっくりした資金計画案を作成して関係者に発表することは、業界では慣例的に行われている。不適切でもなんでもない。最初は“手弁当”で入ってくる事業者もいるほどだ」
もう一方の当事者である南海電鉄にも見解を求めたところ、こう回答した。
「14年12月17日の会議での資金計画は、正式に都市計画を策定する前に、当社がRIAにコンサルティングしてもらい、そのうえで都市計画とは別に“私案”として会議で発表したもの。都市計画は非常に複雑なので、当初ざっくりした計画を立てて説明することは必要だ。補助金とは別に、当社の独自予算で策定した。それを、内容に精通しているRIAに発表してもらった。RIAとは14年に契約している。何月何日に契約したかまでは言えない。少なくとも、RIAが調整会議に出席してくる14年7月までには契約している」
なお、RIAに対しても、事情を聴きたいと何度か連絡したが、いずれも「担当者がいない」とのことで、締め切りまでに回答を得ることはできなかった。
再開発プロジェクトを進める場合、正式に発注する前にコーディネーターが事業計画の素案を立てるのは、業界では慣例的に行われていると和歌山市の担当者は説明するが、一般の市民感覚からすれば、とんでもない非常識な行為に映る。
のちに入札に参加する予定の事業者の1社だけを特別待遇し、何年も前から役所の関係者会議に毎回出席を許され、なおかつ事業の計画を発表しているのだから、まさに「ズブズブの癒着関係」ではないのか。
ある図書館関係者も、こう言って呆れる。
「和歌山市の主張は、言いかえれば“業者との癒着は当たり前”ということになりかねません。『再開発事業では癒着は当たり前で、癒着とは言わない』と言っているように聞こえます」
ある国交省OBは、この事業プロセスの問題点をこう指摘する。
「このプロジェクトを始めるしょっぱながどうなっているかが大事です。大きな再開発になると、役所だけでは計画できないですから、当然、民間に構想や計画を依頼することになります。そのとき、指名でもオープンでもいいですが、『こういうことを考えているよ』という構想や計画を何社かにプレゼンしてもらい、それを審査して優れたところに決めるというのが、役所の基本的なルールです。今回、民間の南海電鉄が施主になっていますが、税金を使う公共事業である以上、その責任は同じです。東京オリンピックのメイン会場となる国立競技場の設計に関して、コンペを行ったのと同じように、何社か参加してオープンで決めるわけです。公共事業では、『公平・公正』という原則を踏み外したら絶対にダメですよ」
今回のプロジェクトをスタートする時点では、なんのコンペも開催されておらず、いつの間にかRIAが関係者会議に出席している。
その異様さは、同様に駅前再開発プロジェクトの資金計画から設計業務をRIAが落札した山形県酒田市のケースと比べてみると一目瞭然だ。
酒田市の場合、17年1月に設計関連業務の入札が行われているが、その2年半前の14年6月に「酒田駅周辺グランドデザイン」策定者の一般競争入札が開催され、そこでRIAを正式に選定。その後に、設計関連業務をRIAが落札するという手続きが踏まれている。
和歌山市の場合は、事業全体のグランドデザインについての一般競争入札もなしに、いきなりRIAが関係者会議に出席している。それを「再開発プロジェクトでは、ごく普通に行なわれている慣例」という言い分は、到底通らないだろう。
なお、この談合疑惑が発覚した詳しい経緯については、次回に詳しく報じる。
(文=日向咲嗣/ジャーナリスト)