国会議員秘書歴20年以上の神澤志万です。
ゴールデンウィークも終わってしまいましたね。
解散総選挙があるのかないのか。解散したら、参議院議員選挙とのダブル選挙になるのか。永田町は、この話でもちきりです。6月26日の国会閉会日までに、与野党間ではどんな駆け引きが繰り返されるのでしょう。
●目撃されていた丸山穂高議員の飲酒姿
今回は、選挙のゆくえや、衆議院での閣法(政府提出法案)の審議がほとんど終わった国会で議員立法(衆議院議員または参議院議員提出法案)の「吊るし」(法案を委員会に付託せずに放置している状態)がどうなるか……といったことなどについて書こうと思っていたのですが、すごいニュースが飛び込んできました。
丸山穂高衆議院議員の「戦争で北方領土奪還」発言です。報道によると、5月11日夜、北方領土へのビザなし交流訪問団に同行していた丸山議員が、国後島の宿舎で酒に酔った状態で元島民の団長に「戦争でこの島を取り返すのは賛成ですか? 反対ですか?」と質問したり、大声で騒いだりしたそうです。
報道を見る限り、明らかに議員辞職に値する失言です。「戦争」という言葉を軽々しく使うべきではないですよね。この発言をめぐっては、ロシア上院のコンスタンチン・コサチョフ委員長から「日露関係の流れのなかでもっともひどい発言」と批判され、菅義偉内閣官房長官も「誠に遺憾。
各方面から批判を受けた丸山議員は、最初こそ居直っていましたが、その後に撤回・謝罪して、所属していた日本維新の会に離党届を出しています。これに対して、松井一郎代表は離党届を受理せず、「議員辞職すべきだ」とコメント。14日の常任役員会で丸山議員は除名処分となりました。
実は、神澤は丸山議員を評価していました。東大卒で元経済産業省のイケメンということもありますが、北海道の水資源保護や竹島など領土問題の解決に奔走する姿を見ていたからです。委員会での質問も切れ味がよく、これからの日本を背負う若手議員のひとりとして、陰ながら応援していました。
ただ、丸山議員はお酒にのまれてしまうという欠点がありました。酒癖が悪いんですね。2015年にも酔ってケンカ騒動を起こし断酒宣言をしていたのですが、前回の総選挙前くらいから「丸山議員がひとりで居酒屋にいた」といった目撃情報が複数あり、「お酒、また飲んでるのかな? 大丈夫かな?」と心配していました。また、17年に橋下徹元大阪市長とツイッターでバトルになり、橋下氏を激怒させたときも酔っていたそうです。
神澤としては、丸山議員の能力を思うと、もったいない気持ちもありますが、ここは議員辞職して、あらためて民意の審判を仰ぐべきだと思います。
それに、百歩譲って、私たち国会関係者は丸山議員が本当に伝えたかったことを忖度できるとしても、一般の人や当事者である北方領土の島民だった人たちには到底理解できることではありません。
維新は15日の国会議員団役員会で辞職勧告決議案の衆議院への提出を与野党に呼びかける方針を決め、与党内も賛同しているようです。自民党が賛成に回れば決議案は可決されます。自民党が辞職勧告に賛成すれば、今後は丸山議員が自民の会派に参加したり、6月9日に行われる堺市長選挙に自民推薦で出馬したりする可能性はなくなります。巧妙に考えられた「作戦」ですね。
すでに秘書たちは補選について、いろいろと盛り上がっています。「丸山議員が辞職して次の選挙に立候補しなかったら、自民党の谷川とむ議員がすごく有利だよね」という見方が有力です。
一方で、丸山議員が比例で当選していたら、辞職後に同じ政党内で繰り上がる候補者がいるので、会派の人数は同じになります。これなら衆議院の運営も楽なのですが、丸山議員が議員を続けるとなると、委員会の構成メンバーが変更されるので事務作業が煩雑になります。秘書の仕事は際限がないのです。
●維新の評判ガタ落ちで選挙戦の勢力図にも変化
さて、丸山議員が維新の評判をガタ落ちさせたことで、選挙戦の勢力図も書き換えられるかもしれません。
「◯◯派は選挙用ポスターのオーダーの指示が出たらしい」などという情報はすぐに広まりますが、野党を牽制するための嘘であることも多いため、真偽のほどを確かめるのは秘書の役目です。
改元で安倍政権の支持率が上がっている現在、野党は総選挙を戦いたいとは思っていないでしょう。また、立憲民主党と国民民主党の亀裂は深く、このタイミングで解散総選挙となれば自民党を利するだけです。与党が「本気で解散総選挙に打って出るぞ」という姿勢を示せば、野党も一枚岩とはいかず、日和る政党が出てくる可能性もあります。
さらに、堺市長選の情勢も大きく変わりそうです。後援会などの政治資金収支報告書に総額2億3000万円以上の誤りがあった責任を取って辞職した竹山修身元市長は、前回は自民推薦で当選しているからです。竹山元市長は、初戦では維新推薦だっただけに「任期途中で自民党へ寝返った」という不義理のイメージがあります。
その上、2億円を超える金額の領収書がなかったというのですから、首長として不適格者の烙印を押されても仕方ありません。そんな人を推薦していた自民党は見る目がない、ということで、堺市長選は維新が圧倒的有利と見られていたのですが、丸山発言でガラリと雰囲気が変わってしまいました。
堺市長選で維新が圧勝すれば、衆参ダブル選挙の現実味が低くなるかと期待していたのですが、それも雲行きが怪しくなってきました。秘書たちは、本音では誰も総選挙などしたくはありません。
(文=神澤志万/国会議員秘書)