近年、飲食店やコンビニエンスストアなどで発生する大量の食品廃棄、すなわち「食品ロス」が問題視されていることを受け5月24日、日本初となる「食品ロス削減推進法」が可決された。

 基本的施策として、消費者、事業者等に対する教育・学習の振興、知識の普及・啓発などを実施する方針だ。

この法案により「食品ロス」の問題が少しでも解決に向かうことが期待されるが、そのハードルは高いといえるだろう。日本は、安全・クリーンを好む国である。海外のように、食べ残しなどを持ち帰る「ドギーバッグ」の使用を推進する声もあるようだが、現状は食中毒防止を理由に持ち帰りを拒否する飲食店が多い。

 すでにいくつかの大手食品会社では、食品ロス問題に対して、法案よりも早く一部の商品について消費期限を延長するなどの対策をとっているが、食の安全性の面からいささか不安を指摘する声もある。

 また、飲食店などでの食品ロス同様に解決すべき問題がある。それは年間200万トンともいわれる「廃棄野菜」である。形が悪い、傷があるなどの「規格外野菜」は、出荷されず廃棄処分となるが、味・栄養価の面では出荷されている野菜に劣らないものも多い。そんな廃棄野菜に目をつけ、新しいビジネスモデルを生み出した人物がいる。「タダヤサイドットコム」を運営する高橋栄治社長に聞いた。

●廃棄野菜を減らす

 高橋社長は埼玉県本庄市の出身。地元に帰った際に、農家の友人から規格外野菜をもらって食べたところ、その美味しさに驚き、廃棄野菜をなんとか減らす方法はないかと考えた。すぐに思いついたのは、「多くの人に廃棄野菜を試食してもらい、品質の良さを知ってほしい」ということだった。
そこで始めたのが、タダヤサイドットコムである。

 廃棄野菜とはいえ、美味しく新鮮な廃棄野菜を無料で提供してもらい、サイト上で欲しい人を募りプレゼントする。生産地や生産者もわかる仕組みとなっており、廃棄野菜を食べて美味しさや鮮度などを気に入れば、その生産者からサイトを通して野菜を購入することもできる。その際、生産者は販売価格の20%の手数料がかかるが、生産者にとってみればサイトを利用することで、廃棄野菜を「集客効果を上げる広告」にすることができるというメリットがある。

 タダヤサイドットコムは2011年に運営開始し、現在、会員数は20万人を超え、同様のサイトでもトップクラスのユーザー数を誇る。

「タダヤサイは無料で出品でき、スピード感のある商品販売ができるサイトです。多くの場合、出品後24時間以内に売れています。販売者にとっては、精魂込めてつくった野菜や果物をタダヤサイでPRできるという利点があり、購入者にとっては生産者の顔が見えるという安心感があります」(高橋社長)

●情報・教育が不可欠

 高橋社長は、タダヤサイドットコムの運営を通し、廃棄野菜を減らすためには情報と教育が重要であり、そのためにはネットの利用が有効だという。

「規格外とはいえ味や栄養価は劣らないという教育と、どれほどの廃棄野菜が提供可能なのかという情報をしっかりと伝えることが大事です」(同)

 サイトの利用者には、リピーターも多くいるという。高橋社長はサイト運営にとどまらず、さらなる展開を考えている。

「将来的には、サイトを通して農業体験を企業研修や小学校の校外学習などに取り入れ、地方と都市の交流を図ることができればと考えています。実際に農業を体験すれば、食べるという行為の裏には多くの人の労力があることがわかってもらえると思うのです」(同)

 タダヤサイドットコムを、飽食日本を変える新たなプラットフォームとするべく奮闘する高橋社長の今後の活躍に期待したい。


 食品ロス削減推進法が可決されたとはいえ、その具体的な取り組みは、まだこれからである。現段階では、廃棄野菜の利用が食品ロスを減らす効率的方法かもしれない。
(文=道明寺美清/ライター)

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