住設機器大手のLIXILグループで、経営トップ人事をめぐる混乱が続いている。

 始まりはLIXILグループの前身会社の1社である旧トステム創業家出身の潮田洋一郎氏が昨年、CEO(最高経営責任者)だった瀬戸欣哉氏を解任し、自らCEOに就いたこと。

その経緯が不透明だとして英米の機関投資家などが反発し、CEOに復帰した潮田氏の解任を求めた。

 4月18日に潮田氏は記者会見を開き、5月20日に取締役を辞任した。さらに、6月の株主総会をもってCEOを辞任すると発表した。

 一見、潮田氏が白旗を掲げたようにみえるが、そうではない。今なお最高実力者である潮田氏が院政を敷く体制と受け止められているのだ。

 前CEOの瀬戸氏は、6月開催の株主総会に向け、自身を含めた8人の取締役選任議案を株主提案し、CEO復帰を目指している。5月23日、株主提案の取締役候補のうち7人が記者会見。「株主提案への支持を」と訴えた。しかし、瀬戸氏は「委任状争奪戦(プロキシーファイト)をする考えはない」と改めて述べ、戦う姿勢が中途半端なのだ。

 一方、会社側は瀬戸氏を含まない10人の取締役候補を公表している。

 株主提案と会社側提案の両方で候補になっている鈴木輝夫氏(あずさ監査法人元副理事長)は、「同意なしに会社側の候補にされた」と批判。同じく候補になっている鬼丸かおる氏(元最高裁判所判事)とともに、「会社側提案の取締役候補案に同意できない」と伝えたという。
2人だけが選任された場合、取締役を辞退する意向だ。

 会社側の取締役10人のうち9人を社外取締役が占める。会社側が次期CEOを公表していない点について、瀬戸氏は「誰が経営するのかを提案しないのは無責任だ」と批判した。

 会社側は取締役候補を2人追加し、定款で定める取締役の定員(16人)を埋める動きを見せている。瀬戸氏側は委任状争奪戦をせずに株主の支持を取り付け、CEOへ復帰するとのシナリオを描くが、逆に会社側が委任状争奪戦を仕掛けることも十分に考えられる。

 6月の定時株主総会に向けて、潮田氏と瀬戸氏のつば迫り合いが続く。株主はどちらに軍配を上げるのか。主導権争いは混迷しており、瀬戸氏側が株主の支持を集められるかどうかは、なお不透明だ。

●「物言う株主」の初洗礼を浴びたJR九州

 九州旅客鉄道(JR九州)は、「物言う株主」の攻勢にさらされている。

 JR九州は2016年10月に悲願の株式上場を果たし、完全民営化した。経営に対する国の関与がなくなり、さっそく物言う株主の洗礼を浴びた。

 米ファンドのファーツリー・パートナーズは昨年末、JR九州株を5.1%まで買い増したことを公表。
さらに3月に持ち株比率を6.1%に引き上げた。6月の定時株主総会に向け、6つの株価向上策を提案した。

 株主提案のひとつが、発行済み株式の10%、総額720億円を上限とする自社株買いだ。JR九州は、熊本駅や宮崎駅の再開発などの投資を念頭に「大規模の自社株買いより、成長投資を優先したい」と反対している。

 JR九州は、民間企業になったとはいえ、株主の利益だけを追求しにくい事情がある。公共交通を運営する社会的責任から解き放たれたわけではないからだ。上場時、青柳俊彦社長は「上場したからといって、(赤字路線を)廃止することは一切ない」と明言した。過疎地域を走る赤字路線を、おいそれと廃止するわけにはいかないのだ。

 悲願の上場を果たし、投資家の期待に応える責任は増した。株主の利益と赤字路線を維持する公共交通の使命を両立させるという難問に直面する。投資家が納得できるような鉄道事業の収支改善策を打ち出せるか。物言う株主が突き付けた、最初で大きな試練だ。


●物言う株主の株主提案一覧

 凸版印刷は、子会社の図書印刷を8月1日付で完全子会社とする。旧村上ファンド出身の物言う株主、ストラテジックキャピタルは図書印刷の6月の株主総会に向けて4年連続で株主提案を行っており、凸版印刷との親子上場を問題視してきた。昨年6月、企業統治の指針である「コーポレートガバナンス・コード」が改訂されたことを受け、政策保有株の売却を求めていた。

 ストラテジックは今年、図書印刷のほか、淺沼組、世紀東急工業、極東貿易の4社に対して株主提案を行った。

 旧村上ファンド系の投資会社、レノは自動車部品のヨロズに、買収防衛策の廃止や政策保有株の売却を求めている。レノは14~15年ごろに共同保有分を合わせて12%のヨロズ株を取得し、株主還元を要求していた。16年に売却していたが、19年3月時点でヨロズ株5%を再度保有した。ヨロズは要求に応じない構え。

 香港の投資ファンド、オアシス・マネジメント・カンパニーは安藤ハザマに定款変更を求める株主提案を行った。

 18年7月、安藤ハザマの工事現場で火災事故が発生したのを受け、定款に「安全衛生管理を徹底する」との条文を入れるよう求めている。会社側は火災事故後に外部識者の提言を踏まえてまとめた再発防止策を実行しているとした上で、「業務執行に関する行動規範や方針を規定するのは、定款の性質になじまない」と反対を表明した。

 オアシス・マネジメントは、昨年はアルプス電気によるアルパイン買収に反対したが、臨時株主総会で提案は否決された。


 米系資産運用会社、RMBジャパン・オポチュニティーズは着メロからスタートし、14年に日本コロムビアを連結子会社としたフェイスに対し、増配と社外取締役の派遣を提案した。

 物言う株主が株主になった企業は、株主提案を受ける前に、株主還元策を打ち出すケースが目立つ。米タイヨウ・ファンド・マネッジメントの大量保有が判明した戸建て住宅のオープンハウスはただちに自社株買いを発表した。旧村上ファンドを率いていた投資家・村上世彰氏の資産を運用する南青山不動産が大株主となっているマクセルホールディングスは、20年3月期の年間配当を286円(19年3月期は36円)へと、前期比7.9倍に増やす。同社は日立製作所から分離した電池メーカーだ。

 3月期決算の株主総会が開催される6月は、物言う株主にとって見せ場であり、書き入れ時である。
(文=編集部)

編集部おすすめ