「呪いの言葉」と聞くと、おとぎ話の中だけに出てくるもののように思えますが、どうやら実際には私たちが暮らすこの世界にもあふれかえっているようです。
たとえば、長時間労働や不払い残業、パワハラ、セクハラといった問題に声をあげる者に対して投げかけられる、「嫌なら辞めればいい」という言葉。
そう、現代における「呪いの言葉」とは、相手の思考の枠組みを縛り、相手を心理的な葛藤の中に押し込め、問題のある状況に閉じ込めておくために、悪意を持って発せられる言葉なのです。
では、「呪いの言葉」にからめとられないようにするには、私たちはどうすればよいのでしょうか? そのケーススタディとして役立つのが、本書『呪いの言葉の解きかた』。著者の上西充子さんが、労働、ジェンダー、政治といった私たちの周りに蔓延する「呪いの言葉」とその解きかたをわかりやすく教えてくれます。
上西さんは本書で、「大事なのは、『相手の土俵に乗せられない』ことだ。『相手の土俵に乗せられている』と気づいたら、そこから降りることだ」と書いています。呪いの言葉がかけられたときには、「なぜ、あなたは『呪いの言葉』を私に投げるのか」「あなたは私を逃げ出せないように、縛り付けておきたいのですね」と問うことが有効だそう。先ほどの「嫌なら辞めればいい」というひと言に対してなら、「『どうせ辞められないんだろう? だったら理不尽にも耐えろ』というわけですね」と切り返す。実際に口に出すのが難しいなら心の中ででもよいので、問い返すことによって、呪いの言葉を投げつけられた者は、その言葉の呪縛から一時期的にせよ、精神的に距離を置くことができます。呪いの言葉の呪縛の外に出られれば、柔軟に考え、行動することが可能になります。
ほかにも、「文句を言うな」「逆らっても無駄」「君だって一員なんだから」「母親なんだからしっかり」「なぜもっとがんばれないのか」などなど......本書を読めば、私たちの身の回りにはどれほど多くの「呪いの言葉」があり、無意識のうちにどれほどそうした言葉にとらわれているかに気づくはず。まずはこの「気づきを得る」ことだけでも、ずいぶん世の中の見方が変わってくるのではないでしょうか。また、誰かが自分に届けてくれた「灯火の言葉」や、私たち自身の中から湧き出てきた「湧き水の言葉」といった「呪いの言葉」とは対照的な言葉も紹介されており、希望の光を感じることもできます。
労働、ジェンダー、政治と聞くと難しい内容に感じる人もいるかもしれませんが、文章が非常にわかりやすく読みやすいのも本書の魅力。ドラマ化もされたコミック『逃げるは恥だが役に立つ』やテレビドラマ『カルテット』、コミック『陰陽師』なども引き合いに出しており、若い人にも読みやすいのではないかと思います。「しかたがない」「自分が我慢すればいい」とあきらめることはやめ、意識的に「呪いの言葉」の呪縛の外に出る術を皆さんも本書から学んでみてはいかがでしょうか。
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