以前から「人間の心の有りよう」に興味があって、精神医学や脳科学の本を読みまくっている。ここ最近も脳科学者が書いたサイコパスについての本、臨床心理士が書いたトラウマの本を読んだところだ。

サイコパスといえば、映画『ハンニバル』のレクター博士みたいな、狂気に満ちた殺人鬼を思い出すが、先日読んだ本によると「反社会的な行動をとらないまでも、普通の社会にもサイコパスはいる」とのことで、割合としては100人にひとりは「傾向のある人」なのだそう。

会社にひとりくらいは......いや、まてよ。隣席のあの人がそうかもしれない、という確率で存在するのだ。そういえば突然激高したり無茶ぶりをしてきたり、また大風呂敷をばさりと広げたりする人、いるよなあといろんな顔を思い浮かべる。

なーんて「スナック艶なのに、なんでこんな堅苦しいはじまりになってるの」と自分でも思っちゃうのだけど、じつは大人の艶界にも結構くせ者が存在するよなあと、ふと思い出してしまったからだ。

職業、血液型で嘘をつく。でもなぜかモテる

わたしの知り合いで本当に「自覚のない嘘を平気でついて、その場をしのぐ」男性がいた。

その彼は、竹野内豊似のイケメンで、低音ボイスがセクシーな男性だった。とにかく博識で、会話も上手。当然ながら女性によくモテた。

わたしが彼と知り合った時、「九州の大学から総合商社に入って、脱サラして、現在は自分で会社を興している」と会社名入りの名刺をもらった。肩書きは「代表」とあった。

彼とは非常に気があった。男と女としてではなく、友だちとして本当によく遊んだ。とくに音楽の趣味がまったく同じだったので、よくライブにも一緒に行った。わたしは当時結婚していたので、彼とは清い関係・生粋の友だち関係だった。お互いにヨコシマな気持ちがない分、気が楽で、まるで異性の親友ができたようで嬉しかった。

「これから彼女がうちにくるんだけど、昨日までちょっとだけ関係があったほかの女性が家に泊まってたから、その子のものが部屋に落ちてないか、まこちゃん、いまからチェックしにきて」とも言われたことがある。

ちょうど彼の家の近くにいたので寄ってみたら、彼は「女ってさ、小さい化粧品とかピアスとかわざと見えにくいところに置いていくじゃん。一応わかる範囲でチェックしたけど、女目線でもう一回チェックして。ほかの女性の影をみつけられたらやばい」と焦っていた。案の定、ソファの下からピアスが片っぽ出てきた。

「ベタか! ドラマか! つか、わたしも女だっつーの。影落とすぞ、こら」

私はぶつぶつ言いながらあちこち警察犬のように女の影を見つけた。

「まこちゃんだけだよ~、本当の自分をさらけだせるのは。助かったよ~」と感謝され、ランチをごちそうになった。

いま思えば、この「君だけに本当の自分を......」というくだりは非常に危険だ。人心掌握がまことにうまい。このタイプは感情の起伏や行動力の激しさが要因となって、人の目には非常に魅力的に映るらしく、異性にモテたり、企業のトップとして名を馳せたりするらしい。

前置きが長くなったが、彼のことをなんで書いているかというと、あるとき「まこちゃんの独身の友だちと合コンがしたい」と彼から言われ、セッティングしたときに、驚愕の出来事が次々に起ったからだ。

彼は数年同棲をしていたCAの彼女がいたが、どうやら彼の女癖の悪さ......いやほかの悪さも多々あったのだろう、いろんなことが原因で別れたばかりだった。本命の彼女は国際線を担当していたので、長期の留守がたびたびある。その間に、彼は火遊びをしまくっていたのだ。

わたしも彼の女癖の悪さを知っていたし、「そんな人を大事な女友だちに紹介したくないなあ」とか「だいたいモテるんだから、自分で探しなさいよ」なども思ったのだが、「まこちゃんの大事な友だちにヘタに手を出すはずないよ~。もし出すとしたら本気でアプローチしている証拠だよ。オレ、もうそんなに若くないし、本気で本命の彼女がほしいんだ」という言葉に結果的にほだされてしまった。

「オレに近寄ってくる女性は、だいたいオレが求めている女性じゃない。外見とか肩書きではなく、本当に心から愛されたいんだ」とも言っていたっけな。

友だち紹介の最初の会で簡単な自己紹介をし合ったとき、彼がこんなことをみんなに喋り出した。

「神奈川出身、早稲田大学卒業、いまは音楽家をやっている○○です」

.........ええっ。九州出身で、九州の大学を卒業したって言ってたじゃん! いつ神奈川県で生まれていつから音楽家になったの? 心底びっくりした。

趣味でギターを弾いているのは知っていたけれども、だからといって音楽家というか? でもこのときは「もしかしたらわたしの記憶違いだったのかもしれない、彼なりのジョークかもしれない」とも思ってスルーした。

しかしその後も、つまらない嘘ばかりをついていた彼。

私には「オレ、血液型はB型」と言ってたのに、なぜか女友だちには「O型なんだよね~」と言ったりしていたりしていた。なんでしょーもない嘘ついてんの?

一度目の会はなんだかモヤッとして終わり、なんだか嫌な予感がしてきたので「彼に誰も紹介しまい」と勝手に誓った。それなのに、やっぱりモテ男くんだ。女友だちのほうから「あの彼にまた会いたい」と連絡があったり、直接彼女たちから彼に連絡が行ったりして、メンバーをシャッフルしての会を再び開くことになってしまったのだ。

メンバーが多少入れ替わったこともあり、彼は違う女友だちに今度は「中国と日本のハーフ」だの「A型」だの「こどものころに、家庭内暴力にあっていた」だのと囁いていた。

堪忍袋の緒が切れて、会のあと、ふたりきりになった際に「なんで出身地とか卒業大学とか血液型とかをコロコロ変えるの?」と抗議した。

彼はきょとんとした顔で「なんでまこちゃん怒ってるの?」と聞いてきた。

「そりゃ怒りたくもなるよ。ほかの人ならまだしも、わたしの大事な女友だちに嘘の経歴なんて言わないでよ」

「はあ、なんかオレ、嘘ついたっけ」

「血液型とか、相手によってコロコロ変えてたじゃないの。なんでそんなしょーもない嘘つくの」

「ちょっと待ってよ~。血液型のトピックって女性は大好きでしょ。そしてそんなに重要な話ではないでしょ。いまから輸血をしようというんじゃないんだから。その場を盛りあげるための話題提供だよ。なにカリカリしてんの」

......むむむ。そういわれてみたら、そうかもしれない。いや、だが、しかし。

「ハーフ説はどうなの。おまえはインチキ・コンサルタントか!」

「あ、ちなみにオレ、コンサルもやってるから」

「そんな話をしてるんじゃない!」

なにを話してもススーッとかわされてしまう。疲れた。怒るだけ無駄だ。そもそも、なんで彼のために何人もの女性を紹介してるんだ、わたし。もう勝手にやってよね......という気分になった。

で、本当に彼(そして女友だちたち)は勝手によろしくやっていたようだ。大人だし、みんな独身同士だし、なにをやってもいい。ただ、なんだか妙に心がざわつく。その様子は彼にも伝わり、「まこちゃん、もしかして嫉妬してる?」とも言われた。妙に腹立たしかった。わたしは本気で、異性の親友として彼を思っていたのに、ことごとく裏切られた気分になった。

そこから少し彼と距離を置きはじめた。

嘘に振り回されるほうが心が狭い?

そんなある日。女友だちから電話が入った。「あの彼、どんな人?」と。彼女の第一声のトーンでザワワザワワが大波に変わった。

「......えっと、なんかあった?」

「あったもなにも。夜に突然電話がかかってきて『君の家の近くまで仕事できたからお茶でも飲まない?』と誘われたのね。ちょうどそのとき、ほかの女友だちが泊まりにきていたから『行けない』というと、『じゃあ、ちょっと家でコーヒーでも飲ませてよ』と結構ごり押しでうちまできたのよ」

ああ、手に汗。

「しかたがないから家にあげて、女友だちを紹介して、コーヒーじゃなんだから、ワインでも飲みながら3人で話してたのね。そうしたら、友だちと彼が結構盛りあがっちゃって。彼が終電を逃したから『朝までいていい?』と聞いてきたから『ダメ』とも言えず、いずれにしても女友だちもいるし、まあいいか......とそのまま深夜までおしゃべりが続いたの。そしたらね」

ごくり。聞くのが恐い。というかその先が想像できるんですけど。

「わたしがトイレに行っている隙に、彼と友だちがむっちゅ~とキスをしはじめて、あろうことか『君もこっちにおいでよ』と誘われたの。もう、あんぐりよ! おいでよって、ここわたしんちだし! それで『出てけ~』と彼を追い出したの」。彼女はすっかりご立腹だった。

やはりか。なんか不穏なことをやらかすのではないかとは薄々予感はしていたけど、そっち......複数系プレイにいったか。わたしは、丁重に彼のことを詫び(しかし、なんでわたしが!)、即行で彼に電話した。

「あなたね、いい加減にしてよ。私の友だちに変なことしないでって言ったでしょ!」

彼女から聞いた話を彼にぶつけて猛烈抗議した。

しかし彼は「......まこちゃん、オレのことより、彼女の言うことを信じるんだね」と言った。彼が言うには「彼女の友だちとオレがいい雰囲気になったのを彼女がやっかんで、事実をねじ曲げてまこちゃんに報告している」と言うのだ。

もういやだ。金輪際こんなのごめんだ。面倒くさい。わたしは「もうどっちでもいいわ。巻き込まれたくないし、わたしも嘘をつかれたくないし。じゃあね~バイバーイ」と電話を切った。

それから数年、彼とは音沙汰がない。40代後半になっているはずだが、共通の知人によると現在も独身のようで相変わらずお盛んのようだ。

彼のどうでもいい嘘やあとさき考えない行動に振り回された数年前。長期的な人との関係性を築けず、それなのに複数と同時に浅い関係を持つ。いま思えば、彼はつくづくひどい嘘つき男だったなと思う。

でも本人があまりにも悪びれないから、嘘をつかれたほうが「もしかしてわたしの心が狭いのか?」と思ってしまうのだ。

これってダメ男にハマって抜け出せなくなる心理状態らしい。友だちだからこそ抜け出せたのだ。

わたしってたった数年前を振り返っても、つくづく危ない綱渡りしてるなあ......と読了したあと痛感したのだった。

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