倦怠期が招く、不安と不満

前回ご紹介した映画『31年目の夫婦げんか』では、「寝室別問題&セックスレスの解消」として、ある荒治療が行われたことを記事に書いた。そこでわたしも、映画とは同じ方法ではないが、別の荒治療をすることにした。

前回も記事に書いたが、わたしは近ごろパートナーに対して不満が積もりに積もっていた。

「単なる同棲はいや。一緒に住むのであればお互いに責任を持ち合う関係になりたい(つまり結婚したい)」......この約束も、この一年なし崩しになっている。

「家事は分担」......結果的にわたしがほとんどやっている。生活費の大部分は彼が支払ってくれているので、そのぶん家事負担はわたしのほうが多めではあるのだけど、それにしても完全なる丸投げ状態は頭にくる。

「最近、触れあっていない」......お互いが空気のような存在になりすぎて、セクシーな雰囲気にならない。とくに彼のほうが。

「同棲カップルはのちに別れるコース」を、まっしぐらに走り始めているという危機感や焦りがわきおこり、わたしは今年に入ってイライラしたり不安になったりしていた。

もちろん上記の不満は、これまでに何度も彼に抗議した。彼は「わかった。気をつけるよ」と、あっさり受け止めてくれるのだけど、それでも一向に改善しない。

そこでわたしは、この負のスパイラルを打破するために荒治療として、「彼を家から追い出した」のだ。

いつもはプンスカしたわたしが数日家出をするのがお決まりだったが、「それは逆に、男がのびのびするパターンだから効果ないわよ。かえっておひとりさまを満喫するだけよ」との女友だちの意見があり、「押してダメなら引いてみな」方式で、彼を家から追い出す新パターンを思いついたのだ。

女性が起こすべき荒治療とは

ある夜、ソファでごろりと横になっている彼を尻目に、これ見よがしにせっせと荷造りをしたわたし。きっとこの時点では「まこちゃん、また家出するつもりだな」と彼は思ったはず。そこへ「はい、これ荷物。いますぐ出ていって」と荷造りしたものを彼に突き出した。

彼は呆気にとられていた。「このまま一緒にいてもなんの解決にもならないし、余計にふたりの間にみぞができるばかり。しばらくひとりになって考えたい」と伝えると、「なにを考えるの」と彼。

「このままダラダラと同棲を続けたら、たぶんふたりにとっていい結果にはならない。将来的にどういう方向に向かって同居しているのかを考えたり、いったん同棲を解消して、別々に暮らして昔のように恋人同士として交際するのか。またはきっぱり別れたほうがいいのか、なんらかの方法をとらないと、わたしたちはきっと近い将来ダメになる」。

こう言い放つと彼は「わかった」と言って、荷物を持って家を出ていった。そして一週間お互い連絡をとらずに過ごした。

久しぶりのひとり暮らしに、わたしは心なしかウキウキして過ごし、「同棲を解消してひとり暮らしに戻るのもいいな」なんてことも思った。一方では「せっかく一緒に暮らし始めたのだから、できれば前向きに問題を解決していきながら、将来も一緒にいたい」とも思った。どうしたらいいのか、この時点でも自分の気持ちは定まっていなかった。

追い出された彼が出した結論

彼が家を出て一週間目の夜。彼から電話がかかってきた。

「まこちゃんがイライラしたり悲しい気持ちになるのは、すべて自分が原因。それは重々承知のうえで今から話をするから、まず俺の意見を聞いてくれる?」という文言からはじまった。

「この一週間、30年後のふたりを想像してたんだ。そしたら楽しいことしか頭に浮かばなかった。今でもまこちゃんが好き。

ずっと一緒にいたいと思っている。この一年もなし崩しに同棲をしていたつもりもなかった。でも確かに居心地が良すぎて、きっかけがないことには『結婚』というステージに切り替えることができなかったかもしれない。だから今回の大バトルと、しばし離れた期間は、ある意味きっかけになったと思う」。

家事の件では彼の言い分はこうだった。

「確かにまこちゃんに甘えてしまってた。ごめん。自分のタイミングでやろうと思っていたらまこちゃんがプンスカして、いつの間にか俺の分までし始めてくれるから、そのまま『触らぬ神に祟りなし』にしていた。これからは決めごとを作ってきちんとやるから」。

そして話は肝心のレス問題へ。以前この記事にも書いたが、過去に彼の浮気が発覚して、わたしは大荒れに荒れたことがある。その出来事を振り返りつつ彼はこんなことを話した。

「まこちゃんがどうしてもあの件を忘れられないのもわかっている。ハグしてもなんだか拒否されているみたいに感じたし、『他の女性のことを想像してないかといつも思ってしまう』と、以前まこちゃんに言われたことがあったし。だから触れたいと思っても、またそんな思いをまこちゃんにさせてしまう、拒否されてしまうと思って、緊張してた。あなたを女と見てないから触れないのではなく、俺のしたことを思い出させるようで怖くて触れられなかったんだ」。

だから、わたしとの間に気持ちのうえでも、物理的なうえでも、距離ができてしまったという。

「でも俺の間違った解釈が、まこちゃんの不安と怒りをあおっているんだと、改めて気づいた。まこちゃんにもちゃんと触れたいし、一緒に横で寝ていたい。だからこれからも一緒にいてください。明日帰ります」。

ほとんど彼が一方的に話をしていたのだが、わたしは彼の話を聞いて、凝り固まっていた気持ちが、不思議とすーっとほぐれていった。不安に思っていたことの本当の理由、不満に思っていたことの解決策を具体的に話してくれて、心のもやがぱっと晴れたような気がした。

とくに「わたしと触れ合わない理由」のところ。

理由がわからない状態がもっとも不安をあおる。でもモヤモヤの本当の正体がつかめると、拍子抜けするほど「そんなことだったのか」と、安心することが多いものだ。

「電話じゃないと、照れて言えないと思ったから」と彼。そして最後にこうも言った。「もちろん結婚を前提として一緒に暮らしているから、ふたりでその記念日をいつにするか決めよう。ただし、俺も努力するから、まこちゃんも怒りに任せて自暴自棄にならずに、冷静に話し合うタイミングを作って欲しい。それが数ヶ月できたら、きっと俺たちは30年いろんなことを乗り越えて生きていけると思うよ」と。

映画『31年目の夫婦げんか』も、レスになったきっかけは、腰痛が表面上の理由だったけど、実はふたりの「ちょっとしたボタンのかけ違い」があった。ネタバレになるので詳しくは書けないけれど、わたしと同居人のような、ちょっとした思い違い、ちょっとした男と女の性差があって、徐々にズレが生じてしまったのだ。これって世の中のカップルは誰でも一度は経験する凡ミスではないかと思う。でも凡ミスが、のちのち「引き返せないほどの問題」になってしまうのだから、やはり途中での荒治療は必要なのだ。

わたしも、映画のなかの妻ケイも、けっして「セックスがしたい」から騒いでいたのではない。

パートナーとの愛を確認したかっただけ。

男性はどうしても、その「愛」を言葉や態度に表すことに照れがある。そうしているうちにふたりの間に距離ができてしまう。だからこそ、『31年目......』のケイのように、また、わたしの追い出し作戦のように、女性から行動(荒治療)を起こす必要がある。

どちらかが本気を見せて、むき出しの本音で話しあう。これなしではたぶん、倦怠期やレスは乗り越えられないのではないか、と思うのだ。

image via Shutterstock

編集部おすすめ