今、世界的に注目されている「フェムテック(Female×Technology)」。女性特有の健康課題や悩みをテクノロジーで解決しようとするこのフェムテック領域に、丸紅株式会社(以下、丸紅)が乗り出した。

男社会のイメージが強い総合商社が、フェムテック参入を目指した背景や意義、期待される変化とは? プロジェクトを推進する丸紅 経営企画部 国内事業推進課の野村優美氏と、そのビジネス創出をサポートするfermata株式会社 CCOの中村寛子氏に話を聞いた。

今取り組まなければ企業が弱体化するという危機感

リモート取材に応じる丸紅 経営企画部 国内事業推進課の野村優美氏。

丸紅のフェムテックプロジェクトが発足したのは、2020年。国内の市場開拓を行う中で、同社にとってのホワイトスペースであるフェムテックに着目。ビジネス創出を目指して、プロジェクトチームを立ち上げた。

「働く女性にとって避けられない生理や更年期などの健康課題。男性社会の総合商社である当社だからこそ、参入するべきだと強く感じました。新たな収益モデルの構築や、ソーシャルバリュー向上といった観点で、いま捉えるべき時代の潮流であると認識しています。今本気で取り組まなければ企業としての力が弱まるのではないか、という危機感もありました。個人的にも、今後も長く働き続ける中で健康課題は様々出てくるはずと言う漠然とした不安があり、同じように悩む働く女性を少しでも支えられるプロジェクトになればよいと考えています」(野村氏)

プロジェクトチームは、同社初の女性だけのチームとして発足し、現在は男性社員も含めて約20名が揃う。世代は20代から50代までと幅広く、所属もICTにファッションアパレル、衛生用品の製造販売、ヘルスケアメディカルなど。海外に駐在している社員も参加している。

世界で大きなムーブメントを起こしているフェムテックだけに、その領域への関心は高く、「所属部署のビジネスと親和性が高そう」という理由でチームに入ったメンバーも多いという。

多彩なメンバーがさまざまな切り口でビジネスへの展開を考えられるのは、総合商社ならでは、と言えるだろう。

野村氏は、「色々な事業を展開し、あらゆる産業に触れている商社として、フェムテックという切り口で取り組めることはたくさんあると思っています。プロジェクトとして新しいビジネスモデルを考えるだけでなく、メンバーそれぞれが所属部署で何かできるかを模索しているので、色々な展開が期待できると思います」と語る。

男性のリテラシー向上でコミュニケーションを円滑に

fermata株式会社 CCOの中村寛子氏

ビジネスモデル構築に向けて、パートナーとして丸紅のフェムテックプロジェクトを支えているのはfermata株式会社(以下、fermata)。世界初のフェムテック専門オンラインストアを運営し、国内外フェムテック企業の支援事業を行うスタートアップ企業だ。

fermataの中村氏は社内イベントで講師を務めたり、ワークショップを実施したりとプロジェクトの活動をリードしている。その中で、中村氏は男性社員の関心度の高さに驚いたという。

「社内イベントには男性社員も多く参加されていました。ビジネスとして新しい産業を知りたいという気持ちだけでなく、女性のために一個人として何ができるか考えたいという姿勢が見られ、素晴らしいなと思いましたね」(中村氏)

イベント後のアンケートでも、男性社員から「もっと早くこういう会に参加すれば良かった」「女性の社会進出が進んでいる今、支援できることがあればぜひ協力したい」という感想が寄せられたそうだ。そして、プロジェクトの活動が進むにつれて女性の健康課題に対する男性社員の理解も深まり、社内全体に良い効果をもたらしているという。

例えば、これまでは社内で口にすることに抵抗があったという「生理」という言葉も、今では男女問わず口にしてディスカッションできるほどに。こうした変化は「男性のリテラシーが上がることでコミュニケーションが円滑化し、女性が働きやすくなる」ことを教えてくれている。

また興味深いのは、ワークショップを行うと、男性がいるグループでは「男女間での知識ギャップをどう埋めるか」をテーマに議論が進み、女性だけのグループからは個々に抱いている悩みやモヤモヤがたくさんあがるという。

「女性社員の方々は、商社という男性社会で働いてきて、自分の体は二の次になっていたという方も多いと思います。過去のことや未来についての色々なモヤモヤをあげてくれました。フェムテックのひとつの特徴として、個の課題からアイデアやプロダクトが生まれることが多いのですが、そのヒントがたくさん生まれていました」(中村氏)

男性社員の積極的な参加意欲がみられる点も、丸紅フェムテックプロジェクトの強みといえるだろう。

追い風を受けて、全社的なプロジェクトに

fermata中村氏が登壇した丸紅社内イベントの様子。

発足から半年が経った今春、プロジェクトの取り組みとして、「オンライン外来ピルプログラム」「更年期チャットサービス」が社内で試験導入された。

「事業化に向けてまずは社内でサービスを実装する必要があると考え、福利厚生制度として試験導入しました。そこから上がってきた意見を事業化に活用していく予定です」(野村氏)

「オンライン外来ピルプログラム」は、株式会社カラダメディカが提供するオンライン診療システムを活用して低用量ピルを処方し、月経に伴う生理痛やPMSの改善を支援するプログラム。また、「更年期チャットサービス」は、株式会社TRULYが提供するオンラインチャットサービスを導入したもので、主に更年期の悩みをオンラインチャット形式で女性医師に相談できるサービス。特筆すべきは、これらはすべて社内決裁が下り、全社を動かしたプロジェクトになっているということ。

「フェムテックプロジェクトは全社的にも注目度が高く、男性の役員陣をはじめ、産業医からも『ぜひ進めてほしい』と支援してもらっています」(野村氏)

丸紅は今年、「新卒採用の女性総合職比率を現状の20~30%から、3年以内に40~50%程度に引き上げる」と発表しており、こうした流れも追い風になっている。

「企業として強くなるためには、男性中心ではなく、多様な人材が活躍できる組織にしなければなりません。そのためにはきちんと受け入れ態勢を整える必要があり、そういった観点からも、フェムテックプロジェクトへの期待が高いのです。おかげで、フェムテック市場自体の拡大につながる形で取り組むことができています」(野村氏)

フェムテック市場の活性化に期待

こうした丸紅の取り組みに、中村氏は大きな期待を寄せる。

「丸紅さんのような大企業が参入することは、日本のフェムテック市場の一つの特徴であり、とてもポジティブなことだと捉えています。

産業を活性化して、底上げするためにも大企業の取り組みは欠かせません。私たちスタートアップが得意なことと、大企業の得意なことは異なるので、お互いをうまく支え合って市場を広げていければと思っています。丸紅さんの参入でフェムテック市場の成長が加速し、より多くの方たちに、より早く、サービスやプロダクトが届くことを願っています」

その想いに応えるように、野村氏はこう語った。

「多くのスタートアップ企業がおられる中で、当社のような、ある程度の規模感も歴史もある企業の参入が刺激となって、市場全体が活性化していけばと思っています。そして、私たちプロジェクトチームが見据えるのは、“インクルージョンネイティブな社会”です。将来的に、女性活躍やダイバーシティという言葉が必要ない、インクルーシブが当たり前の社会。デジタルネイティブならぬ、インクルージョンネイティブですね。私たちの取り組みが、そんな将来へ進む一助になればと思っています」

もはやフェムテックは女性だけの問題ではなく、社会的な課題。丸紅の参入で、日本のフェムテック市場に大きな波が生まれ、社会全体へのポジティブなムーブメントが促進されることに期待したい。

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