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女性の働きやすい社会の実現に向けて政府や企業が動き出す中、いまだ女性たちを悩ませているのが、仕事と出産を両立しづらいという現状だ。

子どもを持ちたいと考えていても、キャリアを優先して断念せざるを得なかったり、妊活に対して職場からの理解が得られず退職をせまられたりと、問題を抱える女性は多い。

また不妊治療について「誰に相談したらいいのか分からない」「正しい情報が分からない」といった課題も山積みだ。

そんな問題を解決しようと、子育てや保育、介護サービスなどを展開する株式会社ポピンズホールディングスは、新事業として「不妊予防サービス」を提供すると発表した。日本では成功率が低い不妊治療を総合的にサポートし、 不妊予防に関する情報発信や、卵子凍結保存を行うクリニック設立の誘致も検討中だ (以下、2021年6月22日の記者会見の内容より)。

キャリアデザインの中でも考えてほしい

女性の社会進出が求められる一方で、日本の少子化は加速している。なかでも日本の体外受精の成功率は12%と低く、アメリカや不妊治療が進むフランスに比べると半分ほどの確率だ。

ポピンズホールディングス新規事業開発室 執行役員の吉澤克彦氏は、その理由について「日本は卵子の老化が進む35~40歳で不妊治療を開始する傾向があるためだ」と語る。アメリカ、フランス、北欧では20代の頃から不妊予防が啓発されており、高い体外受精の成功率につながっているという。

そこでポピンズの不妊予防サービスでは、正しい知識と自分の身体について知ることから支援を始める。新設サイト「ポピンズi-ce」にて不妊予防に関する知識や海外の最新情報を発信。チェックシートで卵子の状態を調べ、信頼できる医療機関での治療や卵子凍結までをサポートする(2022年公開予定)。不妊治療に関して悩みを抱える女性たちに向き合ったサービスだが、特にポピンズが積極的に取り組もうとしているのが、企業への啓発だ。

「不妊治療の認識はいまだ『不妊予防って何?』という状況です。そのため、不妊の予防を広げるには企業から行うべきだと思っています

海外も企業から変わっていきました。その中で私たちのターゲットは人事、管理職、そして該当者である女性の社員です。人事の方には離職防止や採用の強化、管理職の方には理解の推進を行なっていきます。女性の社員には入社時にキャリアデザインについて考える場を提供し、30歳のタイミングでもう一度その機会を提供していこうと考えています」(吉澤氏)

具体的には2021年秋以降にかけてオンラインでの研修や個別のカウンセリングを通して、企業を通して不妊予防を呼びかけていくという。

日本でもポジティブな不妊治療を

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チェックシートの作成に協力している国際医療福祉大学の河村和弘医師も、かねてから不妊予防は日本で進めなければならない課題だと考えていた。医学の進歩によって、不妊の予測や対策の精度は高まってきているという。

「今の医学においては不妊を予知し、予防することができます。

今日本で問題になっているのは高齢不妊ですが、いかに早期に介入をして、対策をするかが重要だと考えています。そのために卵胞の数のチェックや、男性に対する精液検査を簡便に行い、セルフチェックも行える体制をつくりたい。もし異常が出た場合は、早く子どもを作ることが大事といえども、ライフプランによって難しいこともある。その場合は精子や卵子、受精卵の保存や凍結も可能です。残念ながら、年齢によって妊娠の力が衰えますが、不妊は予防ができますので、正しい知識を身につけていただければと思います」(河村医師)

カリフォルニアCCRMグループの不妊専門医の田附サリー医師は「アメリカでは不妊予防への意識がさらに高まっている」と話す。また企業が設ける福利厚生の中に、不妊治療や妊娠力維持に関する項目が追加されている現状を語った。

アメリカでは、福利厚生に不妊治療や妊娠力の温存治療を含めることを定める州が増えてきています。2019年には法律に関わらず、大企業の66%が優秀な人材を呼び込むために、福利厚生にそうした項目を追加しています。それは検査や不妊治療から代理母まで幅広いものです。また就職活動をする若い人たちの32%が、不妊治療や妊娠力温存の福利厚生の有無によって就職先を決めるといったデータもあります」(田附医師)

一方、日本でも不妊治療に対する援助の動きが始まっている。2021年の1月には体外受精助成金の拡大が行われ、多くの人が不妊治療が受けられる体制が整い始めている。政府に助言を行った杉山産婦人科の杉山力一医師は、「国と協力しながら少子化対策に取り組んでいる」と話す。

「今年の1月から体外受精に多くの助成金が出るようになりました。金額の増加や助成金を受け取れる所得の制限がなくなり、年齢制限はありつつも、多くの人が助成金を受け取れるようになっています。国を挙げて体外受精を希望する人に支援を行うことで少子化対策を行っており、来年度からは保険適応を取り入れて患者さんの負担を減らせるような試みも行っています」(杉山医師)

産みたいときに産める社会に

これまで働く女性に支援を続けてきたポピンズ。2020年の12月にはSDGs IPOとして東証一部上場を果たし、社会課題の解決にも積極的に取り組んできた。代表取締役会長の中村紀子氏は「これからは、未来のママになる女性たちにも支援をしていきたい」と語る。

「私たちの理念は、社会課題の解決と働く女性を支援すること。そこで少子化の問題と不妊治療に悩む女性たちがいる現状に対して、産みたいときに産める社会を実現したいと不妊予防に取り組むことになりました。

日本は避妊については教育を受けますが、不妊については教えない。若い方たちは将来、不妊で悩む可能性があることを知らないんです。知識を持たないまま30代後半になって、赤ちゃんを産めないとなってからでは遅く、多くの方が子どもを諦めなくてはいけない。この現状に対して不妊予防という考えがあることを伝えていきたいですね」(中村氏)

さらにポピンズは本社のある広尾に不妊予防クリニックの設立誘致をすると明かした。また、自社の福利厚生として、卵子凍結を希望する社員に対して費用負担する体制を整えていくという。

会見の最後に登壇した代表取締役社長の轟麻衣子氏は「女性に対する『こうでなくてはいけない、こうあるべき』という無言の圧力を取り払うことが私たちの目標です。 女性がもっと自由に産みたいときに産めるという選択肢を持つために、まずは正しい知識を得ることが大事だと私は考えます」と語った。

女性が子どもを産むタイミングを選ぶことができれば、出産によって仕事や未来のビジョンを諦める必要がなくなるはず。不妊予防や卵子凍結といった手段は女性のウェルビーイングにつながる一歩になるかもしれない。

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