身体や性に関する悩みは、他人に相談しづらいと感じる人が非常に多い。孤独や自尊心の低下を感じやすいことも、身体や性の悩みをより深刻で苦しいものにしている。
しかし近年フェムテック産業が急成長を遂げ、世の中の流れが少しずつ変わり始めている。

フェムテックとは、Female(女性)+Technology(テクノロジー)の造語。女性特有の身体の悩みをテクノロジーによって解決することを目指してうまれた新しい産業だ。フェムテックの概念が浸透するにつれ、これまで誰にも言えなかった悩みについて、プライバシーを守りながら共有したり寄り添ったりできる場が少しずつ増え始めている。

左から、井土亜梨沙さん、平野巴章さん、カマーゴ・リアさん

2021年6月26日に開催された「Women's Well-being Updates 2021」のトークセッション「身体との向き合い方はどう変わる?」では、フェムテック&ウェルネス製品を販売するfermata株式会社 Global Business Managerカマーゴ・リアさん、ED診療のオンラインサービスを提供する株式会社SQUIZ 代表取締役平野巴章さんをゲストに迎え、国内外のフェムテック業界の動向や身体の悩みとの向き合い方について話し合った。モデレーターは、スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー日本版 コミュニティプロデューサー井土亜梨沙さん

フェムテックとメンテックの境界線は、実はあいまい

「僕自身も実は過去にEDで悩んでいたことがあります」と語る平野さん。

フェムテックという言葉が少しずつ世の中に浸透し認知度が高まっていく中、男性特有の身体の悩みを解決する“メンテック”も今注目を集めている。平野さんが現在取り組んでいるオンラインのED診療サービスも、メンテックの一つだ。平野さんはフェムテックとメンテックは明確に区別できるものではなく、互いを包含していると話す。

「たとえば、EDはこれまで男性の問題だと思われていたのですが、実は男女の問題だともいえる。男性がEDであることに対して、パートナーの方も“私に魅力がないのかな”とか“私と一緒にいても楽しくないのかも”と、悩んでいることが多いからです」(平野さん)

成人男性の4人に1人がEDで悩んでいるというデータもあり、実は非常に一般的で身近な悩みでもある。しかし専門家に相談すべきだと頭では理解していても、センシティブな悩みの場合は心理的ハードルが高くなる傾向がある。

だからこそ、一歩踏み出すことを躊躇して悩みを抱え込んでいる大勢の人々に向けて、“あなたは独りではない”というメッセージを発信し続けることが重要だと、平野さんは強調した。

「僕自身も実は過去にEDで悩んでいたことがあります。20歳ぐらいの時に、大好きな彼女ができたのですが、いざ初めて……という時になかなかできなかった。そこで“自分って本当に男性としてダメなんじゃないか”と思ってしまったんです。その時はなかなか踏み切れなかったのですが、その後クリニックに行ってED治療薬を処方してもらった時に、“実は若い患者さんってすごく多いので、心配しなくていいですよ”と言われて、すごく救われた。

現在、ほとんどのクリニックでは、ED治療のキャッチコピーとして“若い頃の自分を取り戻そう”と謳っていますが、実際には20~30代の患者も非常に多い。

若い患者さんは“若いのに悩んでいる自分はダメなのでは”と思って自己否定してしまいがち。若い患者さんも大勢いると思えるようなコミュニケーションや相談できる場所が、今の世の中には必要です」(平野さん)

話すこと自体が一つの解決策。でも「話さなくていい」という選択肢も必要

フェムテックの商品やサービスについて語るカマーゴさん。

恥ずかしい、人に知られたくない。でも誰かと悩みを共有して、独りじゃないと思いたい。そんなジレンマを解消するカギを握っているのが、フェムテックでありメンテックだ。

平野さんのエピソードに共感を示しながら、カマーゴさんはフェムテックの商品やサービスが世の中に及ぼす影響について解説した。

「フェムテックの領域でも、とくに妊活で困っている人が“周りに同じ悩みの人がいない”と考えていることが多い。(性や身体に関する話題は)まだまだタブーであり、恥ずかしいと捉える人が多く、人に話すこともできないので、解決策までたどり着くのが難しいんです。しかしそういうプラットフォームや商品・サービスを気軽に探せる場というのが、国内でも最近やっと出てきたと感じますね」(カマーゴさん)

「自分は独りじゃない」と知ること。フェムテックとメンテックがその選択肢を与えてくれる。

モデレーターの井土さんも、過去に携わった女性向けWebメディア『Ladies Be Open』での経験を振り返りながら、様々な形で“悩みを共有すること”の効能について語った。

「話すということ自体が一つの解決策。しかし、“どうしても話せない、話したくない”という人がいるのは現実ですし、その人たちを否定したくはない。私も、状況や環境によっては話せなかったと思うので。話す以外の選択肢がどれだけあるのかということが、非常に重要。

たとえばポッドキャストを聴いたりとか、検索してみたりとか、ふらっと立ち寄った百貨店でフェムテック商品に出会ったときに、“自分ひとりが悩んでいる訳ではないのだ”と気づける。そういう選択肢を与えるというのが、フェムテックとメンテックなのでは」(井土さん)

身体や性の悩みは、人間なら誰もが抱えているもの。

まずは「自分は独りじゃない」と知ることから、全てが始まる。

そして身体の中の正直な感覚や悲鳴には、自分自身でしか気付くことができない。まずは身体と一対一でしっかりと向き合う時間を設けて身体の声に耳を傾け、その上でフェムテックの商品やサービスに頼ってみてはどうだろう。

人間関係も環境も常に移ろいゆく人生において、“一生の付き合い”が唯一確定しているのは自分自身の身体という場所。つい身体に無理をさせてしまう人も、もっと身体をていねいに慈しむことで、より人生を豊かで幸福なものにすることができるかもしれない。

撮影/中山実華

このトピックとかかわりのあるSDGsゴールは?