現代のビジネスに不可欠なのは、持続可能な経済の成長と社会課題解決の両立だ。そんななか、革新的なサービスやプロダクトで社会や環境問題にインパクトを与えるスタートアップ企業の存在も求められてきている。

2024年3月8日の「Well being conference──これからの社会と私たちのウェルビーイング」では、社会課題に向き合い、ビジネスの力で解決していく、そんな視点を持ったスタートアップ企業4社による、ビジネスピッチコンテストを開催。

「シェアバッグ」で人にも地球にも優しいサステナブルな物流の仕組みをめざす、comvey 代表取締役の梶田伸吾さん、地域の事業と農家を支える、陽と人 代表取締役の小林味愛さん、就職活動のプロセスが正しく評価されるサービスを展開する、ABABA CEOの中井達也さん、そして、助産師による妊娠・出産・子育てサポートサービスを提供する、Josan-she’s 代表取締役の渡邊愛子さんがプレゼンテーションを行った。

人と地球に寄り添う。繰り返し使えるエコなシェアバッグ

comvey 代表取締役の梶田伸吾さん。オンラインストアで買い物をする際、消費者は段ボールなどの梱包かコンベイのバッグかを選ぶことができる。商品を受け取ったら郵便ポストに投函し返却する仕組み。
撮影/伊藤圭

ECの普及によって、歯ブラシ1本でも自宅まで届く便利な時代。一方で、大量の梱包ゴミや返品などの環境への影響や、配達員不足などが問題視されている。日本では約9割の段ボールがリサイクルされているが、実際にはその製造と回収、リサイクルの過程において大量のCO2が発生している。ここに、波紋を投じたのがcomvey 代表取締役の梶田さんだ。

梱包や配送の関係で脱炭素化が難しいとするEC事業側と環境への影響を危惧する消費者側の目線に立ち、繰り返し使えるcomvey(コンベイ)「シェアバッグ®︎」を開発

シェアバッグ®︎はリサイクル可能なポリエチレン生地を使用している。

「ポリエチレンは一般的には海外産になるが、どのような原料を使っているか、製造時にどれほどのCO2が出るのか、すべて責任を持ちたいので国産を使っています」と梶田さんは説明する。

「EC事業者のシェアバッグ®︎導入のメリットとしては、段ボールに比べてCO285パーセント以上の削減、お客さんのリピート購入の増加物流コストの削減があります」(梶田さん)

梶田さんは、環境への影響をなくしていくには、一人ひとりが自ら選択することだと話す。

「サステナブルを一方的に押し付けるのではなく、あくまで選択肢を提示して、お客さん自身が自分で考えて行動していく。これにより売り手と買い手の両者でサステナブルを実現することができるのではないでしょうか」

地域を起点に、社会の「優しさ」を循環させる

陽と人 代表取締役の小林味愛さん。東日本大震災をきっかけにボランティアに留まらずビジネスの力で福島の人々を支えようと考えた、と語る。 撮影/伊藤圭

「2017年、事業計画もなくいきなり起業して、福島県に移住しました。とにかく地域の人の役に立とうと手探りでさまざまなお手伝いをするなかで、地域の人たちが本当に必要としていることが見えてきたのです

移住先は、人口約8000人、農家の平均年齢70歳の国見町。

地域の人々と働く中で、まず着目したのは、儲からない農業を変えることだ。

「国見町では、生産される桃の約4割が廃棄されていました。そこで、廃棄される桃を全量買い取り、独自の出荷オペレーションでお客様に直接販売できる仕組みを作りました。その結果、これまでに150トン以上の廃棄を削減することに成功したのです」(小林さん)

さらに小林さんは、女性の健康課題解決にフォーカスしたサービスを考案。生理で不調を抱える現代の女性が少しでも自分をケアすることができるよう開発したのが、『明日わたしは柿の木にのぼる』というプロダクト。

地域の特産品であるあんぽ柿の製造過程で廃棄されてしまっていた柿の皮を活用しています。

売れた分は生産者に還元される。海に流れても大丈夫な天然由来100パーセントの精度で作る。そして、プロダクトを通して専門家と一緒に知識も届けています」

DE&Iの研修にも使えるようなオリジナルプログラムも作成しているという。陽と人の活動によって、地域そして女性がもっと活躍する社会が実現されるだろう。

学生も企業も気持ちよく。採用の新しい在り方

ABABA CEOの中井達也さん。
ABABAのサービスを思いついたきっかけは、就職活動で苦戦し悩んでいた友人だった。 撮影/伊藤圭

ABABAは、採用か不採用か、結果だけが重視されてきた、従来の就職活動のあり方を覆す新しいサービスを展開する。最終面接まで行ったが不採用となってしまった学生を企業がスカウトできるというものだ。

「大手企業の最終面接まで進んだ学生さんだったら、ほかの企業も声をかけたいほど優秀なはずです。でも、『不採用』を恥ずべきことと捉えて隠してしまう学生が多い。そこに情報の非対称性を感じたのです」(中井さん)

学生は履歴書に加え、どこの企業の最終面接まで進んだのかを記入することができる。

それを見た企業の人事は学生に声をかけることが可能。これによって、10人採用するために1000人の母集団を集める必要性があったような企業が、10分の1の100人で採用を仕切ることができたという事例もあると中井さん。

また、ユニークなのが「お祈りエール」という仕組みだ。最終面接まで頑張った「お墨付き」をもらったような形で、ライバル企業や類似企業からスカウトが届くようになる。

学生の就職をサポートし、さらに企業の採用の課題も解決するABABA。最後に「ABABAを使って、企業間で連携した採用を実現する『採用のエコノミクス』をぜひ皆さんで一緒に作っていきたい」と今後の意気込みを語った。

家族と助産師をつなげ、出産から育児をもっと楽に

Josan-she’s 代表取締役の渡邊愛子さん。自身の助産師としての経験から、「もう1人産みたい」と思える女性を増やしたいという思いが生まれた。 撮影/伊藤圭

女性の子育ての負担を軽減したい、助産師の活躍を推進したい」。元助産師でもあったJosan-she’s 代表取締役の渡邊さんが(そんな想いで)つくったのは、フリーランスの助産師による産後ケアを手間なく受けることができるサービスだ。

女性の産後クライシスの原因は、出産から退院までのフローにあると思っています。出産から約1週間で母親は赤ちゃんのケアについて学ぶので、父親よりも先に育児ノウハウを身につけてしまいます。こういったことで女性は負担を抱えてしまい、出産への壁を感じる原因となっています」

1人で抱え込みがちな女性はもちろん、子育てに遅れをとってしまいがちな男性への支援にもつながる。夫婦の間に助産師が入ることで、円滑な関係を維持できるといったケースもあるとのことだ。

またこれは家族をサポートするだけでなく、産院が直面する顧客獲得や助産師獲得の課題をも、解決できるという。

「今、日本には推定で10万人ほど助産師資格の保有者がいます。しかし、実際働いてるのは3.8万人。潜在化している62%の助産師が産院と一緒に手を組んで働けるよう、Josan-she’sを通して、産院から委託を受けることができる仕組みをつくりました」(渡邊さん)

育児はずっと続いていくもの。渡邊さんは「生まれた瞬間から助産師が伴走することによって、様々な選択肢のハブになりたい」と渡邊さんは事業への想いを語った。

日本を超えて、世界にインパクトを

審査員を担ったA. GLOBAL 代表取締役の金松月さん。 撮影/伊藤圭

今回のピッチコンテストで用意されたのは、「社会インパクト賞」と「環境インパクト賞」。それぞれ、Josan-she’s 渡邊さん、comvey 梶田さんが受賞した。

審査員からアドバイスとコメントが寄せられた。

ジャーナリストの浜田敬子さんは、Josan-she’s 渡邊さんに対し、「子育支援が十分ではないという現実に寄り添うサービスとしてインパクトがありました。特に医療分野では人手不足が深刻化するなかで、そういった課題の克服にもなると思います」とコメント。

ニューラル CEOの夫馬賢治さんは、コンベイの梶田さんに対し、「物流に関するCO2の問題は既に大きい問題になっています。今日は初めて学んだことがたくさんあり、コンベイのソリューションに非常に期待しています」と話した。

最後に、A. GLOBAL 代表取締役の金松月さんからは、「日本だけじゃなく、世界を変えていくことに着目し、今後も頑張ってください」と登壇した起業家へエールを送られた。

Wellbeing conference ──これからの社会と私たちのウェルビーイング

撮影/伊藤圭

スタートアップピッチコンテスト 審査員

金松月氏(A. GLOBAL 代表取締役)/服部結花氏(インクルージョンジャパン 代表取締役)/浜田敬子氏(ジャーナリスト)/夫馬賢治氏(ニューラル CEO)/村上由美子氏(MPower Partners Fund L.P. ゼネラル・パートナー)/松山馨太氏 (New Commerce Ventures 代表パートナー)