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2024年夏、パリパラリンピックが開催される。あらゆる困難を乗り越えトレーニングを積んできたトップアスリートたちが、目標や想いを胸に競い合う。

パラスポーツが持つ偉業を感じることができる最高峰のステージだ。

東京都は、企業・団体の枠を越えて、パラスポーツを通じて誰もが個性を発揮できる未来をめざすプロジェクト「TEAM BEYOND」を2016年に立ち上げた。

TEAM BEYONDは、パラリンピック開催に先駆けて「TEAM BEYOND CONFERENCE」を2月1日に開催。「パラスポーツで社内外に新しい風を起こす」。そんなビジョンをもった各社・各団体が集まり、パラスポーツ支援事例を紹介した。

健常者と障がい者を分ける必要はないという「当たり前」

TEAM BEYOND CONFERENCEの様子。パラリンピックを支援する企業の事例や意見を聞きに多くの参加者が訪れた。

この日登壇したのは、ブリヂストン Global CCO・Global 広報・Global ビジネスサポート管掌の鳥山聡子さん、アシックス パラスポーツ企画部 部長 君原嘉朗さん、方角 代表取締役 方山れいこさんとアイシン 塩浦尚久さん。最後には、手話エンターテイメント発信団「OiOi」(おいおい)による手話ワークショップが行われた。

1人目の登壇者はブリヂストンの鳥山さん。企業としてどのようにパラリンピックをサポートしているのか、事例とともに実現したい社会のあり方について話した。

同社は、グローバルパートナーとして2015年から現在までオリンピック・パラリンピックをサポートしている。鳥山さんは、同社がグローバルパートナーになった初年からパラリンピック支援と社内外コミュニケーションを担当。

パラリンピックは国によって位置付けが異なり、トピックも文化によって違うため、それぞれの社会課題に応じて活動をしているという。

同社の取り組みの中核は、ブリヂストンアスリートアンバサダーと、かれらを応援するすべての人々で構成される「TEAM BRIDGESTONE」。「CHASE YOUR DREAM『さまざまな困難を乗り越えながら、夢に向かって挑戦し続けるすべての人の挑戦・旅(Journey)を支えていく』」というメッセージのもと、パラアスリートとの交流会、技術サポートなどを行なっている。

「ブリヂストンの社内メンバーとパラアスリートの交流会やパラスポーツ体験を実施したりなど、接点をつくってきました。また、当社のものづくりの技術を活かし、トライアスロンの選手、秦由佳子さんの義足や、車椅子のタイヤを作ったりなど技術面でも貢献してきました」(鳥山さん)

鳥山さんはこれまで、サステナブルにパラリンピックを支えていくにはどうしたらよいか、と考え続けてきた。

「2020年に開催した東京大会で感じたのは、大会終了後メディアが一切取り上げなくなったこと。

発信力のある選手やメダルを獲得した選手以外の競技を取り上げてくれないのです。もっと持続可能なサポートをしていかなければ、多様な人材が活躍する世界は実現できません。

さらに、当時はコロナ禍で世の中に閉鎖感が漂っていました。先が見えない中で練習に取り組む選手たちを支えたい、そう思いパラリンピック・オリンピックの魅力を伝えるYouTubeチャンネルを立ち上げました。『いつだって景色は動くことで変わっていく』というメッセージを織り交ぜた選手たちの練習動画や、有識者とアスリートたちの対談など、さまざまなコンテンツをつくっています」(鳥山さん)

こうして改めて見ると、健常者と障がい者で分ける必要はないという当たり前に気づいたと鳥山さん。固定観念に縛られていては、個人、社会、そして組織に新たな価値を創造することはできない。

広い視野で、パラリンピック・オリンピックを通して何ができるかを考えていきたい、と今後への強い想いを語った。

リアルな体験が自分ごと化するきっかけに

後述する「OiOi」による手話ワークショップの様子。基本的な挨拶から他者とコミュニケーションをとるうえで頻発する言葉の手話をレクチャー。

続いて登壇したのは、アシックス パラスポーツ企画部 部長の君原さん。企画部発足まもなくから、多くの企業、団体、大会のさまざまな部門と協働しアクションを行ってきた。

主に、車椅子や義足などのプロダクトを展開するオットーボック・ジャパンと共にスポーツ用義足を開発したり、Googleとの協働企画で視覚障がいのあるランナーをサポートする「ASICS World Ekiden 2022」を開催した。

そんなアシックスがめざすのが、共生社会の実現。

まずは社内でパラスポーツへの理解を促進しよう」という想いのもと、研究部門や人事部門とワークショップを実施。車椅子、視覚障がいとしてのアイマスク、半身麻痺の装具を着用する体験や、Eラーニングなどを通して社内メンバーのリテラシー向上に努めてきた。

「社員の理解を増進し、もっとさまざまなことに経験してもらうことで、現状とありたい姿のギャップは埋めることができると考えています。リアルな体験を通じて、パラスポーツや障がい者の観点を自分ごと化してもらいたい」(君原さん)

「スポーツを通じて子供たちの未来を支えたい」。これは、アシックスが創業時から大切にしてきた哲学だ。君原さんは、スポーツがもつ未来と世界を変える力を信じて、インクルーシブな社会をつくっていきたい、とスピーチを締めくくった。

各社の得意を掛け合わせた『ミルオト』

試合中のさまざまな音がオノマトペとして可視化される。 画像/PR TIMES(ミルオト)

後半は、方角の方山さんとアイシンの塩浦さんが登壇。アイシンと方角は早稲田大学 理工学部 岩田研究室と協働し、試合中のその場の雰囲気・応援をリアルタイムに可視化する音の表示システムを搭載した『ミルオト』を開発している。

デフリンピック(聴覚障がい者のための世界規模の総合スポーツ競技大会)、聴覚障がい者の競技大会での活用をめざし、デフリンピック日本代表選手の練習や大会に同行し身体の動きに関するデータを取得するなど、開発に至るまであらゆる段階を踏み試行錯誤してきた。

方角の方山さん、アイシンの塩浦さんは、開発にあたり最も大切にしていることがあると話す。

「デフリンピックは、聴覚障がい者のための大会。私たちは、常に『当事者ファースト』でいることを大事にしているので、聴覚に障がいのある当事者も開発のメインチームに入れながらプロジェクトを進めています」(方山さん)

ラケットで打つ音、ボールが跳ねる音、シューズの音、拍手の音や歓声。現地、遠隔問わず、耳の聞こえない、聞こえるに関わらず誰もがスポーツの臨場感を楽しむことができる『ミルオト』が、当たり前のように活用される未来が楽しみだ。

最後に行われた、手話エンターテイメント発信団「OiOi」のワークショップでは、カンファレンスに集まった全員が手話を体験。コミカルな演出と音楽で、手話が持つ表現の豊さと暖かみを伝えた。