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2024年4月、スイス・バーゼルで開催された欧州フェムテック関連サミット「Women’s Health Innovation Summit in Europe」。

2日間にわたり、欧州における女性の健康の現状に関するディスカッションやフェムテック系スタートアップのショーケースなどを開催。

製薬会社、医療機器会社、スタートアップ、投資家、政府代表など350人以上の業界専門家が参加した。

今年で3回目を迎えた医療アジェンダの最前線を議論するイベントを、女性の健康サポート企業「ジョコネ。」代表取締役 北奈央子さんがレポートする。

欧州のフェムテックは、よりテクノロジー志向

バーゼルの会場。参加者層は、製薬/医療機器&診断/バイオテクノロジー関係者が30%、スタートアップ/フェムテック/起業家/イノベーションに関わる人が25%を占めた。ヨーロッパ、アフリカ、イスラエルなどが中心、アジアからの参加者はまだ少ない。 撮影/北奈央子

女性の健康課題解決の一手段としてフェムテックに注目が集まる昨今。欧米のフェムテック起業家も日本と同じ課題感がある、と北さん。

「社会の中で女性の身体のこと、健康のことが置き去りにされてきたことに問題を感じ、それを変えなければと立ち上がる起業家が本イベントでも多く見られた」という。

一方で、ヨーロッパでのフェムテックは日本のフェムケア商品よりもテクノロジー指向であり、生理や妊娠だけでなく、更年期も含めた女性の健康全般に対する研究とイノベーションが進んでいる。

「印象的だったのは、いろいろな年代の、いろいろな国を出身地として持つ女性が頑張っていること。『私は60代、更年期を超えてハッピーよ』とスピーチする女性もいるほど。大学などで研究をしていて、その技術をもとに起業をしている女性もいますし、自分が感じた課題感から起業している女性もいて、40代の私より年上の人も大勢いました」と、年齢を問わず、課題感を感じた女性たちが立ち上がる風潮がみられた。

ピッチコンテストで優勝した「Egal pads」もそのひとつ。

ロールタイプの生理用ナプキンの企業で、無償化の方向で学校や自治体にアプローチをしていくビジネスモデルを提案している。

Egal padsの代表 Penelopeさん(右)と、ジョコネ。代表取締役 北奈央子さん(左)。 撮影/北奈央子

また、起業家を支援する体制にも違いがあると北さんは指摘。起業家だけではなく、スタートアップに出資するベンチャーキャピタルにも女性の存在が目立った。

「フェムテックで起業しても、男性のキャピタリストに理解されず資金調達に困るのはフェムテック起業家によくあることです。

これはヨーロッパでも一緒で、起業家が意味のないハードルによって潰されることがないように、理解のあるキャピタリスト、医療関係者、エンジニア、といったステークホルダーを集めてエコシステムを作ろうという動きがある。また、ヨーロッパにはフェムテックに特化したアクセラレータープログラムもいくつかあり、フェムテックのスタートアップが育ちやすい環境ができています」(北さん)

「更年期」に注目したセッション

セッションの様子。 撮影/北奈央子

「更年期」をテーマにしたセッションも行われた。更年期領域は世界的に注目されており、ヨーロッパでは更年期をタブー視せずに前向きに対策を進める動きがあると、北さんはいう。

「日本で更年期はネガティブなイメージが強く、女性自身も更年期であることを受け入れて周囲に話すことをあまりしません。それはヨーロッパの国でも似た状況とのことで、更年期対策の一つのポイントは“更年期をタブーではなくす”ということでした。(中略)

教育は、女性自身だけでなく、男性も含む周囲に必要で、社会全体で理解することの大切さも話題に上っていました。

パネリストの女性が、ヨーロッパの有名企業に更年期対策の福利厚生サービスの紹介をしたところ、重要性が理解されなかったと嘆く場面も。社会として重要性を認識して前向きに対策をとっていく、これは世界共通に推し進めていかなければいけない」(北さん)

骨粗しょう症対策など、ユニークなスタートアップ3社

以下、会場で見られたスタートアップを3つ紹介する。

Bilihomeウェブサイト screenshot from https://www.bilihome.org/

アフリカ出身オランダ在住のMargretさんが代表をつとめるBilihome」。産まれてすぐ黄疸によって家族と引き離されて入院を余儀なくされてしまう赤ちゃんと家族のために、黄疸を自宅で改善できるリモートケアのデバイスとサービスを開発する。

The Blue Boxの試作品。 撮影/北奈央子

乳がん検診を尿検査でできるようになる「The Blue Box」(スペイン)。

まだ試作段階だが、「マンモグラフィーは痛そうで、と遠のいている人によさそう、日本の乳がん検診の受診率向上にもつながるかもしれない」と北さん。

「Porous」ウェブサイト screenshot from https://porous.care/

超音波を使って早期に骨密度の低下発見につなげる「Porous」(ドイツ)。

「骨粗しょう症は女性の健康を扱う中でとても大きな課題。でも痛みもないので、骨が折れるまで気づかない。でも骨密度は20代をピークに低下しますし、すぐに改善するものではないので、実は早く取り組むことが必要。気軽に受けられて、早めに自分の現状がわかって、そして日々の中で気を付けられれば、人生100年時代、寝たきりを減らすことができるだろうなと思いました」(北さん)

「フェムテックは世界共通の課題。

国や地域関係なく、このムーブメントがさらに広がり、いつかフェムテックという言葉がいらなくしたい」と北さんが話すよう、今後の成長が期待できる領域だ。

Women’s Health Innovation Summit in Europe

取材/北奈央子、構成/MASHING UP