「才能のある女性の起業家が成長し、規模を拡大し、最高の起業家になっていく──その一路となり支えていくことが、私にとって最もワクワクすること」。そう話すのは、She Loves Techの共同創業者、リアン・ロバースさんだ。
2015年の創業以来、スタートアップエコシステムにおけるジェンダーギャップの解消にコミットし、テクノロジー分野での女性起業家の活躍を促進する、世界最大のアクセラレータープログラム、およびスタートアップコンペティションとなったShe Loves Tech。現在、世界80カ国以上、1万5,000ものスタートアップを支援している。
「この10年間で私たちは大きな変化を世界にもたらしてきたと感じています。それでもまだ、やるべきことはある」。テクノロジー分野における女性活躍のフェーズに、ロバースさんが与えてきたインパクトとはどのようなものなのか。
ロバースさんはShe Loves Techと合わせて、4つのビジネスを立ち上げてきた連続起業家。最初に手がけたビジネスは不動産事業、2つ目はニューヨーク初のフィンテック「Hedge Club」、3つ目はアーティストと買い手をつなぐプラットフォーム「COMISH」だ。She Loves Techの共同創業者であるバージニア・タン(Virginia Tan)さんとリア・シー(Rhea See)さんに出会ったのは、COMISHの事業を進めている時だった。
「She Loves Techは、バージニアが創設したLEAN In Chinaのスピンオフとしてスタート。
「Girls Love Tech」で若い世代のキャリア選択をサポート
画像提供/リアン・ロバース「女性起業家への投資はチャリティーではない、ビジネスだ」。信念に駆り立てられるまま事業を成長させ、女性起業家向け教育プログラム、スタートアップコンペティション、ブートキャンプ、グローバルカンファレンスの開催など、多岐に渡り活動の幅を広げてきた。
カンファレンスは、LinkedInの創設者リード・ホフマン、Trip.comのCEOであるジェーン・サン、Microsoftのグローバルダイバーシティ責任者など、名だたる著名人が登壇するまで拡大。
また、2021年には、シンガポール政府 情報メディア開発庁(IMDA)と共に「Girls Love Tech」という10~20代向けのプログラムをスタートさせた。そこには、若い世代に技術分野のキャリアに進むイメージを掴んでほしいというロバースさんの想いがある。
「Girls Love Techのプログラムには、『ディスカバリートラック』という12~16歳の子を対象としたトラックがあります。ここでは、イノベーションのヒントは身近なところにあることをまずは知ってもらいます。技術的なバックグラウンドがなくても誰もがテクノロジー分野で活躍することができるということを伝えていきたいのです」(ロバースさん)
さらに、このトラックでは、テクノロジーに関する幅広い知見や、他分野と掛け合わせた思考なども育むことができる。「単なるコーディングやAIの導入知識を教える訳ではありません。彼女たちが持つスキルや技術に、私たちは付加価値を与えたい」とロバースさん。たとえば「AIと倫理」という、技術とイノベーションを責任感と倫理的視点で見る力を養うことを目的とするプログラムも提供している。
17歳から23歳までが対象の「アントレプレナートラック」では、起業家になるまでのAtoZを教えている。
起業家ネットワークに根強く残るジェンダーギャップ
ロバースさんは創業当時から現在に至るまで、どのような課題と向き合ってきたのだろうか。
「起業家の多くは男性で、カンファレンスやコンペティションに参加すると男性ばかりで、アクセラレータープログラムも男性主導ですよね」。問題は、そういった男性中心の起業家向けプログラムを女性起業家にも当てはめてしまうことだ。「男性と女性では、社会的にも生物学的にも、文化的にも異なります。女性起業家が持つスキルは、男性中心のプログラムとは違う枠組みで捉える必要があります」
さらに、起業家のネットワークやコミュニティを取り巻くジェンダーギャップについても、このように提言する。
「『性別も年齢も肌の色も関係ない』と言う人がいますが、それは危険なことです。違いを見なければ、自分自身が持つ偏見に気づくことができない。人は皆、自分と同じ背景を持った人や、同じような見た目の人とコミュニティをつくりたがります。本当に必要なのは、インクルーシブなネットワークをつくること。そして、女性が自分の強みや特性を生かし、課題を克服するための支援を適切な方法で行うことが重要なのです」(ロバースさん)
こうした考えに基づくShe Loves Techのプログラムは、インド、スリランカ、バングラデシュ、パキスタンといった国々のエコシステムにも影響を与えている。
「カラチでのイベントでは、最大手の電力会社の社長、外資系企業のCEOや銀行の総裁、政府の閣僚などが登壇しました。かれらが私たちを支援する理由は、自分たちの娘のためにもより良い国を築きたいと考えているからです。
若年層の女の子たちがイベントを見て、『私も宇宙技術を学ぶことができるんだ』、『私もテクノロジー分野で活躍することができるかもしれない』と感じるようになってきた。パキスタンは確実に変わってきています」(ロバースさん)
※後編に続きます。9月12日公開予定です。