撮影/中山実華

いまの日本企業は、なぜイノベーションを起こせないのか。それは既存事業を深めていく〈知の深化〉と、新規事業を展開する〈知の探索〉を同時に進める「両利きの経営」ができていないからだ。

THS経営組織研究所の代表社員で、ビジネス・ブレークスルー大学大学院 経営学研究科 客員教授でもある小杉俊哉さんは、「イノベーションを生み出す〈知の探索〉には、ダイバーシティを推進することが欠かせない」と指摘する。

2024年7月26日のMASHING UPオンラインセミナーVol.12では、そんな小杉さんをスペシャルゲストに迎え、〈両利きの経営から学ぶDEI「変革型人材」の育て方〉と題し、イノベーションのためにダイバーシティが必要な理由や人材育成のヒントを聞いた。

今の日本でイノベーションがおきないのはなぜか

世界と比較して、日本の生産性は下がる一方だ。

労働生産性を上げるため、日本企業は残業規制などでインプット(労働投入量)を減らし、効率アップを進めた。対して、欧米やアジア諸国は単位時間あたりのアウトプット(付加価値、生産量)を極大化することに力を注いでいる。

一口に生産性向上と言っても、前者は直線的な増加の「改善」で、後者は指数関数的な変化が見込める「イノベーション」。イノベーションとは新結合・既存知の組み合わせだが、その組み合わせは遠ければ遠いほど画期的なアイデアが生まれやすい。

「生物学的な見地から言えば、年長のオスは自分の地位を危うくするチャレンジをして、変革を起こそうとしません。変革を起こすのは、劣位にあるメスや若年のオス。だから、イノベーションには女性活躍やキャリア採用など、ダイバーシティを推進することが欠かせないのです」(小杉さん)

スタンフォード大学ジェームス・マーチ教授が唱える「両利きの経営」において、日本企業は〈知の深化〉は得意でも、イノベーションに必要な〈知の探索〉は苦手と考えられている。

だがトヨタは、米ウォルマートが売れ行きに応じて必要な分だけ調達していたことを参考に生産方式を確立。ヤマト運輸は、吉野家の牛丼一本で勝負する姿にヒントを得て、個人宅配に特化することで成長を遂げた。

このように、かつての日本はさまざまなイノベーションを生み出してきたのだ。

にもかかわらず、現在イノベーションが起きないのはなぜか。

リーダーシップはマネジメントと同義ではない

情報提供/THS経営組織研究所

「『マネジメントとリーダーシップを同義と考える人は、変革をマネジメントの手法で推進しようとし、コントロールしようとする。これでは、変革を乗り切ることはできない』。ハーバード大学ビジネススクール名誉教授 ジョン・コッターによるこの一文だけで、日本企業にイノベーションが生まれない理由を説明できます」 (小杉さん)

イノベーションを生むには、まず「マネジャーとリーダーの違い」を正しく認識すること。

社長・部長・課長という役割を正しく行うHOWを課題とするのがマネジャーで、役割に関係なく時代に応じた正しいことを行うWHATを課題とするのがリーダーだが、現在の日本では、リーダー=マネジャーだと考えている人が多いようだ。

では、いま企業は具体的に何をすべきか

撮影/中山実華

それは、労働時間の一部を「明日の飯の種」のために使う仕組みを導入することだ。

Google 20%ルールや3Mの15%カルチャーのような、目の前の業務に80、85%、中長期的な将来に向けた仕事に20、15%使っていいという制度が好例となるが、こういったことも昔の日本では行われていた。就業後や休日に自主的に集まり、会社には内緒で研究するヤミ研などあったが、現在はガバナンスやコンプライアンス上、同じことはできない。

そこで、社員が将来に向けた仕事にも取り組めるよう、「改めてルール化すること」と「評価制度を見直すこと」を小杉さんは提案する。

「 とくに次世代のリーダー層は、短期的にやらなければならないことをやるMBO(Management by Objectives)に加えて、一定の割合を中長期的なミッション・ビジョン実現のために自らやりたいことをやるOKR(Objectives and Key Results)やKPIで加点する評価方式に変えることをおすすめします 」 (小杉さん)

取材・文/ 山本千尋 、撮影/中山実華

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