こうした報道を目にするたびに、今後どうすべきかと頭を悩ませているDEI担当者や経営層は少なくないだろう。今年最初のオンラインセミナーVol.21のテーマは 「2025年のDEI&ESGを読む。トランプ政権で日本企業はどう動く?」。
MASHING UP理事でグローバル事情に詳しい、SDGインパクトジャパン 代表取締役の小木曽麻里さんとニューラル 代表取締役CEOの夫馬賢治さんに、日本企業への影響や今後のDEIとの向き合い方について、投資家からの視点も交えて話を聞いた。
格差問題、社会の分断は日本も他人事ではない
分断が進む米国の動向に世界が注目しているが、この分断はいまに始まったことではない。1992年にブラジルのリオデジャネイロで開催された国連環境開発会議(地球サミット)、このとき採択された「アジェンダ21」の持続可能な開発を実現するための行動計画をめぐり、2014年時点で、すでに民主党を支持する賛成派と共和党を支持する反対派に各州は2つに分かれていた。
気候問題にしろ、ダイバーシティにしろ、反対派の声が急速に支持を集めるようになった背景には、格差問題がある。経済学でいうところの「エレファント・カーブ」、新興国の中間層が台頭し、高所得者層の資産がどんどん増すなかで、“象の鼻” の根本にあたる先進国の中・低所得者層の所得は増えず、社会に対して強い不満を抱くようになっていった。
加えて、共和党支持者と民主党支持者ではオールドメディアへの信頼に大きな差があり、共和党支持者のうちオールドメディアを信じる割合は、2014年の時点で20%にも満たなかったというデータの紹介もあり、現在ではさらに進んでいると思われる。そもそも情報を得るメディアが違い、認識するファクト自体が異なる。そのため、両者は議論すらできない状況に陥っているのだ。
「2022年以降の急速なインフレがトドメを刺しました。所得格差に対する不満がSNSの広がりやオールドメディアへの信頼の揺らぎにより、加速して燃え上がっている状況で、社会の安定基盤が揺らいでいる。
米国に右倣えは時期尚早。日本は落ち着いて対処を
マイクロソフトがリストラの一環としてDEIチームを解散、ウォルマートは人種平等研修を見直し、メタも採用面で多様性に配慮することをやめるなど、多くの米企業がDEIに関する方針転換を表明している。最初はLGBTQ+イベントへのスポンサーシップと社内トレーニングをやめる動きが中心だったが、1月20日にはDEI廃止の大統領令が署名され、これを受けてボンディ司法長官はDEIプログラムを持つ企業の調査を開始、企業はDEIプログラムの名称変更に留まらず、縮小や中止を迫られている。
そもそもこれら一連の動きは、2023年6月の米連邦最高裁によるアファーマティブ・アクション(積極的差別是正措置)の違憲判決に端を発し、昨年12月にはナスダックの「取締役の多様性基準」が米連邦巡回区控訴裁判所で無効になったことも大きく影響している。訴訟社会の米国で、企業が違憲になることを避けた結果とも言えるだろう。これらの訴訟の根拠になっているのはDEIが白人男性を逆差別している、という不満であり、掲げられているのは「地位や報酬は個人の能力や実績のみに基づいて決められるべきである」というメリトクラシーの思想だ。メリトクラシーは機会の不平等を助長し、格差を拡大すると言われるだけに、時代の巻き戻しが起こっていると言わざるを得ない。
だが一方で、ヒューマンライツキャンペーン(HRC)のジェンダー平等指数参加企業は過去最高の1400社に達する見込みで、米シンクタンク、ピュー研究所の昨年調査によると、成人被雇用者の56%がDEIにフォーカスすることは「好ましい」と回答。「好ましくない」と答えたのは、わずか16%だ。また、DEIの事情や企業と取り巻く環境が国毎に異なる中、「日本では人手不足が進み、女性の活躍も遅れる中で、DEIの進んでいる日本企業と進んでいない日本企業では、明らかに企業価値に差がある」と小木曽さんは指摘する。
「訴訟リスクを恐れバックラッシュが進む米国と、DEIが法体系に組み込まれている欧州。その真ん中にいるのが日本です。
セミナーでは、ほかにも、
- 投資家から見たDEI & ESG
- DEI縮小の動きが出てきたときの対処法
- DEIと企業ガバナンス
などのトピックスを紹介しました。
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