ASTRA FOOD PLAN株式会社の加納千裕CEOは、規格外作物や食品工場から出る食品残さのアップサイクルに取り組んでいる。「かくれフードロス」問題の社会的インパクトを強調し、市場規模の大きさを説明した。
撮影/MASHING UP

2025年3月12日、女性や多様なバックグラウンドを持つ起業家を支援するスタートアップ伴走プログラム「Japan Inclusive Ventures Lab」(JIVL)が、プログラム参加企業を交えた初のイベント「Japan Inclusive Ventures Lab – Tokyo Day– 」を開催した。

本プログラムは、三菱UFJモルガン・スタンレー証券が2024年に立ち上げたもので、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)の戦略的パートナーであるモルガン・スタンレーが海外で展開する「Morgan Stanley Inclusive & Sustainable Ventures」の知見を活用している。すでに今年のプログラム参加者の募集もスタートしている。

初年度の伴走企業に選ばれた2社のCEOが、6カ月間のプログラムの成果を発表したほか、日本のスタートアップエコシステムの課題と可能性について議論するパネルディスカッションも行われた。

日本のスタートアップ支援に新たな視点

Ms.Engineer株式会社のやまざきひとみCEO。「日本の賃金格差を解消する」ことをミッションにかかげている。海外でのプレゼンテーションを経て得たものは大きかったと話す。 撮影/MASHING UP

JIVLは、女性やマイノリティなど、多様なバックグラウンドをもつ起業家が抱える課題に焦点を当てたプログラムとして設立された。日本のスタートアップ業界において、独立・起業時の女性起業家の割合は34%にとどまり、IPOに至るケースはわずか2%という現状がある。このような背景もあり、JIVLではシード、アーリーステージのスタートアップを中心に、グローバル市場を視野に入れた支援を行っている。

イベントでは、プログラムに参加したASTRA FOOD PLAN株式会社の加納千裕CEOと、Ms.Engineer株式会社のやまざきひとみCEOがプレゼンテーションを行い、それぞれの事業内容やJIVLを通じて得た学びを共有した。

多様な視点で日本のスタートアップを議論

後半のパネルディスカッションでは、日本のスタートアップの発展に向けた課題と展望について議論が交わされた。

MPower Partners Fund L.P.ゼネラル・パートナーのキャシー松井さんは、「日本のスタートアップエコシステムにはジェンダーフォーカスが不足しているが、多様な視点が加わればエコシステム全体が成長できる」と指摘。また、JETROイノベーション部次長の樽谷範哉さんは、スタートアップがグローバル展開するためには 、国際的なチームの編成ならびに海外メンターや海外投資家との連携が重要だと話した。

カイテク株式会社の武藤高史CEOは、 社会課題解決ビジネスをどのような思いで進めているのかという質問に対して、超高齢社会に対応するスタートアップの視点から「介護・医療業界の人材不足を解決するためのワークシェアアプリを提供し、 世界一幸せな高齢化社会を目指している」と語った。

後半のパネルディスカッションの様子。右奥より、カイテク CEO 武藤高史さん、JETROイノベーション部次長 樽谷範哉さん、MPower Partners Fund L.P.ゼネラル・パートナー キャシー松井さん、三菱UFJモルガン・スタンレー証券の南里彩子さん。 撮影/MASHING UP

グローバルな視点と長期的支援の重要性

JIVLの特徴として、海外のスタートアップエコシステムとの連携や、長期的な視点での支援が挙げられる。 樽谷さんは「世界市場に出るか出ないかに関わらず、スタートアップはシード・アーリー段階でシリコンバレー等の世界のエコシステムに存在する競合企業をみておくことが重要。日本のスタートアップも早い段階でグローバルな視点を持つべきだ」と述べた。

また、「日本の女性起業家はネットワークの不足や情報格差に直面している。JIVLのようなプログラムがこれらの課題を解決するための鍵となる」と松井さんは、さらなる支援の拡充を求めた。

日本のスタートアップエコシステムの今後

今後のJIVLの方向性について、三菱UFJモルガン・スタンレー証券チーフ・サステナビリティ・オフィサーの南里彩子さんは、「JIVLは多様なバックグラウンドを持つ起業家を支援するプログラムだが、今後もより幅広い層にリーチできるように工夫していきたい」と語った。

松井さんは「アメリカではDEIに対するバックラッシュがあるが、日本はむしろ今こそリーダーシップを取るチャンス。人口減少が進む中で、多様な人材の活躍なくして日本の持続的成長はありえない」と、コメントした。

JIVLは今後も、日本のスタートアップエコシステムの発展を支える存在として、多様な起業家の挑戦を後押ししていく方針だ。

「Japan Inclusive Ventures Lab」(JIVL) https://www.morganstanley.co.jp/ja/jivl

取材・文/遠藤祐子(MASHING UP)

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