2019年11月開催ビジネスカンファレンスMASHING UP Vo.3では、「女性活躍」の実情を話し合い、それに代わる言葉を見つけるというセッションが行われた。
Business Insider Japan 統括編集長の浜田敬子氏をモデレーターに、社会学者であり東京大学名誉教授の上野千鶴子氏、アドビのバイスプレジデント秋田夏実氏、女性向けエンパワーメントメディアを運営するブラストの代表取締役社長石井リナ氏が登壇。年齢も立場も環境も異なる4名から続々と本音が飛び出した。
女性活躍のスピードは遅く、日本はまだ過渡期
社会学者・東京大学名誉教授・認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長 上野 千鶴子氏。「女性活躍という言葉はもう古いんじゃないかという話を一部の企業で聞くことがあります。そんな言葉や女性活躍に関する制度・政策は必要ないのでは? とも。皆さんが今感じていることをお聞かせください」
浜田氏の問いかけでセッションがスタートすると、真っ先に口を開いたのは、ジェンダー研究のパイオニアである上野氏。
「女性活躍と聞いたとたん、気持ち悪いって思う。その前は『女性が輝く』だったでしょう。こちらも気持ち悪い。女性を男性に置き換えてみるとわかる。『男性活躍』『男性が輝く社会』って言葉って、どうか。気持ち悪いでしょう」(上野氏)
日本企業と外資系企業の両方を経験している秋田氏は、女性活躍の苦労もダイバーシティを実践する企業での働きやすさも体感している。
「私が大学卒業後に総合職として入社したのは、典型的な日本企業。当時、女性の総合職を採用する企業は少なく、その企業も男性250人に対して、女性はたったの6人。他に履歴書を送っても門前払いされることもありました。その頃に比べると日本社会も変わったと思いますが、そのスピードはまだ遅い。日本はまだまだ過渡期なのかなと感じています。一方、今勤務しているアドビはとても働きやすいんです。例えば、同じ仕事をしているのであれば、性別や年齢、国籍は関係なく一律同じ給料で、昇進の機会もまったくの均等。フェアネスですよね」(秋田氏)
アドビ バイスプレジデント 秋田 夏実氏。一方、登壇者の中で一番の若手となる石井氏は、「女性活躍という言葉にあまり違和感を持っていない」という。
「日本は当たり前に男女平等な国であると、数年前まで思っていたんです。私は会社を設立する前は、IT系の広告代理店でSNSのマーケティングを担当していました。
おっさん文化を変えなければ、日本は巨艦沈没する
ブラスト代表取締役社長 石井リナ氏。ここで浜田氏は、「日本企業が変わらない背景の一つは、ここでは先がないと思った女性は独立するか、外資系の企業に転職するということもある」と語り、日本企業は、女性を正当に評価して登用している企業と、そうでない企業の二極化が起きていると分析する。
これに秋田氏が同意。
「まさに二極化が進んでいると思います。女性が自身の力を最大限に発揮していけるようになるには、環境がものすごく重要です。いきなりそのポジションにポンと置かれただけでは、なかなか難しい。男性なら“飲みニケーション”の場でいろいろな情報が入ってきたり、決まったりするのですが……。その輪に入れなければ、結果としていろいろな情報から疎外され、自分が取り組んでいるプロジェクトも認知されない。ものすごくハンデになっていると思います」(秋田氏)
それを聞いて浜田氏と上野氏は同時に「男性は助け合いがうまいから」と大きく頷く。続いて上野氏は「そういう古い体質の企業は、秋田さんのような人がきちんと活躍してる企業と比べると、長期的に市場競争に負けるだろうと経済学者は言っています。
さらに上野氏は、役員・管理職の女性比率をあらかじめ設定する「クォータ制度」の必要性を強調する。
「クォータ制度は絶対に必要だと思います。男女平等先進国の北欧諸国やフランスを見ればわかるように、強制力を伴うクォータ制度なくして変化した社会はありません」(上野氏)
秋田氏も必要性を感じているが、単に制度を導入するだけでは本当の女性活躍は望めないと語る。
「目標数値を達成するためだけに、他者からできる女性役員を連れてくるとか、あの子はかわいいからとりあえず昇進させておこう……などということが起きかねません。本当に会社に根付くようにするためには教育が必要だと思います。しっかりとサポートできるメンターをつけて、子育てや介護との両立といった悩みにもこたえ、ロールモデルを作り上げていく。そうすることで、クォータ制度が必要ない時代になるのではないかと考えています」(秋田氏)
一方、浜田氏は「私も過渡期である今はクォータ制度が必要だと思いますが、それは女性に対する『上げ底』ではないかという声も聞かれます。男性からだけでなく、女性からも。今までずっと男性が上げ底だったにもかかわらず……」と話すと、石井氏は「女性男性かかわらず何人かに、数で決めてスキルのない女性が上に立たされることは不服と話されたことはります。
ここでも上野氏が「男は散々上げ底されてきたのだから、女がちょっとぐらい上げ底されて何が問題なの」と息まくと、会場は笑いに包まれた。
「ダイバーシティ」への言い換えはごまかしに過ぎない
最後のテーマは、「女性活躍」という言葉。浜田氏が「例えば“人材の多様化”だとか、別の言葉に置き換えることで問題は解決するのでしょうか」と水を向けると、石井さんは「解決すべき問題はまだたくさんあって、言葉を変えると逆にふわっとして、本質的な問題は解決しないんじゃないかと思います」と回答。
秋田氏と上野氏も、言葉を置き換えることには疑問を投げる。
「性別だけでなく人種や国籍など色々なものがひとつの場所にいて、影響し合うことからものすごい活力が生まれて生産性がアップする──そのことを肌で実感しているので、多様性は重要だと思います。ただ、日本企業の現状を考えると、“人材”と括ってしまうのはまだ早いかなと」(秋田氏)
「多様化=ダイバーシティですよね。男女平等とダイバーシティは別なものにもかかわらず、男女平等を口にしたくない人たちがダイバーシティと言ってごまかそうとしているんです。一番良いのは、こんな言葉がなくなること。ただ、『男女平等を実現すべき』とは言わなければなりません。それがまったく実現されていないのに『女性活躍は古い』とはどこの誰が言うんだと思います」(上野氏)
この後、セッション参加者から出された意見のなかで、特に驚きと憤りの声があがったのは、日本人とフィンランド人を両親に持つ女性からの「色々な企業や省庁へ挨拶に行くと、英語を話すとちゃんと聞いてもらえるのに、日本語で話すとおじさんたちの態度が豹変して低く見られてしまう」という意見。
これには秋田氏が「そういった場面は数多く見てきましたし、私自身も経験があります。要所要所で自分の発言や振る舞い、話し方などを含めて、自分がその場をリードしているという空気感を作ることが大事。
この後も時間いっぱいまで熱い議論が続き、セッションは終了。
日本社会で女性が置かれている現状を改めて思い知らされ、自分たちにできることは何かと考える機会を提供してくれた内容だった。
MASHING UP vol.3
「女性活躍」はキモチワルイ?ー新しい言葉を見つけよう
撮影/c.h.lee
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