漁船を改造したおんぼろ宇宙船『ビバップ号』で、2071年の宇宙を旅する賞金稼ぎ(カウボーイ)達の活躍を描いたSFアニメ作品『カウボーイ・ビバップ』。この作品の主人公である「スパイク・スピーゲル」は、もじゃもじゃ頭に長身痩躯、常に加えている煙草がトレードマークのニヒルな男です。
普段はあらゆることにやる気が無さそうな態度のスパイクですが、有事の際には得意のジークンドーと愛銃「ジェリコ941改」を武器に賞金首を相手に奮闘します。

【※一部、ネタバレの内容を含む可能性が御座います。ご注意下さい。】

■どんな賞金首が相手でも、自分の流儀を貫く

 スパイクの魅力を語る上で外せないのは、なんといってもその人間味溢れる言動や行動です。カウボーイの立場でありながら、捕まえるべき賞金首に対しても自分の感情を第一に行動していきます。そんなことばかりしているので、ビバップ号は「肉抜きチンジャオロース」が食卓に並ぶくらい貧乏です・・・。
しかし、それこそがスパイクのカウボーイとしての、さらには人間としての流儀であり、最大の魅力なのです。

 映画版「天国への扉」で賞金首に銃を向け、にやりと笑って言い放った一言。「殺しゃあしねぇ、賞金がパァになるからな」は、これまで見たアニメの中でも屈指の痺れる台詞でした。

■格闘戦でも銃撃戦でも戦闘機での空中戦でも、とにかく魅せる!

 結果だけ見ると決してカウボーイとしては優秀とはいえない(毎度賞金首を取り逃がしたり、捕まえた賞金首にかけられた金額よりも多い額の損害を出すため)スパイクですが、その戦闘能力や戦闘機の操縦技術は非常に高いです。

 ブルース・リーを師と仰ぎ、独学で修めたジークンドーで並の犯罪者程度は軽く捻れるほどですし、レース用の機体を改造した戦闘機「ソードフィッシュII」で逃げる賞金首達を追い詰めていきます。

 しかし、戦闘においてもっともスパイクが輝くのは、危険な場面や窮地に陥った時です。
どんなに絶望的な状況でも、常に軽口を叩きながら自らの力で困難を切り抜けていく様子には思わず「カッコいい・・・」と声が漏れてしまうこと間違い無し。特に第五話「堕天使たちのバラッド」と最終話「ザ・リアル・フォークブルース」で魅せる、宿敵ビシャスとの戦いは作画や演出、台詞回し、音楽までも全てが高レベルで楽しめます。

■過去と現在を繋ぐスパイクの左右の瞳

 物語が進む中で明らかになっていくスパイクの過去は、カウボーイとしてのドタバタなストーリーの中で、時折彼が漂わせる虚無的な雰囲気の元となっています。かつてチャイニーズ系マフィア組織「レッド・ドラゴン」に所属していたスパイクは、とある理由により組織を抜けようとしたことで襲撃を受け、その結果、スパイクは公には「死亡」した扱いとなりました。しかし、実際には右目を失いながらも生き延びていたのです。失った右目には、本来の瞳とは色の違う義眼が嵌められています。
作品の終盤にビシャスとの戦いに赴くスパイクは、彼を止めようとするフェイに語ります。

「俺は、片方の目で過去を見て、もう一方でいまを見てた。目に見えているものだけが現実じゃない。そう思ってた。醒めない夢でも見てるつもりだったんだ。いつのまにか醒めちまってたな。」

 一度死んだ男として、スパイクはカウボーイになり生きてきました。
ジェットやフェイ、エドと過ごしてきたカウボーイとしての日々こそが、彼にとっては「醒めない夢」だったのではないでしょうか。

 それは、視聴者たる我々が見てきた『カウボーイビバップ』という作品そのものに対するメタ的な要素が含まれているようにも感じられます。しかし、再び宿敵であるビシャスと出会ってしまったことで「醒めない夢」から醒めなければならない。過去に残してきた、失った右目で見続けてきた過去を清算しなければならないと決意したのです。そして彼はビバップ号を出ていく間際に、こう言い残します。

「死にに行くわけじゃない。
俺が本当に生きてるかどうか確かめにいくんだ」

 カウボーイビバップはビバップ号のキャラクター達も魅力的ですが、その魅力を存分に引き出す脚本、演出、音楽に溢れた名作です。全ての回がオススメ回となっております。個人的におすすめなスパイクが活躍する話は、8話の「ワルツ・フォー・ヴィーナス」と19話の『ワイルド・ホーセス』、25話&26話の「ザ・リアル・フォークブルース」です。皆さんも是非、『カウボーイ・ビバップ』そして「スパイク・スピーゲル」の魅力を堪能してください。

【原稿作成時期の都合により、内容や表現が古い場合も御座いますがご了承下さい】

★記者:サイコロ親分(キャラペディア公式ライター)