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Text by 辰巳JUNK
Text by 後藤美波



1億8,300万人が視聴した『ユーロビジョン・ソング・コンテスト2021』で優勝を果たし、一躍世界にその名を知らしめたイタリアのバンド、Måneskin(マネスキン)。英米のロックに憧れるローマの若者たちで結成された4人組は、昨年7月にSpotifyグローバルチャートで1位を獲得した。



欧米の音楽チャートではロックバンドがヒップホップやR&Bアーティストの勢いに押されるようになって久しいが、クラシックなロックンロールを鳴らすイタリアのバンドはいかにして突如ブレイクを果たしたのか。そのカギは、かれらが体現する「2022年らしい」バンド像にあるのかもしれない。



世界的ブレイクまでの道のりと、規範にとらわれない自由で反抗的なアティチュードに光を当てながら、『SUMMER SONIC 2022』で初来日するMåneskinの特異性を紐解く。



「これだけは言いたい。ヨーロッパ、そして世界よ、ロックンロールは絶対に死なない!」



2021年度『ユーロビジョン・ソング・コンテスト』(※)優勝ステージにおけるダミアーノ・デイヴィッドの宣言は、真実となった。いまや、アメリカを中心にロックサウンドが大流行中だ。

一方、同国の「バンド不況」はまだ続いているかもしれない。オリヴィア・ロドリゴ、マシン・ガン・ケリーなど、「ロックの復活」トレンドの担い手はソロ歌手ばかりなのだ。



そんななか、「近年で世界的に成功した希少なロックンロールバンド」と評される存在こそ、ダミアーノがボーカルをつとめるMåneskinである。アメリカを含む世界各国でヒットを連発している彼らのSpotify月間再生数は、Metallica、The Beatles、The Rolling Stonesといった大御所バンドの上をいった(*1)。初来日となる日本での単独公演もソールドアウトするなど、その波はとどまる気配がない。



Måneskinの世界的成功は、韓国グループ、BTS以来のサプライズかもしれない。

Z世代の彼らは、ロックリスナー以外の若年層を惹きつけたことで「バンド不況」の壁を破った。さらに、イタリア出身で、イタリア語歌詞の楽曲も英語圏でチャートヒットさせることで言語の壁も超えた。ジェンダーレスなファッションから自由主義にもとづく政治性に至るまで、「2020年代のロックバンド」像はなんたるかを象徴するような存在なのだ。

<俺の話は、やつらには通じない>
<だけど、マジで信じてるんだ/これで一発当てられるって/道は上り坂だとしても だから今、鍛えてる>
(“Zitti E Buoni”)
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2010年代なかば、ローマの高校で結成されたMåneskinは、イギリスとアメリカに憧れるロックキッズたちだった。しかしながら、メンバーいわく、イタリアでは、彼らのようなギターロックはマイナーになっており、若手が育つシーン環境も欠乏した状態だという。イギリスのパブのようなバンド演奏環境がないローマで、当時ティーンの彼らはストリートでパフォーマンスを行ない、観衆を味方につけていった。



2017年には音楽コンテスト番組『Xファクター イタリア』で2位となり、国内人気を形成。しかし、Måneskinが見ていたのは、世界だった。ダミアーノは語る。



「Måneskinの成功は、イタリアの音楽業界に真の変革をもたらすチャンスなんだ。ヨーロッパの国では、海外での成功が難しいと考えられているから、アーティストはリスクを冒さない。俺は、世界進出が可能だと証明したい。

音楽に国境はないはずだ」(*2)



ロックの新星マネスキンが貫く「愉しむ」マインド。自由で反抗的な態度でイタリアから世界を魅了

Måneskin (左から:ヴィクトリア・デ・アンジェリス(Ba)、トーマス・ラッジ(Gt)、ダミアーノ・デイヴィッド(Vo)、イーサン・トルキオ(Dr)) photo: Francis Delacroix



そして、奇跡を起こした。2021年、「今どきロックなんて誰も聴かない」と言われながら『ユーロビジョン』でサプライズ優勝を果たしたのだ。「自分たちの音楽で世界を変えたい」という野望を込めたイタリア語楽曲“Zitti E Buoni”は、同イベント演奏後、ヨーロッパを中心に大ヒットしていき、イタリア人アーティストとして史上最高のSpotifyデイリー再生数を樹立した。



「俺の話は、やつらには通じない」「だけど一発当てられる」。そうイタリア語で叫ぶ“Zitti E Buoni”の内容そのまま、Måneskinは歴史をつくったのだ。



ストリートパフォーマンスのルーツに示されるように、Måneskinはライブ重視のバンドだ。

世界的成功の一因もここにある。彼らの音楽は、TikTokで好まれやすい。2021年には “Zitti E Buoni” が人気を集めたのち、数年前にリリースしていたThe Four Seasonsのカバー “Beggin'” が年間最大級のバイラルを巻き起こした。



「バンド不況」のアメリカでも大ヒットした“Beggin'”の魅力こそ、ライブ感だ。プロデューサーによると、この音源は、低予算のなか、急いで録音されたスタジオセッションだという。ゆえに、今日のポピュラー音楽では修正されがちな「人間的な荒々しさ」が人々を惹きつけていったと推測されている。

それはそのまま、生演奏にこだわるロックンロールバンドだからこその魅力といっていいだろう。ダミアーノいわく、彼と同じZ世代のリスナーは、Måneskinの楽曲を「聴いたことのない新しい音楽」だと感じているそうだ(*3)。

<若かりし日に経験する目立つことへの恐怖/美しいモラル、未熟な人々による/世俗文化、ステレオタイプだらけの>
<でも僕には自分のやり方がある/人々からも注目されはじめ、度胸のある3人の友達がいる>
(“Lividi sui gomiti”)
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大志を燃やすMåneskinだが、基本的に「自分たちが愉しむこと」を最優先にするスタンスをとっている。ダミアーノが「過去の音楽のモダナイズ」と語るMåneskinの楽曲は、キャッチーかつ王道の1970年代調ギターロックが多い。そこに振り撒かれるのは、遊び心。たとえば、世界的なブレイク後にドラッグ摂取疑惑をかけられた際のアンサーソング“MAMMAMIA”。怒りを歌いながらも「なんでこんなにイケメンなのかって? イタリア人だからさ」と愉快に続けている。



オリジナル曲でヒットを連発したあとでも続けているカバー演奏も「愉しみ」にもとづいている。2022年に限っても、映画『エルヴィス』にエルヴィス・プレスリー“If I Can Dream(明日への願い)”のカバーを提供したほか、米『コーチェラ・フェスティバル』でブリトニー・スピアーズ“Womanizer”を歌った。



一方、カバー曲は「自作(曲の)自演」主義的な往年のロックコミュニティーからは物議とひんしゅくを買いやすい。そのような批判に対して、ダミアーノは「2020年代のバンド」宣言で返している。



「俺らにThe Rolling StonesやQueenみたいな振る舞いを期待しても無駄だ」「20歳がやってるバンドに、1970年代や1980年代の再現を期待するのって、愚かで無意味なことだよ。俺たちがいるのは2022年。自分たちが満ち足りて、ハッピーになれる新しいことをやろうとしている」(*2)



このモダンな自由主義は世界的成功の主要因かもしれない。バブルガムポップを含めたさまざまな音楽ジャンルを演奏してきたからこそ、若者ウケする作詞作曲スキルをはぐくみ、キャッチーなかたちでレトロロックを進化させられたのではないだろうか。



ベースのヴィクトリア・デ・アンジェリスによると、Måneskinが表現するテーマは「ありのままの自分でいていい」というメッセージだ(*4)。彼女のお気に入り曲“I WANNA BE YOUR SLAVE”にしても「君の奴隷になりたいけど君の支配者にもなりたい」と歌う、境界にとらわれぬセクシネスを愉しむロックンロールになっている。ちなみに、この曲を『コーチェラ』でパフォーマンスした際、ダミアーノはボンテージ姿を披露。「あんなバンド見たことない」といった反応を受けたという。



バンドのアティチュードは、グラムロックなファッションでも貫かれている。初期こそシンプルな服装をしていたMåneskinだが、活動するなかで「やりたいこと」に素直になっていった結果、濃いメイクや肌の露出を行なうスタイルに行き着いたという。規範や境界がますます曖昧になっていっている今日らしい、「自由に愉しむ」結果としてのジェンダーレスといえる。



クィア当事者として「すべての人々が安全な場所」づくりに励んでいるヴィクトリアにとって、ファッションは重要なレプリゼンテーションだ。



「私たちの存在が、セクシュアリティーを受け止めたり、カミングアウトの助けになったと言ってくれるファンがたくさんいる。『おかげで安心してメイクやネイルできるようになった』って男の子も。小さく見えることでも、恐怖や不安を抱えている人にとっては、とても大きなことだったりする。それだけで強くなれるくらいに」(*2)



ロックの新星マネスキンが貫く「愉しむ」マインド。自由で反抗的な態度でイタリアから世界を魅了

Måneskin



Måneskinの社会規範に反抗するアティチュードは、ロックスターの王道ともいえる。一方、表現を通してさまざまな立場のファンを肯定し包括的ファンダムを形成する信念は、まさしく2022年のいま求められるカリスマ性だろう。



きたる3rdアルバムでは、政治性が増すとの噂もある。セクシュアルマイノリティー抑圧が高まるポーランドのステージで同性同士のキス、侵攻を受けるウクライナへの支援イベントにて書き下ろし曲“We’re Gonna Dance on Gasoline”を披露するなど、社会問題との関わりの注目が増しつづけている。



さまざまな期待が飛び交うなか、今年5月にリリースされた新曲“SUPERMODEL”は、ロサンゼルスでの体験をもとにした明るい一曲となった。「彼女(への恋は)諦めろ」と主張する曲中、ダミアーノは「だって彼女の恋人はロックンロール」と連呼する。ロックンロールそのものを知らなかった若者たちの「恋人」となった2022年のバンドに相応しい咆哮だ。