Text by 吉田薫
5年の歳月をかけて制作されたNetflixシリーズ『プリズム輪舞曲』。1900年代初頭のイギリスを舞台に、画家になる夢を追う少女の成長と恋を描いた物語だ。
本インタビューでは、企画・プロデュースの櫻井大樹も同席のもと、30年以上にわたり恋愛を描いてきた神尾に「恋愛ドラマで描きたいこと」や、パンデミックや戦争など社会情勢が混乱する現代において、希望に溢れる女性を描いた意味について聞いた。
―5年前にこの企画が始まったとお聞きしました。どのようなきっかけだったのでしょうか?
神尾葉子(以下、神尾):ある日、SNSのダイレクトメールに櫻井さんから「一緒にアニメーションを作ってみませんか」というメッセージが届いたんです。最初は「これ、詐欺なんじゃないか」って思いました(笑)。
櫻井大樹(以下、櫻井):怪しいですよね(笑)。
神尾:でも、実際にNetflixのオフィスでお話をうかがったら、2時間後には「来週、プロットを書いて持ってきます」と言ってしまうくらい、櫻井さんのご提案が面白くて。
櫻井さんからは、1900年代初頭に女の子が1人で海外に行って、そこでいろいろな人と知り合ったり成長したりする話を書くのはどうか、というご提案をいただきました。最初はフランスが舞台の設定だったのですが、櫻井さんのお話を聞いて「イギリス貴族との恋愛が描きたい」と思ったので、舞台をイギリスにすることを提案しました。「じゃあイギリスにしますか」という、そんな感じでどんどん決まっていったんです。
主人公の一条院りり
―1900年代初頭という時代設定、女性が海外に行く、イギリス貴族との恋愛という3点は最初から決まっていたんですね。
神尾:そうですね。
櫻井:最初はフランスで、画家の世界を描くイメージだったんです。でも神尾先生が「イギリスのほうがテーマに合うし、恋愛ドラマとしても面白くなるんじゃないか」とおっしゃってくださって、それは本当にその通りだなと。
フランスは共和制なので貴族がいないんですよ。貴族との恋愛は、言語の壁、文化の壁にくわえて身分の壁もある。恋愛ドラマとしてもさらに面白くなると思いました。
それに、ヴィクトリア女王という、国の一番偉い人が女性というところも重要でした。当時の日本では女性の美術教育は、「嫁入り道具」の一つとしかとらえられていませんでした。そんな時代に、女性がトップの国で美術を学ぶーーテーマと時代背景と舞台がぴったり一致して、女性が活躍する物語になると考えました。
―プロットの段階で、かなり物語が出来上がっていたそうですね。
櫻井:ほとんど出来上がっているぐらいの感じでした。名前もどんどん決まっていて。
神尾:名前がないとイメージが膨らみにくかったので、先に名前をつけたんです。
櫻井:キットという名前は絶対に思いつかないですよね。
神尾:キットはあだ名なんです。クリストファーの略で、みんなが本名を言えないからキットと呼ばれているという設定は、ストーリーをつくっていくなかでみんなで考えたアイディアなんです。
櫻井:じつは、キットは現実ではあまり一般的でない名前なんです。「キット」と呼びたいというのが先で、後付けでクリストファーにしたんです。そこが天才的なんですよ。
神尾:覚えやすい名前がいいなと思ったんです(笑)。
大貴族の息子で天才画学生、キット・チャーチ
―りりというキャラクターについてもお聞きしたいです。非常に行動力があり、前向きですが、子どもらしいところも残っていますね。どのようなことを大事にして作られましたか?
神尾:コロナ禍にお話をいただいたので、世の中が割と暗い時代だったんですね。そのときにエンターテインメントが担う役割はすごく大きいなと思っていて、見た人が元気になる女の子を描きたいと思ったんです。
りりのことを書くと私も元気になって。先日、声優の種﨑(敦美)さんにお会いしたのですが、アフレコでりりを演じるとすごく元気になるとおっしゃってくださって、それがすごく嬉しかったです。
生きづらい世の中でいろんなことが制限されているけれども、本人は元気で頑張っているというのが、一番大事に描いたところだと思います。
―周りのキャラクターたちも印象的ですね。
神尾:周りのキャラクターは、夢を諦めてしまう人だったり、そもそも絵を趣味でやっている人だったり、多様さを意識しました。りりとキットが一直線に夢を目指すキャラクターなので、彼らとは差別化して少しリアルな感じにしようと思ったんです。
例えば、りりの下宿仲間のドロシーは、絵が好きだから学校に通っているけれど続けようとは思っていない。子沢山のお母さんになるのが夢だという女の子です。
それぞれの成長や到達点は別々に設定しました。
櫻井:そのおかげで最初に想定していたよりも、すごく群像劇になりましたね。それぞれのキャラクターにドラマがあってより面白くなったと感じています。
(左からピーター・アンソニー、小早川新之助、ドロシー・ブラウン、ジョフリー・オブライエン、一条院りり)
―物語で描かれている恋愛についてもお伺いしたいです。後半、りりがキットと別れた後、全編モノクロになる表現が大胆だと思いました。
神尾:りりが日本に戻ってきてからの、17話以降の特殊な表現ですね。りりが筆を置いてしまい、キットともお別れする。その二つはりりにとって、光なんですよね。それがないと世界が色を失ってしまう。
物語のなかで色を失って取り戻したときにすべてが色づいて、自分自身も取り戻すことができるということを表現したかったんです。
神尾:脚本には「色を失ってしまった」と書いたのですが、画面をモノクロにすることを決めたのは中澤監督だと思います。「こんな感じにしましたけどどうですか」と提案されて、素晴らしすぎて私はもう声を失うというか、こんな表現の仕方をされるんだと感動しました。
櫻井:あれは技術的に言うと、色調補正しているんじゃなくて、絵描きたちが実際に白と黒で描いているんですよ。だから彩度とか明度をいじっても普通の画面にならないんです。
背景美術も白黒で描きますし、色が戻った後の色も新たに作らなきゃいけない。
神尾:すごく大変だったと思います。おかげで、りりの気持ちが素晴らしいかたちで表現されて嬉しいです。
―神尾先生は33年にわたって恋愛をテーマにした作品を描かれていますが、1900年代の恋愛を描くにあたって、描き方を変えたりしましたか?
神尾:これがですね、変えてないんです。恋愛はいつの時代も普遍的なテーマなのでしょうね。
ただ時代によってあるものとないものがあって、スマートフォンとかはそうですよね。恋愛ドラマの話を進めていくのにはすごく偶然性が必要で、それがドラマチックになったりしますよね。例えば、花火のときに混雑のなかではぐれちゃうとか。現代は電話すればすぐに合流できちゃうのでドラマにならないんですけど。
1900年代はそういった便利なツールがなかったので。りりとキットが出会うためにはすごく長い時間をかけて海を渡らなくてはいけないし、「キットらしき人を見かけた」と思っても見失ったら必死に探さなくていけないし。そういった大変なことを乗り越えての恋愛なので、すごくドラマが生まれるんです。
―スマホは恋愛ドラマにおいては障害とも言いますよね……。いま、恋愛は普遍的なテーマとおっしゃってくださいましたが、神尾先生がご自身の作品で描きたい恋愛とは、どういったものでしょうか?
神尾:磁石のように離れていても引き合ってしまうとか、すごくたくさんの人がいても、その人だけを見つけられるとか、そういう運命的なものです。
漫画的ですけど、いままでも描いてきましたし、この『プリズム輪舞曲』で描いた恋愛もそういった私らしい恋愛ドラマになっていると思います。
―神尾先生はエッセイ『花より漫画』で、本作の物語を書いている際、「こんな時代でも、まだ夢を語っていいんだろうか」「希望って描く価値があるものなのだろうか」と考えてしまったとおっしゃっていました。その答えのようなものは制作のなかで、見つけられたのでしょうか?
神尾:りりもキットも好きなことがあって、それを全力で守って大切にしています。「好きなこと」があるだけで、どんなことがあっても心が壊れないんですよね。
私もコロナ禍でストーリーを考えているときに、それに没頭できる自分がいてとても救われました。『プリズム輪舞曲』を制作するなかで、好きなことをかたちにするというのはこんなに素晴らしいことなんだと、あらためて強く思ったんですね。主人公たちとすごくリンクしていたというか。
答えではないですが、そういった気持ちにしてくれた作品でしたね。
―ありがとうございます。5年前といまとでは社会の状況が大きく変わったと感じています。いまこの作品を世に出すことの意味をどう感じていますか?
神尾:『プリズム輪舞曲』の世界は時代背景的にも第一次世界大戦前後で、決して自由ではなくて、戦争のために夢を諦めるキャラクターもいます。
5年前のことを考えると、普通の日々というのは本当に素晴らしいんだとしみじみ感じてしまって。「普通」が突然終わってしまった経験が私たちのなかにあるからこそ、りりやキットの物語に共感したり感じたりしてもらえるのではと思っています。
櫻井:個人的な夢がすべて吹っ飛んでしまうような社会的な出来事が起きてしまうことって、現代にも普通にありますよね。17話以降、最終話にかけてはそういったことが描かれるので、100年以上前が舞台の話ですが、すごく現代にも通じる物語だと思っています。
―最後に、これから作品を見る方、気になっている方に向けてメッセージをお願いします。
神尾:スタッフ総力を挙げて、「もうこれしかないよね」というところにたどり着いた作品だと思っています。ぜひ最後までご覧いただきたいです。日常を忘れて楽しんでいただけることが、私たち制作者の願いです。
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