Text by 西森路代
Text by 家中美思
連続テレビ小説『ばけばけ』(NHK)は、2026年3月いっぱいで放送終了を迎える。
主演を髙石あかり、トミー・バストウが務める本作の制作統括・橋爪國臣氏にインタビュー。
続く後編では、主人公・トキの親友・おサワをトキの「if」として丁寧に描くことに込めた思いや、オーディションの裏側で繰り広げられたキャスティング秘話について詳しくうかがった。
オーディションで髙石あかりが魅せた「怪談シーン」での圧倒的な存在感、ヒロイン候補だった円井わんの起用、そして「奇跡」と語るヘブン役トミー・バストウとの巡り合わせなど、ドラマを彩る俳優陣の魅力を紹介する。
―『ばけばけ』は、ヒロインの周りの人を描く物語でもあると思いますが、後半でトキの親友であるおサワちゃんにも焦点を当てることになったのはどういう経緯がありましたか?
橋爪國臣(以下、橋爪):おサワのことを書くということは、企画の立ち上げ段階から考えてたんです。というのも、おサワってトキの「if(もしも)」の話だと思うんです。
トキは、自分から道を切り拓いていくというよりは、目の前で起こるいろんなことを受け入れていくタイプです。錦織やヘブンの同僚である庄田が言っていたように、その姿勢が「シンデレラ」と評されることもある。逆におサワは、自分の力でやっていこうと考えている人です。トキのような人生だけでなく、人それぞれの生き方があるよということを描きたかったんです。
橋爪國臣(はしづめ くにおみ)。ドラマプロデューサー。大河ドラマ『青天を衝け』(2021年)、連続テレビ小説『ブギウギ』(2023年)などを手がけ、2025年度下半期の連続テレビ小説『ばけばけ』の制作統括を務める。
―ふじきさんは、あるインタビューで、おサワのことをもっと早くに書いてもよかったけれど、後半に持ってきたとも言われていました。
橋爪:おサワのことを最初からトキと同じように追ってもよかったんですが、最初に書いてしまうと、トキとヘブンの「純粋な心のつながり」が少し薄れてしまうということも考えられました。
トキとヘブンの心のつながりが書き終わった段階で、周囲の登場人物に何か起こるほうが、両方のエピソードがより際立つと考えたんです。トキが「らしゃめん」と言われてしまうエピソードも同様で、トキが女中になったときから言われていたのかもしれないけれど、そこはトキとヘブンさんの心がつながったあとに描くことにしました。
橋爪:だからこそ、そのあとは「社会のなかのふたり」にも焦点が当てられました。
そういった社会や2人の周りのエピソードを書き終えてから第20週からの熊本編で、またトキとヘブンのつながりの話、家族の話に戻っていくようになっています。
―前半で、トキがヘブンさんの女中になるときや、おサワが庄田からのプロポーズを断るという選択するときも、苦しくなりながら見ていました。「何も起こらない」と言いながらも、しっかりと苦しいことが出てくるドラマなんですよね。
橋爪:そうなんです。申し訳ないけど、苦しいことがたくさんあるドラマなんです。史実を読んでも小泉セツさんと八雲さんの人生って、耐えられないことがたくさん起こっている。
でもそのなかで、ふじきさんがなんでもない些細な面白いシーンをいっぱい書いてくれることで、その苦しさに耐えられる面もあったんじゃないでしょうか。
だって、人生において苦しいことがあっても、24時間のうちですべてが苦しいわけじゃなくて、笑ってる時間だってあると思うんです。それが人生だし、人の心の機微だと思います。本当に苦しい話ばかりだったら、しんどくて見ていられなかったかもしれない。そういうことが書けることが、ふじきさんらしさだなと思います。
―ヒロインのオーディションでは、参加者の周りを審査する人たちがぐるぐるまわったり、アドリブで突然お芝居に参入していったりと、けっこう変わったことをしたみたいですね。
橋爪:朝ドラのオーディションって3,000人くらいの方が参加して、それを7~8人のスタッフが3か月かかりっきりでみていくので、すごくお金も時間もかかることなんです。ヒロインにふさわしい人をキャスティングして「お願いします」って言えばそれでいいとも思うんですが、それでも僕はオーディションは必要だと思っています。
朝ドラのオーディションで最終まで残る人は、誰でも知っているような人ばかりで、お芝居ももちろんうまい。それでもオーディションをすると、本人も我々も気づかなかった「良さ」が見えるし、それがオーディションの持つ醍醐味だと思うんです。もちろん若手の俳優にとってはチャンスでもあるので、朝ドラのオーディションは大変だけれどやる意味があると思うんです。
―欧米では新人だけでなくキャリアを詰んだ俳優でもオーディションを受けるそうですし、昨今は日本でもその必要性を訴えている深田晃司監督のような存在もありますね。
橋爪:そうですね。
だからこそ、単に「審査」にはならないことをやりたいということで、少しほかとは違ったオーディションになったんだと思います。
アドリブで演技に入っていったのは、演出の村橋(直樹)なんだけど(笑)。それがプレッシャーになったらいけないとは思いつつも、ただ芝居をやってみせてくださいというのではなく、一人一人とキャッチボールもできるし、いろいろな芝居のパターンがあることを知ることもできる。何かしらの気づきを得て帰ってもらえるような場になったらという思いがあったんです。
―そんなオーディションの結果、髙石あかりさんがヒロインに選ばれたわけですが、髙石さんでなければいけない、という部分はどんなところに感じましたか?
橋爪:オーディションのとき、ヘブンさん役はまだ決まっていなかったので、代わりの人と一緒にお芝居をしてもらいました。
演じてもらったのは、蝋燭を持ってきてトキがヘブンに怪談を語りかけるシーンだったのですが、そこでトキを演じた髙石さんの演技に吸い込まれました。
他愛のないことをしゃべってるだけなのに、出来上がったドラマさながらの空気がオーディションの段階ですでに出ていた。このシーンは、ヘブンとトキが通じ合った瞬間でもあるんですけれど、距離感の変化を、髙石さんの芝居で一番感じました。それは僕だけでなくて、そのとき見ていた全員が感じたんです。
―おサワを演じた円井わんさんも、ヒロイン役のオーディションを受けていたそうですね。
橋爪:朝ドラのヒロインを決めるときに、NHKの上層部に報告するのですが、その際にヒロイン候補が万が一出演できなくなってしまった場合のために、次の候補を書いておかないといけないんです。
そこに僕は「円井わん」と書いて出しました。それくらい円井さんも素晴らしかったんですね。やっぱり、円井さんも人との掛け合いがうまい人なんです。だからこそ、結果的にヒロインの一番近いところにいる役にキャスティングしました。
―おサワがフィーチャーされる部分では、おサワがトキに対して感じていた複雑さがちゃんと出ていてよかったです。
橋爪:それでいうと、おサワに限らず、ふじきさんのキャラクターは、全員が善人でもなければ、悪人でもないんです。トキにしたって悪いところはいっぱいあるし。
ずっといい人って、リアルなキャラクターにならないと思うんです。おサワに関してもいろんなことはありましたけど、最終的には、トキとは違う生き方を選んだ。そして、サワはこの後も出続けますから安心してください。
―オーディションには、ふじきさんもいらっしゃったんですよね。
橋爪:ふじきさんは、キャスティングにはまったく口を出さないと決めている方なんです。
阿佐ヶ谷姉妹が演じる「蛇と蛙」の役だけは、アイデア出しのときに言っていましたね。
―トキの父親・司之介役の岡部たかしさんは、ふじきさんと昔から演劇ユニットで活動してきましたが、それでもキャスティングはふじきさんからの提案ではなかったとのことでしたね。橋爪さんが関わられた作品に岡部さんが出てらっしゃることが多いですよね。
橋爪:夜ドラの『あなたのブツが、ここに』(2022年)とか、朝ドラ『ブギウギ』(2023年)なんかも出ていましたね。
その頃、僕はまだ下っ端の助監督だったんで、たまたま一緒だっただけなんですけど、今回に関しては、ふじきさんの独特の世界を最も理解している人がいたほうがいいということで、私から提案しました。
まだヒロインが決まるか決まらないかくらいのときにキャスティング会議をしていたんですけど、ホワイトボードの中心にヒロインではなく岡部さんの名前を書いて、そこからメインキャストをどうしようかと決めていったんです。
中心に書いた岡部さんの周りに、小日向文世さんや堤真一さんなど大御所俳優さんの名前を相関図のように書いていったので、「我々のこのやり方は果たして合ってるんだろうか?」と冗談を言いながら会議をしたのを覚えています(笑)。
―トミー・バストウさんは、『SHOGUN 将軍』で共演した穂志もえかさんからオーディションの情報を聞いたとか、いろいろな縁があって出演にたどり着いたそうですね。橋爪さんが実際にトミーさんにオーディションをしてみたときの印象はいかがでしたか?
橋爪:こんなにヘブンを演じるのにふさわしい人がいたのか! ということに尽きますね。
この企画を始めたとき、ヘブンを演じられる俳優の顔を思い浮かべられなかったんです。だからオーディションをするなら、国外でも絶対にやらないといけないと思っていて、そうこうしていたら本人から連絡が来ました。
橋爪:実際にお芝居を見たときは、圧倒的なものを感じました。最初はZoomでの面接だったんですが、トミーさんは一度話をすると誰でも好きになってしまうような魅力を持ってる人なんです。実際に日本で初めて対面したときも、その印象は変わりませんでした。
見ていたらわかると思うんですけど、ヘブンのキャラクターって、かなり面倒くさくて嫌なところもありますよね。実際のラフカディオ・ハーンさん自身も、ヘブン以上にめちゃくちゃなところもあったと伝記にも書いてありますが、それでも周りの人たちから助けられていたんだそうです。
そういう人間的な不思議な魅力がトミーさんにもありました。そのうえ、日本語もできるし、お芝居もうまい。奇跡ってあるんだなって思いました。巡り合えて本当によかったです。
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