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Text by 原里実
Text by 生田綾



Sexy Zoneから名前を変えたtimeleszが、新メンバーを募集するオーディション「timelesz project」。9月13日からNetflix『timelesz project -AUDITION-』でその模様が配信されており、新エピソード公開のたびに大きな話題となっている。



timeleszのメンバーたち自身が企画を発案、メイン審査員を務め、外からやってくる仲間をみずから選ぶこのプロジェクト。



当初はスタッフサイドからさえも困惑の声があがったというが、それでも揺るぎない覚悟とともにプロジェクトを立ち上げ、選考を進める彼らの様子を真正面からとらえた『timelesz project -AUDITION-』の映像は、思わず手に汗を握ってしまうような緊張感にあふれている。かれらがこれほどまでに本気で推し進めるオーディション、その裏にはいったいどんな思いがあるのだろうか?



timeleszが新メンバー募集オーディションを行なうことを発表したのは2024年4月1日。



Sexy Zoneとしてのラストコンサートの翌日、ファンに向けて実施されたインスタライブのなかで、新しいグループ名を「timelesz」とすることと同時での発表だった。



その際には「全員に、いますぐ受け入れてもらえるとは思っていない。今後公開されるオーディションの模様などを通じて、徐々に理解を深めてもらえたら」という趣旨の発言をしていたメンバーたちだが、その後実際に始まった番組を見ていて深く感じるのは、かれらがメンバー増員という挑戦の道を選んだのは、Sexy Zoneというグループへの思いがあればこそだということだ。



2011年11月、中島健人、菊池風磨、佐藤勝利、松島聡、マリウス葉の5人組としてデビューしたSexy Zone。平均年齢14.4歳の若さで華々しいスタートを切ったが、その後の道のりは決して順風満帆ではなかった。中島・菊池・佐藤の3人をメインメンバーとして活動した「3人体制」時代や、松島聡の休養・復帰、マリウス葉の休養・卒業など、数々の揺らぎを乗り越えるなかで、「5人揃ってSexy Zone」であることをとても大切にしてきた。



かれらが大切にしていた「5人」が「4人」になり、そして中島の卒業によって「3人」になったいま、別の道を歩む2人の面影を探しながら活動するのではなく、まだ見ぬ才能を持った新たな仲間を迎え、心機一転アイドルとしての道を邁進したい。



そんな3人の思いは、マリウス葉が卒業する際にメンバーみずから作詞してつくった楽曲”timeless”を由来とし、語尾には「sz」という「Sezy Zone」の頭文字が隠された新しいグループ名「timelesz」にも象徴されているようだ。



さらに、オーディションの模様を番組として公開する意味としては、なんといってもファンへの思いが大きいだろう。

「5人揃ってSezy Zone」という思いは、長年苦楽を共にしてきたファンも、メンバーたちに負けない強さで抱いているはずだ。だからこそ、先述のインスタライブでは大きな賛否が起こり、その反応をメンバーたちも配信のなかでリアルタイムで受けとめた。



大好きなメンバーたちの決めたことを応援したい一方で、ずっと見守ってきたグループが変わっていく寂しさや不安も拭いきれない。そんな複雑な思いを抱えたファンにとって、現メンバーたち、そして仲間に加わるかもしれない候補生たちがどのような思いでオーディションに向き合っているのかを、番組を通じて深く知ることは、とても大切な機会になるだろう。



すでに配信済みのエピソード1、2を通じて実施された第二次選考では、歌や踊りなどの実技のほか、現メンバーたちによる面接審査が行なわれたが、このなかでメンバーたちは「timelesz、Sexy Zoneへのリスペクトがどれだけあるか」を非常に重視していた。その姿が安心材料になったファンも多かったかもしれない。



佐藤勝利は雑誌『anan』で「timelesz project」について語ったインタビューのなかで、「僕はずっとアイドルとしての自分に自信があったわけではない」という思いを吐露している。



それではなぜ続けてこられたのかといえば、「メンバー、家族、事務所、そして一番はファンの方」に、アイドルとして認めてもらったからなのだと言う。自分で自分を信じることができなくても、「アイドルであると信じてくれるファン」を信じていればこそ、ここまでやってこられた。応援してくれるファンへの強い思いを感じさせる言葉だ。



メンバーの菊池風磨、佐藤勝利、松島聡は、それぞれ個人でもタレントや俳優としてめざましく活躍している。そんなかれらが、大切なファンを悲しませるかもしれない「リスク」ともいえる、オーディションによる増員という選択肢をあえてとる理由は、アイドルとしての高みを目指すためにほかならない。



かれらはtimeleszの今後の目標として、「5大ドームツアー」「国立競技場でのコンサート開催」を掲げる。5大ドームといえば、東京ドーム、京セラドーム大阪、バンテリンドーム ナゴヤ、福岡PayPayドーム、札幌ドームの5つを指すことが多いが、この5つを制覇した実績を持つのは、事務所のグループのなかでも、SMAP、KinKi Kids、嵐、SUPER EIGHTの4組のみ(Snow Manも2024年11月から5大ドームツアーを開催)であり、確固たる人気と実力がなければ立つことのできないステージといえる。さらにその先の国立競技場ともなれば、有観客コンサートを行なった経験のあるアーティストは、SMAPやDREAMS COME TRUE、嵐、矢沢永吉など、国民的人気を誇るわずか8組にとどまる。



同事務所ではデビューからおおよそ3、4年以内には東京ドーム公演を行なうグループが多いなか、デビューから11年目を迎えた2022年にようやくその夢を叶えたかれらはいま、さらに大きな夢に向かって挑戦するために、このオーディションに賭けている。



候補生たちにとって、オーディションのゴールはアイドルになること。けれどそれはもっと大きな視点では、つねに上を目指して自分たちの力を磨いていく道のりのスタートに過ぎないのだ。



「アイドルになる」ことの先にある「アイドルでいつづける」道は、「なる」ことよりももっと困難で厳しい道のりなのかもしれない。番組のなかで交わされる、候補生と現メンバーとの言葉のやり取りを見ていると、そう思う。メンバーの言葉の端々から、果てしない「思考の広さと深さ」、そして「覚悟の強さ」を感じるのだ。



エピソード2のなかで、菊池風磨が「言葉の選び方」について言及する場面があった。自分の熱意を伝えるため、ある言葉をつかって思いを述べた候補生に対して菊池は疑問を投げかけ、良かれと思って選んだ言葉が、意図せず他人を傷つけることがあるかもしれないと想像してみることをうながしたのだ。



自分たちのファンの人、ファンではないけれどテレビでなんとなく見ている人、スタッフやスポンサーや関係者……さまざまな立場や思いを持つ人々に対して、可能な限りの想像力を働かせ、思いを馳せること。

そうしてそれらを踏まえたうえで、最終的には、自分がどうなりたいのか、どうやって生きていきたいのか、自分の道を自分の責任で選び取り、覚悟を決めて進むこと。



これは、市井に生きて働く私たちにとっても大切な、「人間力」とも呼べるものかもしれない。10代の頃からプロとして活動し、自分ひとりの決断がまわりの多くの人生をも左右するプレッシャーを幾度となく乗り越えてきたであろうメンバーたちの言葉には、ずっしりとした重みを感じてしまう。



第三次選考に進む36名には、ダンサーやシンガー、元アイドル、別のオーディション番組に参加経験のある人など、さまざまなバックグラウンドを持つ候補生が残った。



歌やダンスのスキルや、ぱっと目を惹く華やかさ、それにメンバーが重視していたtimeleszへの思いの強さなどいろいろな審査ポイントがあろうけれど、「言葉」という面でいえば、「自分の言葉で話そうとしている」「言葉に嘘がない」という印象を与える候補生が多く残ったように、個人的には感じた。



オーディション番組という特性上、候補生に対してもSNSではさまざまな声が飛び交い、なかにはネット上に残る候補生の過去の行動や発言への批判もある。こうした厳しい視線は、いままでメンバーたちがアイドルとして時に向けられてきたものであり、候補生たちもその入口に立ったにすぎない、ともいえるのかもしれないが、アイドルでいるということにおいていまの時代の環境があまりに過酷であることについては考えさせられるものがある。



もちろん、応援のメッセージやポジティブな感想もたくさんある。特に、ウェブサイト上で候補生たちのオフィシャル写真が公開された際には、「垢抜けた」「かっこいい」「番組の印象と全然違う」と驚きの声が多数上がった。



それは、プロのヘアメイクやカメラマンの手腕に加えて、応募総数18,922名のなかからオーディションという大勝負を乗り越えて選ばれた、という候補生の自負による側面もあるのかもしれない。表舞台できらきらと輝くアイドルを見ていると、この人は生まれたときからアイドルになることが決まっていたんじゃないか、とつい思ってしまうことがあるけれど、きっとそれは間違いなのだ。人生を生きるなかで培った人間力や意思の力、そして、自分でも気づいていない自分の魅力を周囲に見出され、たゆまぬ努力でそれに磨きをかけつづけることによって、人は少しずつアイドルになってゆくのだと思う。



松島聡はオーディション開催を発表したインスタライブのなかで、いままでは「先輩」として振る舞う機会がなかったことに触れ、新メンバーを迎えることが自身の成長にもつながるのではないかと期待を覗かせていた。配信済みのエピソード1では、緊張で足を震わせた候補生にオーディション終了後、「反動で疲れが来ちゃうと思うけどリラックスして」と優しく声をかけた。それは、パニック障害による休養と復帰という苦しい過去を乗り越えた経験に裏打ちされた、「後輩」への懐深いサポート力の片鱗だった。



これから始まる第三次審査では、候補生たちがグループを組んで作品づくりに挑むという。今後の選考プロセスを経て、候補生たちはますます変わっていくだろうし、かれらと触れ合う現メンバーたちもまた、刺激を受けて変わっていくのだろう。思いと思いがぶつかり、最高の化学反応が生まれることに期待したい。

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