いざタイのディープサイドへ、バンコクの個性派レコード店5選の画像はこちら >>



Text by 佐々木鋼平
Text by 上妻聡子
Text by Yoko Sakamoto



新しい街を訪れた際、音楽好きが気になるのがローカルなレコード店の品揃え。バンコクでも世界的なレコードブームの影響のなかで、個性的なレコード店が増えています。



そこで今回はタイのカルチャーマガジン『Happening』の編集長で、大のレコード好きのVIPさんに、いまバンコクで訪れたい個性派レコード店、『ZudRangMa Records H.Q. Store』『Bungkumhouse Records 』『Hall of Fame Records』『Tonchabab Record Shop』『Ran Bongo』 の5つを案内してもらいました。



※本記事は『HereNow』にて過去に掲載された記事です。



いざタイのディープサイドへ、バンコクの個性派レコード店5選

ZudRangMa Records H.Q. Store



BTS Thonglor(トンロー)駅から徒歩4分。Sukhumvit 51通りから少し入った小道にあるのが、世界中のレコードコレクターがこぞって訪れる『ZudRangMa Records H.Q. Store(ズドラングマレコーズ)』です。



このレコードストアを経営するのは、オーストラリアで育ち、イギリスでDJのキャリアをスタートさせたDJ Maft Sai(マフト・サイ)ことNattapon Siangsukon(ナタポン・シアンスコン)さん。



じつは彼、このレコード店があるのと同じ小道にある、いまや音楽好きで知らない人はいないバー『Studio Lam』や、絶品ビーフヌードル店『SaNgaa Beef Noodles』も営んでいます。



いざタイのディープサイドへ、バンコクの個性派レコード店5選の画像はこちら >>

Nattapon Siangsukonさん



DJ Maft Saiとしては、タイの田舎の労働者の聴く音楽とされていたルークトゥンや、タイ東北部(イサーン)の伝統音楽・モーラムをレアグルーヴ視点で発掘し、その価値を世界中に広めたことで知られています。



さらに、メンバー兼プロデューサーを務めるバンドのParadise Bangkok Molam International Bandは、『Fuji Rock Festival 2019』への出演でも話題になりました。



いざタイのディープサイドへ、バンコクの個性派レコード店5選



店内の棚を埋め尽くしているのはルークトゥンやモーラム、タイ・ファンクほか、ジャズ、ソウル、レゲエの中古レコード。



そしてオーナー独自のセンスで世界各地から集められた、マレーシアインドネシア、ベトナム、ラオス、インド、モロッコ、エチオピア、ジャマイカなどの辺境グルーヴも。



タイのアーティストの新譜、自主レーベル「ZudRangMa Records」のコンピレーションや再発盤はもちろん、アーティストやショップのオフィシャルグッズも取り扱っており、音楽好きな友人へのお土産にもおすすめです。



いざタイのディープサイドへ、バンコクの個性派レコード店5選



3,000~4,000枚のストックには、タイのレコードストアでは珍しく、タイトル、ジャンル、レア度、状態が英語表記されているのも嬉しいところ。



いざタイのディープサイドへ、バンコクの個性派レコード店5選



バンコクを訪れたDJやミュージシャンが立ち寄ることでも有名で、これまでにGilles Peterson 、DJ Shadow、Peggy Gou、khruangbinなど、錚々たる面々が訪れています。



状態が良いものは少々値が張りますが、タイならではのレアなレコードを効率的に見つけたい人は、真っ先に訪れてほしいレコードストアです。



いざタイのディープサイドへ、バンコクの個性派レコード店5選



いざタイのディープサイドへ、バンコクの個性派レコード店5選

Black Amber Barber Shop



いざタイのディープサイドへ、バンコクの個性派レコード店5選

Bungkumhouse Records入り口



バーやレストランの激戦区でありトレンド発信地のひとつであるThonglor(トンロー)通り。その通りから一本入った道でひっそりと営業するバーバー『Black Amber Barber Shop』の脇にある細い階段を上がった4階にあるのが『Bungkumhouse Records』。



いざタイのディープサイドへ、バンコクの個性派レコード店5選

Bungkumhouse Records



この小さなレコードストア『Bungkumhouse Records』が扱うのは、欧米のインディーロック・ポップやエレクトロニカ、ソウル、ジャズ、ワールドミュージックのほか、タイのインディーズも。バンコクのインディーロック・ポップ好きにもっとも親しまれているお店です。



オープン当初「1979 vinyl and unknown pleasures」と名乗っていた同店。この名前は、イギリスのポストパンクバンド・Joy Divisionの1stアルバムに由来しています。



店主のKrittikorn Sittichai(クリティコーン・シティチャイ)さんは1981年生まれ。かつてデック・ネオ (タイ語でインディーキッズの意味)だった頃からの音楽遍歴をたどるような品揃えになっているそうです。



Krittikorn:大学を卒業した後、周りには自分のお店をはじめる友人たちが多かったこともあり、ぼくもこのお店を友人と一緒にはじめました。



このレコードストア以外にも、最近はGonloha名義でワールドミュージックを中心にプレイするDJとしても活動しています。

『Studio Lam』でプレイしてるのでぜひ遊びに来てください!



いざタイのディープサイドへ、バンコクの個性派レコード店5選



いざタイのディープサイドへ、バンコクの個性派レコード店5選

Krittikorn Sittichaiさん



レコード・CDの在庫は約3,000~4,000枚。欧米や日本から毎週のように入荷されるレコードのなかでもとりわけ目を引くのは、タイを中心としたインディーズレーベルの作品が陳列された一角。



バンコクのインディーレーベルPanda Recordsの作品や、Yellow Fang、Aerolipsといった、海外でも評価の高い地元バンドの作品が並びます。これらはCDが中心になりますが、運が良ければレコードの在庫があることも。



店主にいまのオススメを伺うと、紹介してくれたのがシティポップ風のトラックにタイ語のフリースタイルラップを乗せた「sixmenonguard」というバンド。



タイのインディーバンドだけでなくアジア近隣諸国からの持ち込みもあり、バンコクではめずらしくインドネシアのインディーズ作品も見つけることができます。



いざタイのディープサイドへ、バンコクの個性派レコード店5選



いざタイのディープサイドへ、バンコクの個性派レコード店5選



店の入り口前にある風通しの良い半屋外のスペースは、レコード探しに疲れたときに、ほっとひと息つくにもぴったり。



いざタイのディープサイドへ、バンコクの個性派レコード店5選



ビールを注文することもできるので、トンローのライブハウスやナイトクラブに繰り出す前に、ウォームアップに立ち寄るのもおすすめです。



いざタイのディープサイドへ、バンコクの個性派レコード店5選



MRT Rama 9駅の目の前にある『Fortune Town』はIT関連のお店がひしめき合う巨大電脳ショッピングモール。



その3階の一角にはオーディオ専門店、レコードストア、楽器店など、音楽関連の専門店が並び、週末になるとオーディオ愛好家やレコードコレクターたちで賑わいます。



クラシックやジャズ、オールディーズを中心に扱うレコードストアが多いなか、オールジャンルのレコードやCDを揃えているのが、今回ご紹介する『Hall of Fame Records』。



いざタイのディープサイドへ、バンコクの個性派レコード店5選



いざタイのディープサイドへ、バンコクの個性派レコード店5選

Hall of Fame



同ショッピングモール内のレコードストアのなかでとりわけ大きな売り場面積を持ち、ストックはレコード、CD、カセット合わせて約1万枚。

ポップスからロック、ジャズまで、オールジャンルの定番からレアものまで揃っており、世代、国籍を問わず、たくさんのお客さんが絶え間なくやってきます。



いざタイのディープサイドへ、バンコクの個性派レコード店5選



ちなみに店主のKrit Sangkapreecha(クリット・サンカップリチャー)さんは、プログレやヘヴィメタルのファンとのことで、その在庫ももちろん充実。



いざタイのディープサイドへ、バンコクの個性派レコード店5選

Krit Sangkapreecha さん



Krit:1999年のアジア経済危機で職を失い、ショッピングモールで布を敷いて私物のレコードを売りはじめたのがお店のスタートでした。



順調に売れたので、すぐにほかのお店や人からCD、レコード、テープを買い付けて販売するようになり、そのまま店舗を持つように。いくつかの移転の後、2014年にこの『Fortune Town』に店を構えました。



いざタイのディープサイドへ、バンコクの個性派レコード店5選



店舗の約2割の面積を占めるのがタイ音楽のコーナー。新譜はもちろん、1980~1990年代のタイのポップスや、インディーズミュージックの中古CDも。



特にインディーズ系の作品は再発されることがほぼなく、サブスクリプションサービスでも聴くことができないものも多いので、気になる作品を見つけたら買っておいたほうが安心です。



いざタイのディープサイドへ、バンコクの個性派レコード店5選



いざタイのディープサイドへ、バンコクの個性派レコード店5選



ショーケースに収められているレアなレコードは、ルークトゥン、モーラムなどタイ音楽の数々と1970~1980年代のポップスなど。



コレクターズアイテムも多く、1枚950~4,500バーツとプレミア価格がついているものの、コンディションが良いレコードが揃っています。



いざタイのディープサイドへ、バンコクの個性派レコード店5選



ラッタナーコシン島の中央付近、最高裁判所の東側に広がる、昔ながらの街並みのなかでひっそりと営業を続けるレコードストアが『Tonchabab Record Shop』です。



いざタイのディープサイドへ、バンコクの個性派レコード店5選



店名にある「Tonchabab」はタイ語で「Original」または「Master」という意味。

お店のオーナーでレコード収集家のPrakarn Moungsukhum(プラカーン・モンスクム)さんは、開店当時をこう振り返ります。



Prakarn:このお店をはじめた1985年頃、レコードは時代遅れのものとなり、街からレコード店が消えはじめていました。



当然、至るところでレコードが廃棄されたわけですが……みんながレコードを捨ててしまえば、その歴史やカルチャーも一緒に捨ててしまうことになる。



レコードカルチャーを次世代に残したくて、自身のコレクションと廃業したレコード店から買い取ったレコードを並べて、このお店をはじめました。



いざタイのディープサイドへ、バンコクの個性派レコード店5選



いざタイのディープサイドへ、バンコクの個性派レコード店5選



『Tonchabab Record Shop』は、Suan Luang地区のPattanakarn通りにも支店がありますが、そこで取り扱っているのはタイ人好みのポピュラーな洋楽が中心。



対して、こちらの本店にあるのは、店主いわく「世界中のユニークで興味深い音楽」たち。タイのあらゆる古い音楽に加え、ポップス、ブラックミュージック、ファンク、ワールドミュージックといった、オールジャンルのレコードが山積みに。海外からもレコードマニアが数多く訪ねるお店として有名です。



いざタイのディープサイドへ、バンコクの個性派レコード店5選



Prakarn:30年前はいまほど評価されていなかったルークトゥンやモーラムですが、当時でもお店で流していると欧米のレコードディガーたちが反応していましたね。



お客さんの7割くらいは外国人。タイのお客さんはミュージシャンや音楽プロデューサーなど、業界関係者が多いですね。タイの古い音楽資料を探しに来られる方もいます。



わからないことがあれば、私に聞いていただければ。お店にあるすべての作品について、どんな背景やストーリーがあるかを話すことができますよ。



頼もしい言葉のとおり、とにかく豊富な音楽知識を持つことで知られる店主のSuaさん。欧米人からは「Tigerさん」というニックネームで親しまれています。



いざタイのディープサイドへ、バンコクの個性派レコード店5選



タイの古いレコードの相場が年々高騰しているなか、『Tonchabab Record Shop』では、貴重なレコードが「いろんな人の手に届くように」との思いから、LP・12インチ400バーツ、7インチ200バーツ、テープ100バーツ均一と、良心的な価格に設定されています。



店舗とは別に倉庫もあり、ストックの総数は見当がつかないそう。ストックのほとんどが彼の人柄に惹かれたコレクターや廃業したお店によって持ち込まれたもの。海外からのお客さんとトレードすることもあるため、ほかでは手に入らないようなレア盤が見つかることも。



いざタイのディープサイドへ、バンコクの個性派レコード店5選



タイ語を前に、どこから探していいかわからない方は、店主に好みを伝えてみて。レコードの山から次々とおすすめを掘り出してくれるので、まずはそこから試聴をはじめましょう。



いざタイのディープサイドへ、バンコクの個性派レコード店5選



最後に紹介するのは、日本のシティポップを多く取り扱う『Ran Bongo』。



約2年前にこの店舗をオープンさせ、FacebookやInstagramなどSNS上でもレコードの販売をはじめると、またたく間にSNSのシティポップコミュニティーで知られる存在となりました。



いざタイのディープサイドへ、バンコクの個性派レコード店5選



店を構えるのは、バンコク郊外のNawamin通りにある閑静な住宅街の一角。庭付き一軒家のベルを鳴らすと、オーナーのChittapon Chittayasodhara(チッタポン・チッタヤソーダラー)さんが迎え入れてくれます。



Chittapon:もともとはここで壊れたレコードプレーヤーを修理する仕事をしていたんです。



そのとき、日本から運ばれてくるリサイクル品が入ったコンテナのなかに、私が子どもの頃に聴いていたシティポップなど、1980年代のレコードが良い状態でたくさん紛れているのを発見し、販売するようになりました。



いざタイのディープサイドへ、バンコクの個性派レコード店5選



世界的に人気が高まるシティポップですが、バンコクでも数年前から山下達郎や竹内まりやが注目されはじめ、Polycatを筆頭に、地元のバンドもその影響を受けた作品を発表するようになりました。



年に一度開催されるバンコクのハイエンドなフリーマーケット『Made By Legacy』の会場でもシティポップが中心にプレイされ、最近では幅広いリスナーに聴かれるようになりつつあります。



Chittapon:シティポップは、良いメロディーとクオリティーの高いアレンジ、そしてアートワークも魅力的。お店をはじめてから2年の間に、レコードの仕入れ価格も高くなったけど、需要も伸びているのを感じます。



Facebookでシティポップのコミュニティーを運営している常連客がここでシティポップのイベントを開催したときは、10代のお客さんも遊びに来てくれました。



いざタイのディープサイドへ、バンコクの個性派レコード店5選



BGM代わりにと店主が流してくれたのは、1970~1980年代に放送された日本のテレビ歌番組『ザ・ベストテン』のビデオテープ。



Chittapon:1980~1990年代のタイでは、日本の歌番組やテレビドラマを録画した海賊版ビデオテープが流通していたんです。1980年代の日本のアイドルや和モノの映像もたくさん残っていますよ。



いざタイのディープサイドへ、バンコクの個性派レコード店5選



現在店頭にある2,000~3,000タイトルのストックは、日本のディスクガイド本を参考に、日本のレコード市やレコード店で買い付けたものが中心。



そのマニアックな品揃えは、シティポップをプレイする近隣アジア諸国のDJたちの間でも話題です。



お店に訪れる際は、事前にSNSでの連絡が必要ですが、ぜひ友人の家に遊びに行くように気軽に訪ねてみてください。



いざタイのディープサイドへ、バンコクの個性派レコード店5選



いざタイのディープサイドへ、バンコクの個性派レコード店5選

編集部おすすめ