■下り坂でブレーキが効かなくなったら…どうする?

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下り坂でブレーキが効かなくなったときの対応方法が「株式会社AVテクニカ」が製作した映像で説明されている

先日、X(旧ツイッター)にポストされた「下り坂でブレーキが効かなくなったとき」の対処法を解説した動画が、投稿から丸1日でリポスト1万件、いいね3万件の大きな反響を集めて話題になりました。

5代目日産スカイライン「ジャパン」を実際に壁にこすりつけたり、緊急退避所に突っ込ませて停止させるこの動画は、どうやら自動車教習所の学科用教習映像教材メーカー「株式会社テクニカAV」が製作した映像のよう。

動画では、下り坂でブレーキが効かなくなった場合の手順を以下のように説明しています。


1.フットブレーキを踏み直す
2.素早くシフトダウンをしてエンジンブレーキをきかせる
3.パーキングブレーキを引く
4.それでも停止しないときは、車を山側の壁面にこすりつけて停めるか、緊急退避所に突っ込む

ただし実際に操作する場合には、これだけを知っていても不十分。モータースポーツを少しだけかじったことがある筆者が、動画では説明されていない細かな注意点を解説します。

●MT車のシフトダウンは速度に応じて1段づつ

X(旧ツイッター)にポストされた「下り坂でブレーキが効かなくなったとき」の映像に反響多数
MT車のシフトダウンでは、各ギアの上限速度を超えない段数に1段づつ落とさなくてはならない。
MT車のシフトダウンでは、各ギアの上限速度を超えない段数に1段づつ落とさなくてはならない

ブレーキが効かなくなったときにシフトダウンをするのは、エンジンブレーキを有効に効かせるためです。

エンジンブレーキとは、アクセルペダルを戻したときに大きくなるエンジン内部の回転抵抗を利用した減速方法で、低いギアのほうがエンジンブレーキを強く効かせられます。

ただし、速度に対して低すぎるギアにシフトすると、エンジンが許容回転数を超えて壊れてしまったり、後輪駆動車ではリアタイヤが空転を起こして車がコントロール不能になることも。

なので、マニュアルトランスミッション(MT)車シフトダウンは、車種ごとに設定された各ギアの上限速度を超えない段数に1段ずつ落とす必要があります。

市販のMT車の多くは、3速で100km/h程度まではカバーできるので、まずは3速まで素早くシフトダウン。

2速へは30km/h程度まで速度が落ちてからシフトダウンするとエンジンブレーキを安全かつ有効に使えます。

●AT車のシフトダウンの注意点は?

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AT車のシフトダウンは「2レンジ」にシフトしてから「Lレンジ」にシフト。
AT車のシフトダウンは「2レンジ」にシフトしてから「Lレンジ」にシフト

自動で変速してくれるオートマチックトランスミッション(AT)車の場合は、低いギアを維持する「2レンジ」にシフトして速度を落としてから、もっとも低い「Lレンジ」にシフトチェンジするだけです。

ただしAT車は、エンジンを過回転から守るためギアがカバーできる速度にならなければ変速されない構造になっています。高速道路の下り坂のように速度が高い場合は、シフトダウンをしてもエンジンブレーキが効き始めるまでにタイムラグが生じますので、この点には注意。

任意のギアを選べるスポーツシフト搭載車は、手動で1段づつシフトダウンすることでエンジンブレーキを有効に効かせられます。ハイブリッドカーやEV(電気自動車)は、モーター充電時の抵抗が強く働く「Bレンジ」にシフトして減速させましょう。

●サイドブレーキを緊急停止に使う場合

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サイドブレーキを使うときは、レバー先端の解除ボタンを押しながら引く。
サイドブレーキを使うときは、レバー先端の解除ボタンを押しながら引く

パーキングブレーキ(サイドブレーキ)は、停車時に使用するブレーキですが非常ブレーキとしても使えます。ただしブレーキの効き自体はあまりよくないので、かなりの強い力でレバーを引かなければ減速できません。

加えて、ブレーキが効くのは後輪だけなので、エンジンブレーキを効かせながら曲がっている最中にサイドブレーキを強く効かせると、リアタイヤだけが滑り出して車の進行方向が急に変わってしまう場合があります。

これを防ぐためのポイントは、レバー先端の解除ボタンを押しながらサイドブレーキレバーを引くこと。こうすることで、後輪が滑り出してもレバーを引く力をわずかに緩めるだけで滑りを抑えられます。

近年の新型車に多く採用される電動パーキングブレーキは、レバーを指先で引き続けるとブザー音が鳴りながら後輪にブレーキがかかり、レバーを離すとブレーキが解除されます。

踏み込んだ位置から戻せない構造の足踏み式は、他のパーキングブレーキに比べてコントロールが難しいので、なるべく直進状態で使用したいですね。どんな場合も、パーキングブレーキでの減速時はハンドルをしっかりと握り、車の進行方向を保てるように備えておくことが大切です。

●壁や緊急退避所で止まる場合も注意が必要

障害物に車をこすりつけて止める際にも、速度が高過ぎたり角度が付きすぎると、壁面の突起などにぶつかった際の衝撃で跳ね飛ばされたり横転する場合があるので注意が必要です。

X(旧ツイッター)にポストされた「下り坂でブレーキが効かなくなったとき」の映像に反響多数
退避所も近年は減りつつある
緊急退避所も近年は減りつつある

実際の走行では、安全に止められる壁が都合よくあるケースが珍しいうえ、下り坂でブレーキが効かなくなった車を止めるためにつくられた緊急退避所も、近年ではほとんど見かけなくなっています。

もっともありふれた障害物として挙げられるのは、ガードレール。一般道のガードレールは車重1tの車が60km/h衝突しても耐えるだけの強度が持たされていますが、その強度が発揮される条件は、衝突角度20度と狭く、非常時に車を安全に停止させるにはやや扱いづらいといえます。

●そのほかにも注意点はたくさんある

ブレーキが効かないと高い速度でカーブに進入することになり、遠心力で身体が外側に振られて操作がままならないことや、タイヤが滑り出して蛇行運転になることもあります。

そういった状況でも適切な操作ができるように、正しいシートポジションを意識して運転することに加えて、身体を安定させるフットレストの使い方を知っておくことも大切です。

そのほかにも、同乗者がいる場合は防御姿勢を取れるように、車をぶつけて止めることを警告することや、ブレーキが効かなくなった時点で周囲に危険を知らせるためにハザードを出すことも重要といえますね。

●いざというときの運転技術を身につけたいならジムカーナ競技がおすすめ

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ジムカーナはいろんなドライビングテクニックを養うのにも最適
ジムカーナはいろんなドライビングテクニックを養うのにも最適

件の動画は、あくまで免許取得中の人に向けた自動車学校の教習教材です。動画自体は非常時にすべきことの概要を的確に伝える素晴らしい内容だと思います。

それに対して、細かな点を指摘するのは野暮というものですが、このような注意点があることを知っておくと、いざというときに役立つかもしれません。

とはいえ知識があったとしても、実際にブレーキが効かなくなった状況で車を完璧に操作できる人は稀でしょう。こういった緊急操作をとっさに行うには、経験と反復練習が必要です。

広い敷地内のパイロンコースでタイムを競うモータースポーツ「ジムカーナ」は車の安全操作を学ぶのにも最適。軽自動車でも気軽に参加できるジムカーナ競技なら、誰でも安全に緊急時の操作や車の動きを身につけられます。

(鈴木 僚太[ピーコックブルー])

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