コンペ30年史に名を刻むレジェンドクライマーたち[2010年代]
アジア躍進の旗手となった野口啓代
五輪という目標、万能な新時代の王者
2010年代に入ると、クライミングはメディア露出により認知度が上がり、ジムの数も増えて裾野はさらに広がった。そして2016年には念願のオリンピック追加競技に採用。
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2010年代はアジア勢が世界に台頭した時代だ。その先頭に立ったのは野口啓代。2007年にボルダリングW杯初参戦で準優勝と鮮烈なデビューを果たすと、翌年には初優勝、2009年には年間優勝。一気にコンペシーンの階段を駆け上がり、現在まで通算21度のW杯優勝、4度の年間優勝の偉業を達成している。
進化を続ける日本の先駆者
【野口啓代】
1989年5月30日、茨城県生まれ。圧倒的な保持力でボルダリング国内9連覇、W杯では年間優勝4度、世界選手権でもメダル7つを獲得し、日本を牽引してきた。16歳で世界デビューとなった05年の世界選手権リード3位以来、今日まで表彰台に上がり続け、最後の舞台である五輪で金メダルを狙う。
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野口最大のライバルはアンナ・シュテール。野口を柔のクライマーとするなら、シュテールは力強さのある剛のクライマーと言える。
写真:飯山健治
ボルダラーNo.1のW杯22勝
【アンナ・シュテール】
1988年4月25日、オーストリア生まれ。パワフルな登りでセンセーションを巻き起こしたクライミング大国の女王。W杯通算22勝はボルダリング男女を通じて歴代最多。08年から6年間、W杯年間1、2位を激しく争った野口とは良きライバルとして互いに切磋琢磨してきた仲で、現在も親交が深い。
野口啓代が語る「アンナ・シュテール」
「初対面は18歳の時。アンナは気さくで会った瞬間から友達になれました。彼女は背中のバネや体幹がすごく強い、私とは真逆のタイプ。当時の大会は今と違い、強力な長所を持つ選手が自分にしか登れない課題を登って優勝する、みたいな時代でパワフルな彼女が勝つ時の姿は圧巻でした。一番の思い出は2009年の同時優勝したW杯。史上初、急遽行われた優勝決定戦でも2人で一撃し、何より憧れの人と一緒に優勝して表彰台に並び立てたことが嬉しかったです」
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リードでもアジア勢の飛躍は目覚ましい。
10年代後半になると、五輪種目としてコンバインドというスピード、ボルダリング、リードの3つを1人で行う複合形式が採用される。
誰もが認める“現代最強”
【アダム・オンドラ】
1993年2月5日、チェコ生まれ。岩場では世界最難ルートを登り、コンペでは史上初めてリードとボルダリングでW杯年間、世界選手権の両方を制したすでにレジェンド級の怪物。
楢崎智亜が語る「アダム・オンドラ」
「適切なタイミングで適切なムーブをはめていく技術が異常に高いクライマーです。ここでこう呼吸してとか、どちらの手でクリップしてとか、そこまでオブザベできているのではないかと。岩場で自分の限界と向き合ってきた中で、感覚が研ぎ澄まされてきたんだろうと思います。普段はいつもニコニコしていて穏やかですが、クライミングになると練習から叫んだりして、ガラッと印象が変わりますね。相当な負けず嫌いなはずです」
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まだ若いが、この先レジェンドとして語り継がれるであろう選手が、スロベニアのヤンヤ・ガンブレットと日本の楢崎智亜だ。ガンブレットは唯一無二の身体能力を備え、女性のコンペクライマー史上で初めて男子トップ層と同レベルの動きができる選手だと形容されるほど。本職はリードながら、2019年にはボルダリングW杯で全戦を勝ち切る完全優勝を達成。世界選手権でリード、ボルダリングの両方で優勝経験があるのはオンドラとガンブレットのみだ。
楢崎は2016年にボルダリングでW杯年間優勝を果たすと、その勢いのまま日本勢にとって鬼門だった世界選手権で日本人初優勝を手にする。2019年にはW杯年間と世界選手権の王者に返り咲き、さらにスピードの才能も開花させ、コンバインド種目でも世界選手権で優勝を成し遂げた。楢崎は高い運動神経と異常なまでの身体のバネを持ち、種目にとらわれずクライミング競技全体で最適な動きができる選手なのだ。
連戦連勝、21歳の絶対女王
【ヤンヤ・ガンブレット】
1999年3月12日、スロベニア生まれ。オンドラに次いでW杯年間&世界選手権で2種目制覇を遂げた天才。昨年はボルダリングで史上初のW杯全勝優勝。
魅惑の“TOMOAスタイル”
【楢崎智亜】
1996年6月22日、栃木県生まれ。驚異の身体能力で日本人の壁だった世界選手権で16年にボルダリング優勝を果たすと、19年はコンバインドでも頂点に。
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この先の2020年代、東京五輪に始まり、クライミング界はまた一段と進化していくであろう。どのようなまだ見ぬレジェンドが生まれるか、楽しみである。
【2010年代 優勝者一覧|W杯&世界選手権】
※世界選手権では2018年、2019年大会と東京五輪フォーマットのコンバインド(3種目複合)が実施され、男子はそれぞれヤコブ・シューベルト(AUT)、楢﨑智亜(JPN)が優勝、女子はヤンヤ・ガンブレット(SLO)が2連覇を達成している