前回は信用保証協会の保証について概要を説明いたしました。今回は保証の最新動向について紹介いたします。
2023年から始まった「スタートアップ創出促進保証制度」と、2021年から始まった「革新的技術研究成果活用事業円滑化債務保証制度」と、2023年に拡充されている「東京都動産・債権担保融資制度」の事例について取り上げます。

スタートアップ創出促進保証制度はSSS保証とも呼ばれ、創業を予定している個人や創業後5年未満の法人が無担保・経営者保証なしで融資を受けられるところが契約条件面での特徴です。制度の概要は繰り返し報道されていますし、利用時の融資契約の諸条件については中小企業庁のWebサイトに詳しく掲載されているので、本稿では省略します。従来型の創業融資に対する信用保証とSSS保証が最も異なる点は、新設されたガバナンスチェックの仕組みですので、重点的にレビューしていきます。

SSS保証制度によって融資を受けた後、会社を設立して3年目および5年目のタイミングで「ガバナンス体制の整備に関するチェックシート」を作成し、中小企業活性化協議会による確認・助言を受けるルールとなっています。「ガバナンス体制の整備に関するチェックシート」は中小企業庁のウェブサイトからダウンロードすることができます。
「ガバナンス体制の整備に関するチェックシート」の詳しい解説を読みたい場合は、中小企業庁が設置した中小企業収益力改善支援研究会によって2022年12月にまとめられた「収益力改善支援に関する実務指針」を参照すると良いでしょう。

中小企業活性化協議会によるガバナンスチェックでは、METI Journal オンラインの言葉を借りれば、具体的には「経営の透明性確保」「法人・個人の資産分離」「財務基盤の強化」について確認します。チェックシート上で「特に重要な項目」(チェックポイント)として挙げられているのは下記の内容です。

経営の透明性確保に関する確認は「経営者へのアクセス」「情報開示」「内容の正確性」の3項目で構成されます。経営者へのアクセスのチェックポイントは「支援者が必要なタイミング又は定期的に経営状況等について内容が確認できるなど経営者とのコミュニケーションに支障がない」か。情報開示のチェックポイントは「経営者は、決算書、各勘定明細(資産・負債明細、売上原価・販管費明細等)を作成しており、支援者はそれらを確認できる」かと、「経営者は税務署の受領印(電子申告の場合、受付通知)がある税務関係書類を保有しており、支援者はそれらを確認できる」か。
内容の正確性のチェックポイントは「経営者は日々現預金の出入りを管理し、動きを把握する。例えば、終業時に金庫やレジの現金と記帳残高が一致するなど収支を確認しており、支援者は経営者の取組を確認できる」かです。

法人・個人の資産分離に関する確認は「資金の流れ」「事業資産の所有権」の2項目で構成されますが、事業資産の所有権には「特に重要な項目」として定められているチェックポイントがないです。資金の流れのチェックポイントは「支援者は、事業者から経営者への事業上の必要が認められない資金の流れ(貸付金、未収入金、仮払金等)がないことを確認できる」かと、「支援者は、経営者が事業上の必要が認められない経営者個人として消費した費用(個人の飲食代等)を法人の経費処理としていないことを確認できる」かです。

財務基盤の強化に関する確認は「債務償還力」「安定的な収益性」「資本の健全性」の3項目で構成されます。計算書類(決算書)の内容をもとに3期に渡ってモニタリングされます。
債務償還力のチェックポイントは「EBITDA有利子負債倍率が15倍以内」か。安定的な収益性のチェックポイントは「減価償却前経常利益が2期連続赤字でない」か。資本の健全性のチェックポイントは「純資産額について直近が債務超過でない」かです。

上記の内容は、表現が異なるものの、「経営者保証に関するガイドライン」にまとめられている経営者保証に依存しない融資を実現するための方法論と同じ方向性であると捉えています。

SSS保証は信用保証協会が保証人となる制度ですが、信用保証協会以外の公的機関が保証人となる仕組みも存在します。代表例が、独立行政法人中小企業基盤整備機構が債務保証を行う、研究開発の事業に取り組むための資金が必要なスタートアップ向けの革新的技術研究成果活用事業円滑化債務保証制度です。
「ディープテックベンチャーへの民間融資に対する債務保証制度」と呼ばれることもあり、経済産業省のWebサイトに利用の流れが掲載されています。

制度の概要は「産業競争力強化法における革新的技術研究成果活用事業活動計画について」にまとめられていて、経済産業大臣に事業計画を認定されたベンチャー企業が保証を申し込むことができます。スタートアップ企業(新事業開拓事業者)に関する要件として7点、条件を満たす必要があります。【1】新たな事業の開拓を行う事業者であること、【2】VC等のファンドから出資を受けていること、【3】大規模法人グループに属さないこと、【4】株式会社であること、【5】非上場・非登録企業であること、【6】風俗営業を行っていないこと、【7】暴力団等が支配している会社でないことです。

革新的技術研究成果との有機的関連要件として2点、【1】組織内に研究開発部門及びこれに類する機能を有すること、【2】革新的技術研究成果(他の事業者との共同研究成果、他の事業者から譲り受けた成果を含む。)が事業活動計画において活用されることが要求されます。
資金使途は【1】~【3】のいずれかを満たすものであって、新事業開拓事業者の成長発展に資するものであることが求められます。【1】反復継続的に生産(量産)を行うための設備導入費用、【2】事業活動の大規模な拡大を行うのに必要な情報処理技術、情報通信技術その他の情報技術を活用するために必要な開発を行うための費用、【3】その他【1】、【2】に類する費用で、新事業開拓事業者の事業活動の大規模な拡大に特に必要な資金であることです。

計画認定のために借入金額が原則3億円以上、借入期間が原則3年以上であることが求められますが、債務保証の内容は保証金額が1.5億円から25億円まで、保証期間は原則として設備投資10年まで、設備投資以外5年までとなっております。保証料は原則として有担保の場合0.3%、無担保の場合0.4%で、保証率が50%です。ディープテックベンチャーへの民間融資に対する債務保証制度と比較して金額が小さい、信用保証協会が提供する従来型の創業融資に対する保証は、東京都のケースで1,000万円超の融資の保証料が0.6%で、保証率が100%です。スタートアップ向けの融資という観点では内容が似ているように見えますが、対象となる事業フェーズに応じて制度設計が大きく異なっていることが分かります。


東京都動産・債権担保融資制度は、文字通りABL(Asset Based Lending)を利用したい企業向けの制度融資です。企業が保有する在庫や売掛債権、機械設備等の事業用資産を担保として活用する融資で、東京都産業労働局のWebサイト詳細について確認できる外、事例集も紹介されています。

担保として活用できる資産の例は下記の通りです。

車両(トラック、バス、ミキサー車等)
建設機械(クレーン、ブルドーザー、油圧ショベル等)
工作機械(旋盤、フライス盤、マシニングセンタ等)
その他の機械(印刷機、フォークリフト等)
再生可能エネルギー発電設備(太陽光発電設備等)
売掛債権(売掛金、受取手形等)
在庫(商品、製品、仕掛品、原材料等)

制度上の最も大きな特徴は、民間の保証機関・担保評価機関が関与していることと、取扱金融機関が限定されていることです。令和5年度の制度において機械・設備を担保とする場合、昭和リース株式会社が保証機関として携わり、東京都内の13の金融機関(足立成和信用金庫・きらぼし銀行・京葉銀行・興産信用金庫・商工組合中央金庫・城北信用金庫・西武信用金庫・東京信用金庫・東京シティ信用金庫・東京東信用金庫・東京ベイ信用金庫・東和銀行・東日本銀行)のみ取扱いが可能です。

売掛債権を担保とする場合、担保評価機関として利用できる企業が3社で、各々の担保評価機関で利用可能な金融機関が異なります。担保評価機関がトゥルーバフィナンシャルソリューションズ株式会社のケースでは4金融機関(足利銀行・阿波銀行・きらぼし銀行・みずほ銀行)、株式会社帝国データバンクのケースでは6金融機関(朝日信用金庫・きらぼし銀行・京葉銀行・さわやか信用金庫・城南信用金庫・西武信用金庫)、Tranzax株式会社のケースでは4金融機関(きらぼし銀行・城南信用金庫・西武信用金庫・東日本銀行)が取扱い可能です。

在庫を担保とする場合、担保評価機関として利用できる企業は2社です。特定非営利活動法人日本動産鑑定のケースでは10金融機関(朝日信用金庫・足利銀行・阿波銀行・きらぼし銀行・京葉銀行・さわやか信用金庫・城南信用金庫・城北信用金庫・西武信用金庫・千葉銀行)、株式会社ゴードン・ブラザーズ・ジャパンのケースでは6金融機関(きらぼし銀行・京葉銀行・静岡銀行・千葉銀行・東日本銀行・三井住友銀行)が取扱い可能です。詳しくはパンフレット【令和5年4月改定版】をご参照ください。

2023年8月1日には売掛債権と在庫を一体評価する担保評価スキームが新たに取り扱い開始となりました。担保評価機関はトゥルーバフィナンシャルソリューションズ株式会社、取扱金融機関は3行(足利銀行・阿波銀行・きらぼし銀行)です。さらに、2023年10月13日には再生可能エネルギー発電設備の担保評価スキームも新たに取り扱い開始となりました。担保評価機関は特定非営利活動法人日本動産鑑定、取扱金融機関は2金融機関(きらぼし銀行・城北信用金庫)です。年度の途中に制度が拡充されることは珍しいと感じていて、より企業がABLを利用しやすくする環境整備が進んでいる印象を受けます。

保証の最新動向の解説は以上です。次回は特定社債保証制度の適債基準を紹介し、銀行引受私募債を発行できる企業の規模について考えます。

→前回連載「東大発ベンチャー現役CFOが教えるデットファイナンス入門」はこちら

千保理 せんぼただし ロンドン日本人学校中学部、東京学芸大学教育学部附属高等学校、東京大学経済学部経済学科を経て、東京大学大学院経済学研究科修士課程企業・市場専攻修了。専門は企業金融(コーポレート・ファイナンス)。生命保険会社のシステム子会社にて勤務した後、東京大学発IT系ベンチャー企業にCFOとして参画し、2022年に独立。未上場企業の融資による資金調達を得意としており、会計ソフトウェア会社やベンチャーキャピタルが主催する起業家向けの財務経理セミナーの講師を務めている。著書(共著)に千保理・滝琢磨・辻岡将基『~事業拡大・設備投資・運転資金の着実な調達~ベンチャー企業が融資を受けるための法務と実務』(第一法規、2019)がある。 この著者の記事一覧はこちら