「この俳優をもっとドラマで見たい」「あの役がよかったから早く次も見たい」「ゲスト出演ではなくてレギュラー出演を!」「若手の中では一番演技がうまいのでは?」……そう思ったことはないだろうか。

地上波全国放送のドラマをすべて見続けているドラマ解説者・木村隆志が、マニアックにならないように気をつけつつ、演技や視聴者ニーズなどの観点から「今年ドラマで見たい俳優」を挙げていく。


すでにキャスティングの決まっている作品も多く、予算やスポンサーなどの事情などもあるのは承知だが、制作サイドにメッセージを送る意味も込めてランダムに挙げていきたい。
○『VIVANT』組と笑顔のコワモテ

昨年最大のヒット作となった『VIVANT』(TBS)からは、「怪しさ120%」の迫田孝也(46)をピックアップ。主人公・乃木(堺雅人)の同期ながら、実はテロ組織・テントのモニターであり、「日本を危険にさらしたほか、ハッカー・太田(飯沼愛)を利用したあげく凌辱する」という最悪の人物を演じて物語中盤を盛り上げた。今や出てくるだけで「怪しい」と思わせる稀有な存在だが、意外にも昨年ゴールデン・プライム帯で出演した連ドラは『VIVANT』のみであり、もっとさまざまな役で見たいところだ。

さらに『VIVANT』からは富栄ドラム(31)も注目の存在。愛きょうたっぷりの表情と体格で一躍人気者になったが、まだバラエティ中心の出演に留まっている。
バク転もこなす身体能力の高さは魅力たっぷりで、刑事や探偵の役なども面白いかもしれない。『VIVANT』続編はまだ先の話だけに、TBSに限らず他局でもその姿を見せられるか。

同様に「昨年話題になった愛きょうたっぷりの俳優」と言えば、一ノ瀬ワタル(38)も期待値の高い存在。昨年は『サンクチュアリ -聖域-』(Netflix)の主演で顔と名前を売り、コワモテと笑顔のギャップや素朴なキャラクターでバラエティにも引く手あまただった。ただ、ゴールデン・プライム帯の連ドラは『ハヤブサ消防団』(テレビ朝日)のみで、しかもほぼ1話だけの出演。すでに出演作は100を優に超える実績を持つだけに、知名度が上がった今年はメジャー作の主要キャストが増えなければおかしいだろう。

○8代吉宗、9代家重、13代家定

同じく昨年の連ドラで「もっと見たい」と思わせたのは『大奥』(NHK総合)で徳川吉宗を演じて称賛を集めた冨永愛(41)。これまで連ドラ出演は年1作程度に留まっているが、立ち姿の美しさと類まれなオーラで、天海祐希以来の「強くてカッコいい女性主人公」を務められる可能性を感じさせられた。

その『大奥』では、言語・排尿障害のある9代将軍・徳川家重を演じた三浦透子(27)、幼いころから父の虐待を受けてきた13代将軍・徳川家定を演じた愛希れいか(32)も、民放ドラマ出演が待望される存在。また、悲運の平賀源内を演じて涙を誘った鈴木杏(36)も民放ドラマから遠ざかっているが、子役時代からファンが多いだけにもっと見たい俳優の1人だろう。

映画や舞台の世界で才能と存在感を称賛されてきた藤原季節(30)も、まだドラマの代表作には恵まれていない。昨年は年末に3週連続ドラマ『自転しながら公転する』(読売テレビ制作・日本テレビ)で主人公の相手役を好演。
心優しいが経済力がなく、胸に孤独を抱えるアルバイト店員をリアリティたっぷりに演じて実力を見せつけた。

もう1人、「見たい若手俳優」として挙げておきたいのが、伊藤健太郎(26)。2020年10月に自動車でバイクと衝突する人身事故を起こし、復帰からすでに2年半が過ぎたが、まだドラマ出演はない。ただ昨年は映画3作に出演し、そのうち2作で主演。さらに主演舞台も務めるなど、復活の足がかりをつかんでいた。不起訴処分の上に、負傷した被害者が処罰を望んでいないだけに、そろそろ地上波のドラマでも見られるかもしれない。

○『あまちゃん』で「のん待望論」再燃

ベテラン俳優で「もっと見たい」と思わせたのは、昨年『この素晴らしき世界』(フジテレビ)で急きょ鈴木京香の代役を務め、1人2役の主人公を見事に演じ切った若村麻由美(57)。

アイドル俳優では、『だが、情熱はある』(日テレ)で山里亮太の学生時代から現在までを演じ、漫才を再現したSixTONES・森本慎太郎(26)、その山里に好意を寄せられるOLを演じ、NMB48を卒業したばかりの渋谷凪咲(27)。ともにコメディはもちろん、「シリアスな役で見てみたい」と思わせられる。

アーティスト系俳優では、『こっち向いてよ向井くん』(日テレ)で難しい役をこなし、さらに成長した姿を見せた藤原さくら(28)。モデル系女優では『18/40~ふたりなら夢も恋も~』(TBS)で民放ドラマデビューした嵐莉菜(19)。

芸人では、その演技力は「ハズレ知らず」と高く評価され、吉本興業から独立した近藤春菜(40)。
子役では『コタローは1人暮らし』(テレ朝)の続編を演じ終えた川原瑛都(10)と、『ばらかもん』(フジ)で愛らしい笑顔を見せ、津田梅子役で『大奥』のラストを飾った宮崎莉里沙(7)。ともに勘のいい天才型だけに、成長する姿を追いたいところだ。

最後にあげておきたいのは、待望論が再燃している、のん(30)。昨年は2013年の朝ドラ『あまちゃん』(NHK総合ほか)が再放送され、連日Xのトレンドランキングをにぎわせたが、10年の時を経てなお地上波連ドラへの出演がないことに驚きや不満の声があがっていた。

ただ、旧ジャニーズ事務所と各局の関係性が問題視されたほか、のんとエージェント契約を結ぶ福田淳が「STARTO ENTERTAINMENT」の代表取締役CEOに就任。芸能界に深く関わりはじめたことで風向きが変わる可能性が生まれた。
「映画とCMでしかその姿を見られない」という不自然な状況を今年こそ変えられるのか、注目を集めるだろう。

木村隆志 きむらたかし コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月30本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組にも出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。 この著者の記事一覧はこちら