高齢化と人口減少、インフラ維持などの離島課題の解決に向け、デジタルを活用した施策の実証を実施する国交省の「スマートアイランド推進実証調査」。山形県酒田市は「飛島スマートアイランドプロジェクト」として、県内唯一の有人離島「飛島」が直面する地域課題の解決に取り組む。


これまでの飛島におけるデジタル活用について、酒田市企画部デジタル変革戦略室長の本間義紀氏、合同会社とびしま役員の松本友哉氏、NTT東日本山形支店ビジネスイノベーション部の平川博久氏と近藤良輔氏に聞いた。

○光回線の整備がデジタル変革の契機に

有人離島「飛島」の通信インフラの整備やICT活用に取り組んできた「飛島スマートアイランドプロジェクト」。2018年度に酒田市と山形県の飛島の担当部署が共同で島民参加型のワークショップを開催し、飛島の地域課題をとりまとめた「飛島振興プロジェクト」が、その背景となっている。

島民の高齢化率80%、遅い通信環境など課題を多く抱える飛島の振興について議論し、課題の深掘りを行うなか、2020年6月には総務省の補助事業として、光ファイバーケーブルの敷設がスタート。酒田市のデジタル変革戦略室の発足を経て、同年11月にはNTT東日本、NTTデータ、東北公益文科大学の4者がDX推進に関する連携協定を締結した。

翌2021年には、国交省のスマートアイランド推進実証調査業務にて、酒田市、とびしま未来協議会、NTTデータ経営研究所、合同会社とびしま、NTT東日本山形支店がコンソーシアムを形成し、コミュニケーション手段としてLPWAネットワークを介した情報発信基盤の実証実験を実施。
その後、飛島に商店を新設し、4G回線等を介してLINEを利用した注文システムと、飛島の狭い道もラクに配達できる小型EVを使った商品配送サービス「うみねこちゃん」の開発を実現した。

本取り組みで、NTT東日本は代表幹事企業・プロジェクトマネージャーとして、離島におけるICT利活用促進を担当。飛島でIターン者の就労の場や産業創出に関する企画立案などを行う「合同会社とびしま」は、事業実施主体として参画している。

光通信環境の整備とモバイルオーダーシステムの構築で、島内における物流課題の解消などに取り組んだ結果、「令和4年度Digi(デジ)田甲子園」で酒田市は内閣総理大臣賞を受賞した。

「2018年の「飛島振興プロジェクト」でのヒアリングでは、昼食のために気軽に立ち寄れる飲食店も、日常生活品を買えるコンビニのような商店もないという声が、飛島の課題のひとつとして挙がりました。そこでデジタルによる買い物支援という、松本さんのアイデアをモバイルオーダーサービスの実現というかたちで具体化していくことになりました」(本間氏)

○天候不順にも対応できる持続可能な物流システムの実現をめざす

2022年度には前年度のコンソーシアムにエバーブルーテクノロジーズを加え、本土と島を結ぶ物流の課題解決にも取り組むべく、無人で自律航行可能で、自然エネルギーである風力を利用する帆船型ドローンの実用化に向けた検証事業を始動させた。


飛島の島外から島内への物流は、1日1便運航の定期船の運航に委ねられている。だが天候不順による欠航も多く、島民や関係者の生活満足度の向上、物資の枯渇の不安解消、物資運搬手段の拡充・省力化などが長く課題となってきたという。

「就航率が高い双胴船という船の胴体を2つくっつけたような船を使っているんですが、それでも2mほどの波で欠航になる。冬の日本海はすぐに2メートルなってしまうので、1週間就航しないということはわりとよくあります。過去には2週間ほど続くこともありました。定期船のほかは海上保安庁の巡視船やヘリなどの緊急対応の手段しかなく、島と本土を結ぶ定期船の就航率は年間を通じても約6割。
日本海が荒れる冬場は3割ほどしかありません」(本間氏)

海上経由での搬送の省力化と長期間の天候不順等に備えて定期船を補完し、新たな海上物資輸送手段の確立に向けた実証で活用されたのが、風力を利用するエバーブルーテクノロジーズ社の小型ヨット型ドローン「everblue AST-231」だ。

自然エネルギーを活用し、人口減少や天候不順といった環境変化にも柔軟に対応できる持続可能な物流サービスの実現に向けて、現在も協業を進めている。

「自動運転のレベル4にあたる無人で自律型の自動海上航行は法的にも未整備の分野。そのため帆船型ドローンの実証実験も内容的に限定的な部分もありましたが、実用に耐えうる結果は得られました。帆船型ドローンの活用は飛行ドローンのコスト問題を解消するものとして、期待を感じています」(平川氏)

○漂着ごみの運搬にも帆船型ドローンを活用

帆船型ドローンの利活用法としては、水産資源保護やコンテンツ配信などへの活用可能性も検証も行われている。中でも飛島で大きな課題となっているのが海ごみの問題だ。


「日本海の風に乗って大陸から膨大な海ごみが西側の海岸一面に漂着するんです。毎年5月末頃にボランティアがごみ拾いをしていますが、ごみ集積場のある集落は島の東側に位置していて、そこまでのごみの運搬には大変な人手と労力が要る。ひと昔前は海ごみの運搬のため、漁師さんに船を出してもらっていましたが、その漁船を出してくれる島の漁師の数も近年は減ってしまっています」(本間氏)

2021年には浜辺で回収したごみを軽トラまでキャタピラ付きの遠隔操作ロボットで運搬する取り組みを開始。その翌年には回収したごみを漁船の代わりに無人帆船ドローンで、ごみ集積場まで海上輸送する実証実験も実施した。

「海ごみの問題は島のメインの課題のひとつで、合同会社とびしまも環境教育ツアーの開催やキャタピラロボットの開発に長年取り組んできました。回収よりも大変なのがごみの運搬で、人力だと両手にごみ袋を持つと当然それ以上は運べない。
我々で開発した陸上ロボットは100キロ、だいたい20~40人分のごみを運べる運搬性能があるので、かなり効率化しました」(松本氏)

島内の海岸へ漂流したごみの搬送の省力化と実用性の検証が進み、すでに飛島での海ごみ清掃でロボットやドローンは不可欠な存在となっているそうだ。

高齢化と人手不足の中で、今まで島民が担ってきた作業を継続していくには飛島の関係人口を増やすことが鍵だが、本土からのボランティア支援でも定期船の欠航リスクがネックとなる。そのため遠隔操作や自動で運用できるロボットやドローンの導入メリットは大きいようだ。

「飛島には看護師さんが常駐する診療所があり、本土側の医師とテレビ電話による遠隔診療では、光回線が整備されたことで、非常にクリアで鮮明な画像で診察できるようになったといった声もあります」(近藤氏)

若い世代にとっては高速の通信インフラが整ったことで、快適なリモートワーク環境が整備されたことが最大の恩恵と言える。

「島で暮らしながらできる事業や業務内容も広がったと感じます。今後は草刈りや海ごみ回収といった作業の全体像を可視化し、本土のボランティアの方々に提示するかたちで、ロボットの活用を推進していきたいです。
地域住民の仕事として、島の維持・管理には我々も事業として注力しているんですが、島外の方々にも楽しんでお手伝いしていただくことで、それ以外の事業により力を割けられるようになれば嬉しいですね。

遠隔操作で本土から飛島の作業に参加できるということは、島民が別の地域で同じような作業をできるということでもあるので、遠隔ロボットによる海ごみ清掃の補助に関しては他地域にも展開したいと考えています」(松本氏)

伊藤綾 いとうりょう 1988年生まれ道東出身、大学でミニコミ誌や商業誌のライターに。SPA! やサイゾー、キャリコネニュース、東洋経済オンラインなどでも執筆中。いろんな識者のお話をうかがったり、イベントにお邪魔したりするのが好き。毎月1日どこかで誰かと何かしら映画を観て飲む集会を開催 @tsuitachiii この著者の記事一覧はこちら