ホンダは小型SUV「ヴェゼル」のマイナーチェンジを実施し、新たなパッケージ「HuNT」(ハント)を追加した。都会的なイメージのヴェゼルに加わったアウトドア派の異色モデルはどんな経緯で誕生したのか。
ホンダの岩崎麻里子デザイナーに話を聞いてきた。

インテリアの多色使いが新鮮!

HuNTパッケージは都会的なイメージがあるヴェゼルのラインアップの中にあって、ちょっと“飛び道具”的なバリエーションとして登場した。ネーミングには、都会と自然を自由に行き来するようにさまざまなフィールドへ気軽に繰り出していきながら、自分らしい生活を自ら「獲得」(=ハント)していきたいとのメッセージを込めたという。このクルマのCMF(カラー、マテリアル、フィニッシュ)を担当したのは、本田技術研究所デザインセンターの岩崎麻里子さんだ。

――HuNTパッケージの“推し”ポイントを教えてください。

岩崎さん:自分でもよく企画が通ったと思っているのですが、まずはインテリアのマルチカラーコーディネートです。
カーキ、ネイビー、グレージュ、オレンジといった多彩な色を使っています。明度や彩度には統一感を持たせてあるので、乗り込むと落ち着きが感じられる組み合わせになっています。

――これだけの色使いをしたシートは珍しいですね。

岩崎さん:多くの色を使うことが目的だったわけではないんですけど、やっぱりドアを開けた瞬間にワクワクしたり、驚きがあったりみたいなところを目指してやり切りました。この子(HuNTパッケージのこと)にしかないポイントを作りたいなと思って、こうした多色使いにチャレンジさせてもらえましたし、いい感じにまとまったと思っています。コロナ禍での開発だったのですが、開発チームの中では割とみんなが面白がってくれて、味方がついて、すごくスムーズに進んでいきました。


実は、色についてリサーチしているときに、たまたまMLBの大谷選手が着用している某メーカーのマルチカラーのシューズの画像を見つけました。ノーマルのシューズは機能重視で、カラーはちょっと地味目のものが多いんですが、多色使いをすることでいろいろなストーリーが浮かんできて、ちょっと魅力を感じて惹きつけられるんです。とてもヒントになりました。そういうシューズを履くとデニムでもベージュでも合わせやすくて、意外とコーディネートの幅も広く、アウトドアファッションを取り入れるというハントパッケージの商品説明にもマッチして企画にまとまりができました。

大胆なエクステリアに名車の影響あり!

――エクステリアについてはどうでしたか。

岩崎さん:内装ができて、外装のコーディネーションはどうしようという段階になったとき、自分としてはマルチカラー的なものもやりたいし、もう少し控えめな方がいいのではといった意見も出る中で、ちょっと行き詰まってしまい、和光の研究所にこもって作業していた時期がありました。
それを開発チームが見かねて、ちょっとどこかへ行こうかという話になり、ほんの1日だけ、ガチでこの子のことを考えるためだけに、もてぎのホンダコレクションホール(ホンダの博物館的な施設。リニューアル前)を訪れました。

岩崎さん:開発した人たちの思いがこもった“どピュア”な展示車たちを見ていると、ホンダが歴史として大事にしている思想が入っていることがはっきりと感じられました。ハントパッケージがこの中に入っても、違和感がないようなものにしたいなと思うようになり、腹がくくれたんです。

――コレクションホールで最も印象に残ったものはなんですか?

岩崎さん:「バモスホンダ」です。ハントのカーキ色のボディにカッパーのアクセントカラーなどを思い切って入れることができたのは、バモスホンダを見たおかげなんです。
その時に出したアイデアを最後まで熟成し、育ててきたのがこの子です。リニューアル後のホンダコレクションホールでは、バモスホンダの横に、これも大好きな初代の「Z」(リアが水中メガネのタイプ)が置かれています。その横にハントが置かれるようになるといいなと思っています。

――「HuNT」という名称については?

岩崎さん:自分らしい生活を主体的に勝ち取っていきたいという意味であることをプレゼンで説明しましたが、個人的には、この子が生まれる(2024年)ちょっと前のコロナ禍に、みんなが我慢したりちょっとモヤモヤしたりしていた気持ちをふっ切って、ハント(狩り)するように、思い切っていろいろなことができるような、勢いがあるクルマにしたいという意味も込めています。

――クルマを「この子」と呼んでいらっしゃいますが、よほど愛着があるようですね(笑)

岩崎さん:実際、マイカーとして、まさに自分の子になるハントを購入しました(笑)。連休明けには届きます。


開発中は購入することを決めていなかったのですが、2024年はいろいろなことを新しくスタートしたいと思いまして、ちょっと自分を勢いづけるという意味もあって買いました。前に乗っていたドイツ車がしばらく前からちょっと不調で、何か買わないととは思っていたのですが、せっかくならハントが出るまで待つことにしたんです。「あの子」(前のドイツ車)には、自分の多感な時期を一緒に過ごしてきたのでたくさんの思い出があるんですが、多少ひいき目もあるものの、「あの子」から乗り換えることができるのは「この子」しかいないと思って、買うことを決めました。

原アキラ はらあきら 1983年、某通信社写真部に入社。カメラマン、デスクを経験後、デジタル部門で自動車を担当。週1本、年間50本の試乗記を約5年間執筆。
現在フリーで各メディアに記事を発表中。試乗会、発表会に関わらず、自ら写真を撮影することを信条とする。 この著者の記事一覧はこちら