「中学受験はお金がかかるけれど、高校受験がなくなる分、トータルでは得になる」という話を耳にしたことはありませんか? 確かに中高一貫校では高校受験がなく、塾代が浮くとされますが、本当に家計にとって"お得"なのでしょうか。この記事では、中学受験ルートと高校受験ルートでかかる費用を比較し、大学進学までを見据えた教育費を試算・検証していきます。
中学受験で「塾代が浮く」と言われる理由
中学受験を経て中高一貫校に進学すると、「高校受験がないから、その分塾代が浮く」と言われることがあります。その背景には、中高一貫校の多くが、高校受験を前提としないカリキュラムになっており、内部進学が前提となっている点があります。
一般的に公立中学に進学すると、高校受験に向けて学校の授業とは別に塾に通う生徒が多くなります。高校受験が本格化する中学3年までに、相当の金額を塾代に費やすケースは少なくありません。中高一貫校は、高校受験がないため、その分の塾代がかかりません。
また、中高一貫校は高校受験を挟まない分、中学と高校の学習内容を5年間で終え、残りの1年間は大学受験に特化した授業を実施できる学校が多いことで、塾に頼らなくても学校だけで大学受験に備えられるという見方もあります。
こうした理由から、「中学受験ではお金がかかっても、トータルで考えると得」といった意見が根強くあります。実際は、通う学校や家庭の方針などによって、塾が必要となるケースもあるので、"塾いらず"とは一概に言えません。また、中高一貫校は元々の学費が高い点も考慮しなければなりません。これについては試算をして確かめてみましょう。
中学時代の"塾いらず"は本当か
まずは、高校受験がない中高一貫校に進んだ場合、塾費用が本当にかからないのかデータから検証してみましょう。文部科学省の「子どもの学習費調査」から公立と私立別の中学時代の学習塾費用をみてみます。
公立・私立別の学習塾費
支出率は学習塾費を支出している割合であり、平均額は支出している者を対象とした塾費用の平均額です。私立中学は中高一貫校が割合としては多いものの、高校受験を必要とする私立中学も含んでいます。
どの学年でも公立中学の方が塾に通う割合が高く、公立中学の3年生はおよそ8割が塾に通っています。一方、私立中学は塾に通う生徒は約半数となっています。塾費用の平均額をみると、中学1年は私立中学の方が高くなっていますが、2年、3年では公立中学の方が平均額が高くなっています。中学3年では、公立中学は私立中学よりも7万円以上多く塾費用を支出しています。
この結果から、私立中学に進んだ場合も約半数は塾に通っていること、公立中学の場合は塾費用が私立中学に比べて多めになることがわかりました。
高校受験が必要ない中高一貫校に絞れば、塾に通う生徒の割合はもう少し減ると思われます。しかし、授業のペースが速くてついていけないために塾に通う生徒や難関大学を目指す目的で早いうちから塾に通う生徒も多いと聞きます。中高一貫校でも、通う学校や生徒の特性によっては、塾が必要になるケースもあるということです。
「中学受験ルート」と「高校受験ルート」の教育費用を比較
それでは実際に、「中学受験ルート」と「高校受験ルート」の教育費用を比較してみたいと思います。
文部科学省「令和5年度子どもの学習費調査」を主に参照して、「中学受験ルート」と「高校受験ルート」の大学進学までの教育費用を比較しました。
中学受験の費用は、首都圏の大手塾の料金を参考に、小学校4年~6年までの3年間の塾費用を200万円としました。中学校の学費、高校受験費用、高校の学費は文部科学省「令和5年度子どもの学習費調査」をもとにしています。
高校受験費用は、私立中高一貫校では思い切って塾通いなしとし、高校受験ルートの場合は、前出の公立中学の学習塾費の3年間の合計額とします。
高校3年間の塾代に関しては、塾に通っている者の割合が公立高校で38.7%、私立高校では30.1%と半分以下であることから、試算に入れていません。
試算結果は表のとおりです。中学受験ルートの教育費の支出合計は766万円、高校受験ルートの支出合計は、公立高校進学では251万円、私立高校進学では375万円となりました。
中学受験をして私立中高一貫校に進んだ場合は、高校受験をして公立高校に進学した場合の約3倍、高校受験をして私立高校に進学した場合の約2倍の費用がかかっています。
中学受験ルートは塾代が浮いてもお金がかかる
上記の試算について、高校受験ルートの塾代を2倍にして200万円にしたとしても、中学受験ルートの方が圧倒的にお金がかかっています。これは中学校の学費と高校の学費が高いことが原因です。高校の学費は私立高校の授業料無償化が実現すれば、だいぶ軽減されますが、中学校の3年間の学費の高さがネックとなっているので結果は変わりません。
費用面では、「中学受験ではお金がかかっても、トータルで考えると得」というのは正しくないとわかりました。しかし、希望の大学に入学することをゴールとすると、お金がかかっても結果的に正解だったという見方ができます。
有名大学への進学率は、私立中高一貫校が多いと言われています。東京大学の出身高校別のランキングをみると、上位10校中8校が私立中高一貫校となっています。
2024年東大合格者ランキング(出身校)
そのため、費用がかかっても中高一貫校への進学が人気を集めているのです。今後も、お金に余裕のある家庭を中心に中学受験の熱は高まり続けるでしょう。
石倉博子 いしくらひろこ ファイナンシャルプランナー(1級ファイナンシャルプランニング技能士、CFP認定者)。“お金について無知であることはリスクとなる”という私自身の経験と信念から、子育て期間中にFP資格を取得。実生活における“お金の教養”の重要性を感じ、生活者目線で、分かりやすく伝えることを目的として記事を執筆中。ブログ「ファイナンシャルプランナーみかりこのお金の勉強をするブログ」も運営中! この著者の記事一覧はこちら
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