人口減少と過疎化が全国の中でも深刻な問題となっている北海道。地域の課題解決を掲げて2022年に設立された「北海道フロンティアリーグ」(HFL)は、そんな北海道の自治体を拠点とする4球団が所属するプロ野球独立リーグだ。


8月3日にオールスターゲームをエスコンフィールドHOKKAIDOで開催した「HFL」。同リーグとともに地域共創を推進している北海道電力の担当者と3球団の代表者らに、“移住・定住促進リーグ”とも言われる「HFL」の設立背景などについて聞いた。

■「北海道フロンティアリーグ」が設立時に掲げたミッション

プロ野球チームと言うと、大都市にホームを置く「NPB」(日本野球機構)のセ・リーグとパ・リーグの球団が一般に想像される。

だが、国内には地元密着型の運営を特徴とする「IPBL」(日本独立リーグ野球機構)所属のプロ野球リーグも存在する。「HFL」は「IPBL」に所属するプロ野球独立リーグのひとつだ。

美唄市・石狩市・士別市・別海町にホームを持つ4球団で構成され、そのうち美唄・石狩・士別の3球団は、「HFL」の前身となるプロ野球独立リーグ「北海道ベースボールリーグ」(HBL)に所属していた。しかし、「IPBL」への加盟時期について運営と球団の意見が折り合わず、最終的に新リーグ「HFL」の立ち上げに至ったという。

「プロ野球選手はNPBの選手も含め、引退後、社会人や学生といったアマチュアを指導するには指導者資格を回復する必要があります。しかし、IPBLに所属していない独立リーグの選手は指導者資格を生涯回復できず、セカンドキャリアに大きく影響してしまいます。

また、IPBLに加盟していない独立リーグの所属選手が社会人野球の選手として復帰する際、1年間試合に出場できないルールがあることも、新リーグ立ち上げた大きな理由になりました」(「KAMIKAWA・士別サムライブレイズ」球団代表・菅原大介氏)

こうして2022年に設立された「HFL」が掲げたのが、「野球で、北海道の未来を拓きます」というミッションと、「移住・定住の促進」をはじめとする5つのビジョンだ。

振興局(14の地区に分割する北海道の行政区画の単位)の管内でも2~3番手の規模感の自治体をホームとする球団を通じ、地域を支える担い手確保、地域の新たなエンタメと賑わい創出を目指す。

こうしたミッションとビジョンに共感し、北海道電力は昨年「HFL」との共創パートナーシップを締結した。
同社はグループの事業基盤となる北海道の持続的発展のため、2023年11月に事業共創推進室を組織している。

「人口減少や高齢化は全国的な社会問題ですが、北海道はとくに深刻な地域。当然、電力事業でも人口は大切な要素で、北海道のポテンシャルを活かし、地域の人口を増やしていくことは当社によっても重要な課題です」(北海道電力 事業共創推進室 事業共創グループ・山田鉄也氏)

■野球と地域の仕事を両立する選手たち

「独立リーグは多くのスポンサーによって成り立つ事業ですが、『HFL』の認知度が道内でもまだまだ低いのが現状。そうした中で北海道電力さんとのパートナーシップ締結は『HFL』のバリューと認知度を大きく引き上げてくれました。今シーズンはスポンサーが飛躍的に増え、全国規模の企業とのタイアップも実現しています」(「KAMIKAWA・士別サムライブレイズ」球団代表・菅原氏)

「HFL」では5月~9月を試合開催の時期とし、各チームがホーム&アウェイで54試合を実施するほか、札幌や旭川などの近隣都市でも試合を開催して認知向上を図っている。

今シーズンからは道東の別海町にホームを置く「別海パイロットスピリッツ」が参戦。生乳生産量で日本一を誇る同町では、後継者不足が年々深刻化しているという。

「根室地区の方々にとってプロスポーツは非常に遠い世界でした。それだけに地元にプロ野球チームができたインパクトも大きく、自治体とタッグを組んでチームを運営しています」(「別海パイロットスピリッツ」代表・藤本達也氏)

「別海パイロットスピリッツ」の道内出身選手は23名中4名。2020年に設立した「石狩レッドフェニックス」の選手も道内出身選手は25人中6名と、「HFL」の現役選手の多くは道外出身だ。

「全国からわざわざ北海道に来てまで野球をやるという強い思いを持った選手たちが、これほど多く存在することに私も最初は率直に驚きました。野球と仕事を両立できるあり方は今の時代にマッチした選択肢なのかもしれません」(北海道電力・山田氏)

HFLの選手にはスカウトとリーグトライアウトの大きく2つの入り口があり、ギャランティはA契約(10万円以上)・B契約(5万~10万円)・C契約(0~5万円未満)の3段階。


選手の7~8割はC契約で、選手たちは球団の支援を受けつつ、野球中心の働き方ができる地元企業や農家で就労し、住民票を移して町の一員として生活を送る。一次産業が盛んな別海町では農協や介護施設、ガソリンスタンド、ゴミ処理・収集などインフラ関係の職場が多いという。

「チームごとで地域での仕事と野球のバランスは違いますが、『HFL』では土日に試合を行うため、選手たちは平日午前中だけ働ける職場など働きながら、平日に休みや練習の時間を確保しています」(「KAMIKAWA・士別サムライブレイズ」球団代表・菅原氏)
■ジュニア・ユース世代の育成・定着にも注力

札幌圏に位置する石狩市を除き、HFLの所属球団はいずれも人口2万人以下の小さな町をホームとしている。球団創設5周年を迎えた「石狩レッドフェニックス」は、オフシーズンに地域の子どもたち向けの野球指導に注力している。

「年々、子どもたちからのニーズも高まっていて、出張教室の依頼もお受けする機会も増えています。我々の球団も含めて現役を引退した後も北海道の環境に魅力を感じて、地域の職場に残り、そのまま結婚して根を下すという選手が各球団から出てきていますね」(「石狩レッドフェニックス」代表・老田よし枝氏)

道外出身選手の移住だけでなく、地域で育った子どもたちが地元に残ることを願い、菅原氏は育成アカデミーを設立した。

8月3日のオールスターゲームの前後には、HFLジュニア選抜(児童世代)とHFLユース選抜(中学世代)の美唄/士別 vs 石狩/別海の試合も行われた。

「我々のアセットや指導者を活用し、部活動の地域移行を進めることも大きな役割。少子化や指導者不足で、小・中学校では合同チームも最近は増えています。地域に根差した活動は我々のようなリーグだからこそ可能なこと。今日のようにエスコンでプレーする機会を提供したいです」(「KAMIKAWA・士別サムライブレイズ」球団代表・菅原氏)

また、北海道電力は「HFL」試合会場でブースを出展。ポイント会員サイトなどを通じてHFLのPR支援も行っている。


「電力会社も自由化などを受けて広報活動などがより大切になっていますが、スポーツを入り口に地域の方々とコミュニケーションができることはとても大きいです。リーグ関係者や球団のファンの方々から、逆に感謝や応援の言葉をいただけることもあり、とても嬉しく思います」(北海道電力・山田氏)

「HFL」は北海道の14振興局が所管するすべての地区に1球団を設立させることが将来的な目標だ。

「球団設立当初は『草野球』と揶揄されるほどレベルが低かったんですが、ここ数年は非常にレベルが上がってきています。地域の子どもたちから地元の『HFL』チームで野球をしたいと思ってもらえるようなリーグにしたいですね」(「KAMIKAWA・士別サムライブレイズ」球団代表・菅原氏)

伊藤綾 いとうりょう 1988年生まれ道東出身、大学でミニコミ誌や商業誌のライターに。SPA! やサイゾー、キャリコネニュース、東洋経済オンラインなどでも執筆中。いろんな識者のお話をうかがったり、イベントにお邪魔したりするのが好き。毎月1日どこかで誰かと何かしら映画を観て飲む集会を開催 @tsuitachiii この著者の記事一覧はこちら
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