ハーフサイズのフィルムカメラ特有のアナログな写真表現や撮影体験をデジタルで再現した、とうたう富士フイルムの新趣向デジタルカメラ「X half」が幅広い層にヒットしています。今回、筆者(大浦タケシ)もようやくレビューの機会をいただくことができましたので、その操作感や写りなど余すことなく紹介したいと思います。
センサーも液晶もファインダーもすべて縦長!
本モデルを紹介するにあたり、まず外せないのが縦長フォーマットを採用したことでしょう。基本のアスペクト比は3:4(横:縦/以下同)。“ハーフ”とうたうように、フィルムカメラのハーフサイズのアスペクト比と同じです。フルサイズやAPS-Cサイズのカメラを縦位置に構えた時、2:3のフォーマットではちょっと縦長すぎて使いづらいと思ったことのある人には使いやすい画面比率であるように思えます。
イメージセンサーのサイズは13.3×8.8mmの1インチ。有効画素数は1774万画素となります。本来なら2:3のアスペクト比となるところですが、天地をカットオフして3:4(3648×4864ドット)としているようです。イメージセンサーは裏面照射型ですが、発表されたスペックを読む限り、同社自慢のX-Trans CMOSセンサーではないと思われます。
液晶モニターや光学ファインダーも、もちろん縦長。このカメラが縦長のフォーマットであることを強く意識させる部分と言ってよいものです。なお、光学ファインダーには露出の情報やフォーカスエリアなどの表示は一切されないので、通常は液晶モニターのライブビューを見て撮影することになりそうです。
縦長の画面と聞くと、やはりこのカメラはスマートフォンとの相性を考慮したものと思ってよいでしょう。
レンズはあの「写ルンです」と同じ画角
レンズも忘れてはならない部分です。実焦点距離10.8mm、35mm判換算で32mm相当の画角を持つ開放F2.8の単焦点レンズです。非球面レンズ3枚を含む5群6枚の贅沢な光学系を特徴としています。メーカーは、レンズ付きフィルム「写ルンです」に搭載されたレンズと同じ画角であり、同モデルで慣れ親しんだ画角で撮影が楽しめると謳っていますが、同じ画角とは言え横長画面と縦長画面、また3:2と3:4のアスペクト比では感覚的に同じというのはちょっと違うんじゃないかな、と思えなくもありません。
撮影モードはP(プログラムAE)、A(絞り優先AE)、S(シャッタースピード優先AE)、M(マニュアル露出)とひととおり搭載。レンズの実焦点距離が短いため、絞り値の違いによるボケや被写界深度の変化は大きくないですが、それでも撮影モードが選べるのは嬉しく思える部分です。絞り優先AEやマニュアル露出で使用する鏡筒の絞りリングには、古い距離計連動用の交換レンズを思い起こすレバーも備わっているので、操作しやすく思える部分。また、AE撮影では大切な操作部材である露出補正ダイヤルについても、シャッターボタンと同軸とする大型のものを備えています。
操作部材の話が出たところで、外観・外装について見てみましょう。ボディはクラシックなデザインテイストで、コンパクトながら存在感あるもの。幅105.8mm、高さ64.3mm、奥行き(レンズ込み)45.8mmとなります。質量も240g(バッテリー、SDカード含む)と軽量。誰でも日常的に持ち歩ける現実的な大きさ重さと述べてよいものです。外装はプラスチックですが、つくりの精度や質感は高くチープな感じはしません。ボディカラーは今回のレビューで使用したシルバーのほか、チャコールシルバーとブラックの3色が用意されています。
操作系に関しては、先の露出補正ダイヤルの存在が一際目立ちます。積極的に露出補正を行い、思い通りの濃度の写真を撮れと言わんばかり。もちろん操作もしやすく、本来そのようなカメラではないかもしれませんが、露出を追い込んでより主張の強い写真撮影を楽しんだり、ハイキーで明るい写真など積極的に挑戦できそうです。その露出補正ダイヤルと同軸とするシャッターボタンにはレリーズ装着用の雌ネジが切ってあるのも、写真愛好家の琴線に触れるところ。使用頻度は高くないかもしれませんが、往年のカメラらしく感じるギミックのひとつといってよいでしょう。
背面の操作部材に関しては、静止画/動画切替ボタンとPLAY(再生)ボタンの2つのみ。あとはアスペクト比3:4の縦長の液晶モニターと、その左にあるオーバル状のサブ液晶モニターとなります。いずれもタッチ操作が可能で、メニューなどの設定は液晶モニターへのタップもしくはスワイプで行います。サブ液晶モニターは、撮影時には設定しているフィルムシミュレーションまたはフィルターを表示し、上下にスワイプすることで選択を可能としています。Xシリーズのミラーレス「X-M5」にはフィルムシミュレーションダイヤルが備わり、シミュレーションが素早く選べますが、こちらも同様に思いついたらすぐに変えることができます。
ちなみに搭載するフィルムシミュレーションは、PROVIA/Velvia/ASTIA/クラシッククローム/REALA ACE/クラシックネガ/ノスタルジックネガ/ETERNA/ACROS(STD、Ye、R、G)/セピアの13種類。PRO Neg HiやETERNAブリーチバイパスなど、いくつかは省略されています。シミュレーションの数が絞られシンプルな構成としているので、こちらの方がユーザーにとっては分かりやすいかもしれません。フィルターは19種類を搭載。こちらは話題の「期限切れフィルム(グリーン/レッド/ニュートラル)」や、光線漏れをイメージした「ライトリーク」も搭載しています。いずれにしても、積極的にフィルムシミュレーションやフィルターを変えて撮影したくなるものです。
操作系の核心と言えば、フィルム巻き上げレバーの存在でしょう。
2in1は、2枚の縦長写真を横に並べてひとつの写真とするモード。1枚撮影したあとにフレーム切り替えレバーを操作すると、次に撮る写真が先に撮った写真の左側に並びます(設定により右側に並べることもできます)。2枚目の写真は、メモリーカードに記録されている画像から選ぶこともできるほか、動画にも対応しており、アイデア次第では面白い表現が楽しめそうです。なお、誤ってフレーム切り替えレバーを操作しても、オリジナルの1枚画像も記録されますので、心配は不要です。
フィルムカメラの不便さをあえて再現した撮影モードも!
フィルムカメラモードは、液晶モニターで撮影した画像の確認ができないばかりか、あらかじめ設定した撮影枚数を撮り終わらないと、アプリの「X half」で“現像”を行うことも、その後の閲覧もできないモード。その名のとおり、フィルムの撮影から現像、プリントまでの流れを模したものとなります。フレーム切り替えレバーは、架空のフィルム巻き上げレバーとして、シャッターを切るたびに操作(巻き上げ)を行います。巻き上げ操作を行わないと、もちろんシャッターを切ることはできません。撮影時は、液晶モニターにはフィルムカウンターやAFとMFを切り替えるスイッチ、MF時のゾーンフォーカスとする距離目盛りなどを常時表示。そのため、撮影は光学ファインダーに接眼して行います。
縦位置動画撮影が楽しめるのもX halfの特徴です。フルHDでの撮影に対応し、アスペクト比は静止画と同様2:3となります。スマートフォンは縦位置での使用がデフォルトであり、当然動画撮影も閲覧も縦位置がデフォルトとなります。そのような縦位置動画が市民権を得た今、X halfは時代に即し、スマートフォンでの閲覧に最適化されたムービーカメラと述べて過言ではありません。動画関係者でもないのに縦位置動画を嫌うカメラ評論家もいますが、このカメラに対しどのような意見を持つか興味あるところです。
「instax mini Link 2」や「instax mini Link 3」、「instax SQUARE Link」などのチェキプリンターと連携し、X halfからダイレクトにプリントを楽しむことも可能。スマートフォンでの写真の閲覧と異なり、プリントはまた違った楽しさがあります。プリントを家族や友人、仲間などにあげたり、壁などに貼っておけば常時写真を見ることができます。楽しみは無限、これがこのカメラの本領と言える部分でもあります。
スマートフォンは、基本的に静止画も動画も縦位置での撮影がデフォルトです。昨今は、1インチの大型センサーを積むスマートフォンも見かけます。
また、メニュー表示などはカメラメーカーが長年研究してきたこともあり、多機能でありながら分かりやすいのも特徴。何よりモノとして、道具として、愛着はスマートフォン以上だと述べてよいでしょう。しかも、これまで横長であることに誰もが信じて疑わなかったデジタルカメラのフォーマットを縦長とし、フィルムカメラを知る人にはハーフサイズのデジタルカメラとして、そうでない人にはスマートフォンと同じ縦位置の写真と動画の撮れるカメラとして強く訴求できるのも魅力となっています。まさにコロンブスの卵的発想のX half。決して縦位置に構えて撮ってはいけないカメラであるように思えます。
著者 : 大浦タケシ おおうらたけし 宮崎県都城市生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業後、雑誌カメラマンやデザイン企画会社を経てフォトグラファーとして独立。以後、カメラ誌および一般紙、Web媒体を中心に多方面で活動を行う。日本写真家協会(JPS)会員。 この著者の記事一覧はこちら