電通は8月25日、世界20の国・地域に住む20~59歳の中間所得層以上の男女1万2400人を対象に実施した「ジャパンブランド調査2025」の結果を発表した。
同日行われたレクチャー会では、電通 ジャパンブランドプロジェクトチームの李 春志氏が調査の背景や方法を説明し、観光競争力、訪日体験、消費傾向、地方創生、持続可能性という5つの視点から結果を解説した。
「ジャパンブランド」の定義は、特定の企業や製品ブランドに限定せず、訪日観光、地方創生、和食、日本産品、カルチャー、コンテンツ、価値観、ライフスタイルなど、日本に関連する“ものごと全般"を包括的に捉えた概念とされている。
同調査は2011年、東日本大震災を機に、ジャパンブランドが世界でどのように評価されているかを把握する目的で始まった電通独自の調査である。以来、海外生活者の意識を継続的に追い、ジャパンブランドの可能性や課題を明らかにしてきた。
調査結果は複雑化する企業活動に役立つとともに、日本社会における異文化理解の促進にもつながる。調査方法はインターネット調査で行われている。
国際観光における日本の競争力 ‐ 再訪意向率52.7%で首位を維持
観光目的での再訪意向率に関する調査では、日本は52.7%の支持を集め、前年の34.6%から大幅に上昇。韓国(20.0%)、米国(16.6%)を大きく引き離して1位となった。調査対象の20カ国の中で13の国で首位を獲得し、主にアジア、北米、豪州で特に人気が高いことが分かった。
一方で欧州や中東では順位がやや後退した。しかし李氏は「調査の選択肢自体が、ほぼ世界中の主要な旅行先を網羅している構造になっており、その中でのこの順位は後退しているとはいえ、非常に上位の方に位置している。昨年から大きな傾向の変化は見られない」と述べ、全体として高い評価を維持していることが示された。
また、円安の影響については「訪日観光を後押ししているのは事実だが、それだけではない」と説明された。
訪日体験で関心が高いのは「和食」「自然景勝地」「四季」
次に紹介されたのは、訪日時に関心のある体験についての調査結果だ。
最も多かったのは「和食」(56.4%)で、次いで「自然景勝地」(45.3%)、「四季の体験」(39.3%)、「繁華街の街歩き」(38.7%)、「伝統文化の体験」(36.4%)が続いた。「コンビニでの買い物」も32.9%と高く、特にアジア各国で支持が厚い。
自然体験に絞ると、「桜の花見」(59.2%)、「温泉入浴」(52.2%)、「自然散策」(48.7%)、「紅葉狩り」(41.0%)が上位に並ぶ。
一方で、サーフィンやダイビング、シュノーケリングといった海洋・河川系や、スカイダイビングやパラグライダーといった空中系のアクティビティは、まだ開拓の余地があることがわかった。
外国人にとっての“日本らしさ"の象徴としては、「寿司」(42.2%)、「桜」(42.0%)、「富士山」(41.0%)の3つが中心となった。日本人が国内から捉える「日本らしさ」と、海外の人々が感じる「日本らしさ」には、しばしば差分が見られるという。
さらに、「日本を象徴するものは何か」という認識は、国や地域によって異なる点も明らかになった。
コンビニは寿司、ドラッグストアはスキンケアが人気
消費行動に関する調査では、訪日時の買い物先として「コンビニ」(32.9%)と「ドラッグストア」(24.1%)がいずれも高い人気を集める結果に。具体的な購入希望商品を見ると、コンビニでは「寿司」(46.9%)がトップで、「アイスクリーム」(45.1%)、「おにぎり・スイーツ」(43.3%)が続いた。
一方、ドラッグストアでは「化粧品(スキンケア)」(45.9%)が最も高く、「化粧品(メイクアップ)」(38.7%)、「ボディケア用品」「サプリメント」(37.4%)が上位を占めた。
コンビニエンスストアは「日本らしさ」を象徴する存在としても認識されており、多様な日本らしい商品や食事を手軽に入手できる点が、外国人観光客にとって大きな魅力となっている。
地方観光、訪問すれば満足度96.2%・再訪意向93.4%
地方創生に関する分析では、都道府県別の認知度は東京都、北海道、大阪府、京都府が突出して高かった。
李氏は「この傾向は10年以上にわたり大きく変わっておらず、上位はほぼ固定化している。国内のみならず、海外から見ても似た状況にある」と語った。
さらに「認知されていなければ、そもそも行動の選択肢に入らない。この“認知と行動の間のジレンマ"は毎年確認される大きな課題であり、非常に難易度が高い課題」とも説明している。
また、地方部のみを訪問した経験は依然として低水準にとどまっている。しかし地方を訪れた人の評価は極めて高く、満足度は96.2%、再訪意向は93.4%といずれも9割を超えた。
調査からは「訪れれば高く評価される」ことが示され、日本の地方観光のポテンシャルが裏付けられた。
地方観光に関する課題としては、Wi-Fiなどの通信環境や多言語対応、交通アクセスの改善が高い割合で挙げられた。ただし課題認識は国ごとにギャップがあり、「解決策を講じることは至難の業」とも言及された。
李氏は「多言語対応に関しては、言語にまさるコミュニケーションのスタイルはないと考える」と述べ、加えて「いかに地方にたどり着けるか、便利に移動できるかといったアクセスの改善が大きなポイントだ」と分析していた。
持続可能性と未来の視点
最後に示されたのは「持続可能性」の視点だ。訪日時期は桜シーズンに集中しているが、米国では夏休み、中国では紅葉シーズンなど、市場ごとに異なる季節への関心が確認された。
一方で特定シーズンへの集中はオーバーツーリズムの要因ともなっており、解消には各国の祝日や文化的背景を踏まえた精緻な分析が必要とのこと。
こうした文化的背景や消費者のインサイトを把握したうえで、観光の「モデルプラン」を可視化し、どこを訪れればどのような体験が得られるかを具体的に示すことが、今後の需要分散やブランド強化につながると語られた。
さらに、世界の生活者が普段関心を持つ社会潮流として「生成AIの利活用」(36.6%)、「再生可能エネルギー」(36.1%)、「ヘルステック」(33.8%)、「メンタルヘルス」(32.6%)が挙げられた。
李氏は「特にZ世代の女性はメンタルヘルス関連の潮流に強い関心を示している。大きな社会潮流をマクロ的に把握し、そこから施策へと落とし込んでいくことが普遍的な手法であり、それを常に試み続けることが本調査の意義の一つだ」と述べた。
「ジャパンブランド調査2025」は、日本が観光大国として世界的な競争力を維持していることを改めて示した。同時に、地方観光の可能性や消費行動の変化、持続可能な観光の課題、Z世代の価値観といった幅広い論点も浮き彫りになった。
調査結果からは、観光資源にとどまらず文化や製品への信頼が日本ブランドを支えていることが明らかになった一方で、強さゆえの集中やオーバーツーリズムといった課題も顕在化している。今後は社会潮流や世代の変化を踏まえ、持続的にブランドを高めていく取り組みが求められる。
今回の調査の結果は、今後のインバウンド戦略を検討するうえで重要な示唆を与えるものとなった。