藤井聡太王位に永瀬拓矢九段が挑戦する伊藤園お~いお茶杯第66期王位戦(主催:新聞三社連合、日本将棋連盟)七番勝負は、藤井王位の3勝1敗で迎えた第5局が徳島県徳島市の「渭水苑」で行われました。対局の結果、周到な事前準備を生かして角換わり右玉の攻略に成功した永瀬九段が91手で勝利。
3連敗から2連勝として奪取に向け弾みをつけました。
○ナガセ印の事前準備

一週間前に行われた第4局では角換わり腰掛け銀の真っ向勝負から貴重な白星をつかんだ永瀬九段。先手番で迎えた本局でもその深い事前準備をいかんなく発揮することとなりました。両者得意の角換わりから、藤井王位が右玉に組んだのは後手番で時おり見せる変化球。両者の間で戦われた5月の名人戦などに前例があり、水面下で研究が進められる形です。

午前中から永瀬九段の指し手のペースが目を引きます。穴熊に組んで玉の堅さを手にしたのち桂を中央に跳ね出したのは、知らなければ勇気がいる軽快な攻め。桂と歩を連続で成り捨てる駒損の細い攻めですが、敵陣に飛車が成り込んだ65手目の局面までの永瀬九段の消費時間の合計はわずかに21分(持ち時間各8時間)でした。

1日目午後になるとようやく長考合戦が始まります。100分を超える考慮で角を打った藤井王位に対し、永瀬九段は160分近い長考で封じ手を選択。この藤井王位の角打ちまでは予定だったという永瀬九段としては、封じ手のタイミングも計りつつ有望な攻め手順を読む充実の160分となりました。立会人の森内俊之九段が封じ手を開き2日目がスタート。


○勝利の方程式を発見?

永瀬九段の研究に苦戦し形勢容易ならずと見た後手の藤井王位は早くも勝負手を繰り出します。歩頭に桂を捨てる手筋は終盤戦で使われる囲い崩しで、さすがに非常手段の感が否めません。素直に進めては一手負けという読みが勝負の結論を急がせた格好ですが、結果的にこの手が敗着。とはいえここまでに永瀬九段が築いた作戦面・心理面でのリードが秀逸だったと言うほかありません。

数手進むと永瀬九段の一手勝ちの結論がはっきりしました。終局時刻は15時47分、最後は藤井王位が投了。投了図で藤井玉にはほどきづらい詰めろがかかっており、また永瀬玉は危険なようでも詰めろが続かない形でした。前局に続き「序盤研究でリードを奪って持ち時間の差を活かしつつ快勝」という勝利の方程式を見出した永瀬九段は奪取に向けて猛チャージ。対する藤井王位は「1日目の時点で苦しくしてしまった」と反省を口にしました。

注目の第6局は9月9日(火)・10日(水)に静岡県牧之原市の「平田寺」で行われます。

水留啓(将棋情報局)
編集部おすすめ