大地震や台風など、突如として日常に降りかかる「もしも」の災害。そのとき冷静に行動できるかどうかは、平時の準備にかかっている。
2025年8月30日、31日、東京・代々木公園で開催された「もしもFES 2025 渋谷」は、そんな“もしも”に備えるための体験型防災イベントだ。渋谷区と「もしもプロジェクト」が連携して開催され、子どもから大人まで楽しみながら学べる多彩なプログラムが集まった。
会場には、防災グッズや非常食の展示、ワークショップ、防災に関する講演などが並び、週末の渋谷に訪れた親子連れや学生、外国人観光客まで幅広い層でにぎわっていた。その中でもひときわ注目を集めていたのが、JA共済が出展した「ザブトン教授の防災教室」ブースである。
○▼体験してわかる“揺れ”の怖さ。「ザブトン教授の防災教室」
「ザブトン教授の防災教室」は、JA共済が全国で展開している防災啓発プロジェクト。地震などのリスクをわかりやすく体験・学習できるよう工夫されており、地域イベントや学校などでも活用されている。
ブースには「地震ザブトン」と呼ばれる“イス型の地震動体験装置”を用意。座席に着席し、シートベルトとゴーグルを装着すると、実際に発生した地震の揺れをVRで疑似体験できる仕組みだ。
「地震ザブトン」は、気象庁や防災科学技術研究所が全国に設置している観測機器が得た実測データを元に“揺れ”を再現しているため、能登半島地震、東日本大震災、阪神・淡路大震災などの“本物の揺れ”をそのまま体感できる。
揺れは直下型地震と海溝型地震に大別されており、ブースの担当スタッフいわく「直下型地震は足元で起こるため、強い揺れが短時間に集中してやってきます。一方で海溝型地震は震源が海底なので距離があり、揺れが到達するまでに時間がかかります。
せっかくなので実際に地震ザブトンに座り、ゴーグルを装着。昨年発生した能登半島地震を体験させていただいた……のだが、これがとにかくものすごい揺れ!
椅子にしがみつくだけで精一杯で、避難はおろか、実際の災害現場では立つことすらままならなさそうだ。VR空間内の自宅リビングも酷い有様で、ダイニングテーブルの食器はもちろん、本棚なども次々に崩壊。しかも、かなり長い。被災地の住民のみなさまはこんなにも恐ろしい揺れを経験したのかーーと改めて実感し、青ざめる思いである。恐ろしすぎる。家が倒壊するのも当然の衝撃だ。
来場者さんの「地震ザブトン」の体験シーンを客観的に見てみると……。
こんなに動いていたのか、と改めて戦慄。これじゃあ身動きがとれないわけだ……。
「地震は年に1度は震度6強クラスが日本のどこかで起きています。
「地震ザブトン」の体験だけで終わらない工夫も凝らされている。来場者にはクイズ形式のリーフレットが配布され、地震の種類や対策方法をおさらいできる。「怖かった」だけで終わらせず、この日の経験や感想を家族などと共有し、理解や共感を深められる仕組みだ。
「地震ザブトン」で南海トラフ巨大地震(高知県高知市)の揺れを体験した女性参加者に感想を尋ねてみると、「思ったより長くて強い揺れでした。最初は小さな揺れなので大丈夫かなと思っていたら、急に大きな揺れが来て、何もできない。普段から準備していないと、とても対応できないなと感じました」と感想を口にした。さらに東日本大震災についても言及し、「3.11のときは勤務中で、慌てて机の下に潜ったのですが、あのときも立っていられないほどの揺れでした。けど、今回の体験はさらに強かったですね。もしまた来たら、と思うと怖いですね」と語った。
阪神・淡路大震災(兵庫県神戸市)の揺れを体験した男性参加者は、「今まで大きな地震を実際に経験したことはないのですが、こうして体験してみると、『何もできないな』と思いましたね。想像以上の揺れて、ここまで自分が何もできないとは思わなかった。
当然ながら、「ザブトン教授の防災教室」の狙いは恐怖を与えることではない。体験を通じて“危機を身近に感じる状態”をつくり、そのうえで「家具の固定」「避難場所の確認」「家族との連絡方法」など、具体的な行動に結びつけてもらうことにある。
渋谷の真ん中で開催された「もしもFES」。楽しい雰囲気の中にも、参加者に「自分ごと」として防災を考えさせる仕掛けが随所に散りばめられていた。災害は待ったなしでやってくる。“そのとき”に慌てないために今、何をすべきか。答えは、こうした体験から見えてくるのかもしれない。
猿川佑 さるかわゆう この著者の記事一覧はこちら