「第7次連結中期経営計画」が最終年を迎える中、コスモエネルギーグループが「HRX戦略説明会」を実施した。同グループが実践する「人が活き人を活かす人材戦略」とはどんな取り組みなのか。
説明会で聞いてきた。

コスモが掲げるHRXの4本柱とは

2023年3月に長期計画「Vision 2030」および「第7次連結中期経営計画」を発表したコスモエネルギーグループ。この中で策定したのは、「石油事業の競争力強化」「グリーン電力サプライチェーンの収益基盤確立」「国産SAF量産化/次世代エネルギーの取組み」という3つの事業戦略だ。

これらの事業戦略を達成するためには、社員の成長が不可欠。人材戦略では「HRX」(ヒューマン リソース トランスフォーメーション)をマテリアリティ(優先的に取り組むべき重要課題)のひとつに設定するとともに、経営基盤の変革を進めている。

変革の方向性は主に「多様性の拡充」「自律・主体的への転換」「成長意欲の醸成」「DXリテラシーの向上」の4つ。それぞれの詳細は以下の通りだ。
○多様性の拡充

「多様性の拡充」に向けてはキャリア採用を積極的に実施する。

以前は入社から定年まで勤め上げる、いわゆる「コスモプロパー」と呼ばれる人材が多く、キャリア採用は全体の約1%と極めて限定的だったコスモ。とはいえ、将来を見据えれば「同質性」よりも「多様性」が必要となることは間違いない。同社ではキャリア採用を強化した結果、2025年8月時点でキャリア採用比率が約23%(コスモエネルギーホールディングスと中核3社の合計)まで伸びているという。
○自律・主体的への転換

「自律・主体的への転換」は、いわば社員の意識改革だ。


これまでは、どちらかといえば他律・受動的なスタンスで、会社から与えられるさまざまな仕事をきちんと全うするというのが社員の意識だった。しかし今後は、不透明さが増す世の中で挑戦し続けていくため、他律・受動的な意識を自律・主体的な意識へと変えていく必要があるとの考えだ。

成長意欲の醸成


「成長意欲の醸成」も社員の意識改革となるが、グループ内では現状維持志向が強く、変革心のような意識がなかなか生まれづらい土壌があったという。

当然ながら、社員自身が成長することで仕事の成果は上がり、それによって会社も成長していく。このように、成長意欲は個人にとっても会社にとっても非常に意味があることから、第7次中計のスタート後はそのことを訴え続け、機運の醸成を図っている。
○DXリテラシーの向上

日本企業においてはDXやITといったテクノロジー分野が遅れていることも少なくない。コスモエネルギーグループにおいても、アナログや口頭伝承になっていた部分が多かったという。生産性の低下を招く従来方式から脱却するためには、社員がDXリテラシーをしっかりと身につける必要がある。その上で今後の生産性向上を担う人材戦略へとつなげたいとのことだ。
自分のキャリアを自分で考える「キャリつく」

コスモエネルギーホールディングス 代表取締役常務執行役員の竹田純子さんは、「こうした人材集団を形成していくために大前提となるのが、社員の健康と高いエンゲージメント」であるとし、「コスモエネルギーグループは、これらをメインテーマにHRXを進めています」と話す。

コスモエネルギーグループが進める人材戦略において、1丁目1番地となる人材育成。その中でも特徴的な取り組みとなるのが、キャリア形成強化期間「キャリつく」だ。


「キャリつく」は社員の自発的な改善行動や成長意欲の醸成を目的に、自己成長や健康増進に集中的に取り組む機会を設定し、自律的なキャリア形成を促すというもの。期間は9月から10月だ。具体的には「来年の自分はどうしていたいか」「どういう目標で自分が仕事をしなければいけないか」ということを考える期間になるという。

社員に自発的なキャリア形成を促すだけではなく、会社としても必要な情報を提供するなど可能な限りのバックアップを行う。例えば、キャリアガイドツール「コスモの歩き方」もそのひとつだ。

持ち株会社体制であるコスモエネルギーグループでは、事業会社がそれぞれ分かれているため、各職場で社員がどのような仕事をしているか、どのようなキャリアを歩んでいるのかが見えづらい面がある。「コスモの歩き方」はそれらを可視化することで、今後のありたい姿やキャリアプランを描きやすくするツールだ。

取り組みを始めた当時は、「会社から与えられた仕事を全うするということが長年の習慣になっていたので、10年後に自分がどういうことをやっているのかを想像することも難しかった」と振り返った竹田さん。HRX導入の成果については「いきなり10年後の姿をイメージするのは無理でも、来年はこうしていたい、3年後はこうしていたい、このくらいであれば考えられます。私たちはそのレベルから始めて、今では少しずつ実質的なキャリア形成を考えてもらえるようになってきました」と話していた。

安藤康之 あんどうやすゆき フリーライター/フォトグラファー。編集プロダクション、出版社勤務を経て2018年よりフリーでの活動を開始。
クルマやバイク、競馬やグルメなどジャンルを問わず活動中。 この著者の記事一覧はこちら
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