会見後のフォトセッションで井上とガッチリと握手を交わしたネリ。(C)CoCoKARAnext

 間近に迫った一大決戦に向け、「悪童」の表情は引き締まっていた。

 5月4日、神奈川県・横浜市内で、2日後に東京ドームで実施されるボクシングの世界スーパーバンタム級4団体統一戦12回戦に向けた記者会見が行われ、メインイベンターとなる王者・井上尚弥(大橋)と、挑戦者のルイス・ネリ(メキシコ)らが出席した。

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 国内外から100人を超える報道陣が集結し、大橋ジムと共同プロモート契約を結ぶ米興行大手『Top Rank』の御大ボブ・アラムCEOも駆け付けた。満杯となった会見場の熱気だけでも、6日の興行がいかに歴史的なものなのかを感じさせた。

 前日計量を翌日に控え、王者は威風堂々。「明後日はとてつもない試合ができると確信しています」と断言し、心身ともに万全の状態を伺わせた。一方のネリも盤石の様子が見て取れた。

 立派に整えた顎髭に、サングラス、さらに全身黒ずくめのいかつい装いで登壇した29歳は、他の選手たちが名前を紹介された際に立ち上がって挨拶するなか、微動だにせず。座ったままガムを噛み続け、質疑応答でもふてぶてしい態度こそ見せた。

 ただ、井上との2ショットを撮った直後には、会見中に一度も外さなかったサングラスを取り、王者にペコリ。ガッチリと握手を交わした。その振る舞いは、母国メディアなどで「イノウエは過大評価されている」と挑発的な言動を繰り返してきた悪童のそれではないように見えた。

「この試合が決まってからとても充実した日々を送っている。

完全にメンタルはできている。練習も完璧にやってきた。体重はもうリミット内だ。だから問題ない。練習は成功している。俺はメキシカンボクサーとしての雄姿を見せたい」

 そう意気込む姿からも、いかつい装いとは裏腹にした殊勝さは明らかだった。

 数々の問題行動から“悪童”と呼ばれるネリ。だが、山中慎介戦以来6年2か月ぶりに挑む日本での試合を前に、「完璧」と豪語する本人のコメントにもあるように状態は万全だ。

 実際、事情を知る関係者も驚きの声を上げる。今回の興行に携わる帝拳プロモーションの本田明彦会長は、約5か月間のトレーニングキャンプで搾り上げてきたネリの状態について陣営から毎日報告を受けていると証言。「1か月をかけて減量をしている」とし、水抜きなどの負担の大きい減量もしていないという。

 さらに尿検査を基本としているVADAによるドーピング検査も「5、6回」も実施し、すべてをストレートでパス。

順調なコンディション調整ぶりからメキシコの関係者たちも「別人になったネリが見られるかもしれない」と驚いているようだ。

 井上に対して「死を覚悟して戦いに挑む。勝者になると確信している」とも語ったネリ。過去にないぐらいに最高の仕上げをしてきた29歳のメキシカンは、世界にベストバウトを見せつけられるか。

[文/取材:羽澄凜太郎]