皆さんは、「運動後に清々しい気持ちになった」「エクササイズ後にメンタルの落ち込みやイライラが吹き飛んだ」といった経験はありませんか。運動後に気分やモチベーションに変化が訪れるのは、運動によって脳が活性化しているためです。


 今回の記事では運動することによって、身体的なメリットだけではなく、脳や認知機能へどのような効果を得る事ができるのか、そしてどれくらいの強度でのエクササイズが必要なのかを、海外の論文ベースで紹介していきます。運動が健康に良いというのは分かるけど、脳や認知機能への好影響については、あまり知らないという方には必見の内容です。普段からスポーツに打ち込むアスリートから、最近運動不足だなと感じている方々まで、実用可能な内容となっておりますので、是非参考にしてみてください。

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BDNFについて

 まず初めに、皆さんはBDNFという伝達物質をご存じでしょうか。

 BDNFは、脳由来神経栄養因子と呼ばれ、脳機能の向上を助けてくれる、たんぱく質の一種です。運動することによって、この物質が脳へと行き渡ることが、脳科学やスポーツサイエンス界では知られています。体を動かすことによって、多くの脳機能が活性化されるのは、このBDNFが深く関わっているのです。


 アメリカ・ピッツバーグ大学の行った研究によると、エクササイズを行うことによって、特に記憶力を司っているエリアである、大脳辺縁系の海馬でBDNFが増え、活性化することが、現代科学によって証明されています。

 そのため、運動によって脳が活性化すると同時に、記憶力の上昇や、新しい情報を脳に留める機能の向上が見込めます。また、老化による海馬の萎縮を防ぎ、歳を重ねた際に脳機能の低下から発生する、認知症などのリスクを防ぐことが可能です。加えて、上記の研究では、鬱病などへの効果も示唆されており、BDNFを脳へ送り込む事は、メンタル的な改善にも役立つ可能性もあります。

エクササイズの強度

 それでは、脳を活性化するのには、どれくらいの強度のエクササイズが良いのか。これを調査しているのが、オーストラリアのキャンベラ大学らが行ったメタ分析です。

 メタ分析は、過去に行われた多くの研究を、まとめて分析し、効果の大きさを表現したり、統合する研究手法です。

分析されたものをさらに分析しているため、その信憑度は高いと言われています。

 この研究では、運動と脳に関しての過去の研究が分析されており、実験は、50代以上の人々が研究対象とされておりますが、多くの世代にとって参考となる分析結果となっております。

 研究の結果、1回のエクササイズ (有酸素運動やレジスタンス運動) を45~60分の範囲で行うだけで、認知機能の改善が見られたそうです。週に1回、ジョギングなどの有酸素運動や筋トレを行うだけでも脳機能に好影響を与える事が可能です。

 上記の研究結果から分かることは、ジョギングや早歩きなどの軽いエクササイズによって脳が活性化し、BDNFというタンパク質の一種が、海馬を刺激するため、記憶力や認知機能の向上が見込めます。

「やる気物質」ドーパミン

 他にも鬱病や、メンタル的な問題も、運動によって解決できる可能性が、ドーパミンの観点から説明できます。運動やエクササイズを行うことによって、神経伝達物質であるドーパミンというホルモンが脳内で分泌されます。


 ドーパミンは、別名、「やる気物質」とも呼ばれており、私たちの「やる気」や「意欲」を司っていることで有名です。ドーパミンには他にも、「幸福感」や「情報処理能力」を高める効果もあるため、運動によってこの物質が脳内に分泌されると、鬱病や認知機能の改善に役立ちます。この効果は、日常的に多くの人が経験している事で、軽いランニングやトレーニングの後は清々しい気持ちになるのは、このためです。

 一方で、ドーパミンには、依存症を引き起こすなどのデメリットも確認されていますが、使い方によっては、大きなメリットを享受できます。特に新たな情報や環境に触れたとき、私たちの脳内でドーパミンが分泌されやすい事も確認されています。

アスリートのドーパミン利用法

もし、アスリートでメンタル的な落ち込みや、やる気の低下などが見られる場合は、新たな練習法や、新しい道具を使って練習を行うと、脳内でやる気物質が分泌され、モチベーションの向上が期待できます。

 1、新しい刺激によって、ドーパミンが分泌され、学習能力の向上。


 2、ドーパミンによってパフォーマンスの向上。

 3、さらに、新たな情報や刺激へと意識が向かうモチベーションの上昇。

 上記のように、ドーパミンを操ることは、アスリートとしての好循環を作り出すことが可能となります。アスリートやスポーツマンのメンタルコントロールとして、ドーパミンを利用するのは、おすすめです。

アスリートの事例

どうしても練習でモチベーションを保てない選手がいました。そこで私がアドバイスしたのが、毎日違う練習メニューを組むことでした。

そこで、前日にたてた練習だけでなく、3週間以内に行った練習はさせないルールを設けました。

最初は、練習メニューすら思いつきません。そこで、別の選手と練習をしたり、自分がやっている競技以外の練習をしてみたりしました。また、トレーナーを新たに雇って練習メニューを増やしたのです。

すると自然とモチベーションが生まれ競技パフォーマンスも高まってきました。脳にどんな刺激を入れたりいか?練習メニューを増やすだけでも効果的です。ご参考までに。


参照記事
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21531985/
https://bjsm.bmj.com/content/52/3/154.long

[文:スポーツメンタルコーチ鈴木颯人のメンタルコラム]

※健康、ダイエット、運動等の方法、メソッドに関しては、あくまでも取材対象者の個人的な意見、ノウハウで、必ず効果がある事を保証するものではありません。

一般社団法人日本スポーツメンタルコーチ協会
代表理事 鈴木颯人

1983年、イギリス生まれの東京育ち。7歳から野球を始め、高校は強豪校にスポーツ推薦で入学するも、結果を出せず挫折。大学卒業後の社会人生活では、多忙から心と体のバランスを崩し、休職を経験。
こうした生い立ちをもとに、脳と心の仕組みを学び、勝負所で力を発揮させるメソッド、スポーツメンタルコーチングを提唱。
プロアマ・有名無名を問わず、多くの競技のスポーツ選手のパフォーマンスを劇的にアップさせている。世界チャンピオン9名、全日本チャンピオン13名、ドラフト指名4名など実績多数。
アスリート以外にも、スポーツをがんばる子どもを持つ親御さんや指導者、先生を対象にした『1人で頑張る方を支えるオンラインコミュニティ・Space』を主催、運営。
『弱いメンタルに劇的に効くアスリートの言葉』『モチベーションを劇的に引き出す究極のメンタルコーチ術』など著書8冊累計10万部。