SNSで若い女性を中心に支持を集める黒宮れい。2011年にはバンドBRATSを結成しボーカルを担当。

その4年後にはアイドルとしても活動するなど幅広い活躍を続けてきました。2017年にアイドル活動に終止符を打ち、今年の1月29日(金)に自身初のエッセイ『私が居なきゃ生きていけないって言ったんだから一生かけて証明してみせてよね』を主婦の友社より発売した黒宮に、今回クランクイン!トレンドは、アイドル時代のことから自立した生き方についてなど、独自の世界観の裏側をたっぷり聞いてきました。(取材・文=Nana Numoto/写真=松林満美)

■これまでのキャリアを振り返って

――黒宮さんは10年以上も芸能活動を続けていて、とてもキャリアが長いですよね。はじめに芸能界に入ろうと思ったきっかけはなんだったのでしょうか?

テレビを見ていた時、ただ漠然と「この人たちと同じテレビの画面の中に入りたいな」と思ったことがきっかけです。それをお母さんに言ったら「じゃあやってみれば」って言ってくれて。その時は、アイドルになりたいのか、女優になりたいのか、歌がやりたいのか、わかっていませんでした。当時の生活が退屈で人と変わったことをしたかったんだと思います。

――今回、本の中ではジュニアアイドル時代の活動についても触れていますが、振り返ってみて当時をどのように感じていましたか?

学校のない土日は朝7時に事務所の近くで集合して、夕方の5時ぐらいまで撮影するというようなスケジュールでした。スタッフさんとも仲がよかったので、遊びに行くみたいな感覚でしたね。プールに入ったり、体操服を着たり、フラフープをしたり…。純粋に楽しんでいました(笑)。かき氷やアイスも食べさせてくれたので「めっちゃ楽しい! 毎日が旅行じゃん!」って、そんなに重く受け止めていなかったんですよ。
でも自分はそれで楽しいと思っていたし、普通のことができなかったので自分にはあっていたと思います。

――ちなみに苦手だった“普通のこと”とは?

学校に通って4~5時間勉強して、他の子とある程度仲良くしないといけないのがすごく難しかったです。お姉ちゃんにずっとべったりだったので、余計に友達もできなくて。そういうのが本当につまらなかったです。行ったら行ったで授業も分からないし勉強する気も起きなくて、問題だらけでした。

■アイドルへの抵抗から再起

――でもお話を聞いていると、お仕事で充実されていたように感じます。13歳の頃に「仕事って何だろう」と疑問を持ったと本の中で触れていましたよね。自分の“アイドル”という仕事が「若さを売りに消費されていく」ということだと気付き始めた経緯を教えてください。

気付いたのは、ミスiD2015に出た頃です。その時にアイドルグループを結成して、ジュニアアイドルとバンドを含め3つの活動を掛け持ちしていました。そのうちにどんどん、アイドルの仕事は容姿で判断されるということがわかって…。ジュニアアイドルの頃は、イベントしかやらないので周りの人からどういう見られ方をしているのかダイレクトに知る機会がありませんでした。
アイドルをやってから、結局今までやってきたことも若さを売りにしてきたことで、中身じゃなくて容姿で判断されるのだと気付きました。

――では、辞める決断をしたのは、自分のやりたいことはこれじゃないなと思ったのが一番の理由だったのでしょうか?

それもありますし、アイドルに向いていなかったんですよね。ラジオや、色んな媒体に出演して、同じような質問をされることに、当時は「だるいな」って思っちゃって(笑)。わたしは自分の好きなことを貫き通したかっただけなのに、こういうことをしたいんじゃないと感じました。けど、仕事となると周りの大人の利益とかも考えなきゃいけないじゃないですか。それでだんだん疲れてきてしまって。アイドルの仕事をする上で、大人の人たちともあまり分かり合えなかったし、お互い歩み寄ることもできなかったので無理だなと判断しました。

――なるほど、ありがとうございます。今は納得できる形でBRATSの活動ができているということが本でも触れてありましたが、再び立ち上がれた原動力になったものがあれば知りたいです。

アイドルを辞めた後、バンドが再開するまでに、自分の経験したつらい思いや苦しみを日記に書いていました。そのときに、「れいが書いている日記に曲をつけてみよう」って言ってもらえたことがきっかけです。曲ができた時は、自分はこういう形でも世の中に発信していけるんだと初めて知って、これからも言葉で戦っていきたいなと思いました。
あと、汚い感情や怒りも、自分の中でポイントなんですよ。わたしは怒りがないと何もできなくなっちゃう。溜め込んでいたものをバーっと書いたらやる気が満ち溢れてくるんです。

■消費されることについて

――やりたいことが見つかったきっかけが、音楽や歌詞作りだったんですね。では、SNSでは女の子のファンが多い黒宮さんに、今回の本でキーワードになっていた“消費される”ことについて聞かせてください。一番響いたのが「自分を消費されることを好んだり、自分で自分を消費していることに気づいてほしい」という言葉だったのですが、消費されることを好むっていうのは、どういう人のことを指しているのか、具体的に聞きたいなと思っています。

例えば、SNSで顔とか体を撮って男の人に好かれたいとか、ファンを増やしたいという生き方。男の人に合わせたりとか、本当の自分を偽って誰かに合わせたりとか。そういう生き方は、特に女の子にはしてほしくないなと思っています。若いファンの子が多いからこそ、このことを伝えていきたい。今の時代は簡単に画像を悪用されたり、トラブルに巻き込まれたりするんです。自分のファンの子からも、結構DMで相談されることがありました。
そういうのを見ていて感じましたね。もっとみんなに愛されたいって気持ちはわかりますが、そういうやり方じゃなくて本当の自分を見てくれる人を探してほしいと思っています。

――すごく大切な意見だと思います。男の人に好かれるために自分を偽らないでほしいということですが、本の中の「彼がいないと生きていけないなんていうのはだいたい幻想」の部分についてもいくつか聞かせてください。恋愛において、この考えから脱却できない人はたくさんいると思います。そんな人が一歩踏み出すために、何かアドバイスはありますか?

人間って結局一人なんですよ。自分は一人しかいないし、自分の事をわかっているのも自分だけ。結局自分を裏切らないのって自分だけなんですよ。男がどんなに愛してくれて結婚しようって言っても、結局は離れていくこともある。離れていかないのは自分だけだから、やっぱり自分に依存することが大切だし、自分で自己肯定感をあげていかないと。誰も褒めてくれないですからね。まだ、依存するものの対象が男じゃないといけない空気感ってあると思います。
「彼氏作りなよ!」とかよく聞きますし。だけどそうじゃなくて「いや、私は別に自分一人で生きていけるし、自分が大好きだから男なんていらない」って言えるような人でありたい。この本を読んでメンタルを鍛えてください(笑)。自分で楽しくなれる方法を見つけちゃえば、男なんていらないですよ。

■黒宮れいのメンタル蘇生術

――バイブルにします(笑) 他にも、「メンヘラなのはご愛嬌じゃん」っていうフレーズにもあったと思いますが、不安定な心でもそのままでいいという肯定的な言葉が印象的でした。敏感で繊細な心とうまく付き合っていく方法ってなんだと思いますか?

自分はメンヘラですし、気分の浮き沈みもめちゃくちゃ激しいです。今までは、気分が落ちた時には「どうしよう、自分、今落ちてるわ」って焦ってしまって、どうにかして上げないといけないとも思っていました。だけど気分を上げようとしても結局上がらないんです。例えば新しい洋服を買ったら少しは嬉しい気持ちになるのですが、結局寝る時になったら「ああ、また夜かよ」と思って飲み込まれそうになる。だったら、とことん自分の浮き沈みに付き合って、「あー、もういいんじゃねー?」みたいに思ったら少し頑張ってみるとかがいいかなと思います。

――落ちてる時はそれに向き合って無理に上げなくていいんですね。

「どうしよう」とも思わなくていい! ただ、“無”でいること。
「なんか今日は天気がいいから、ちょっと換気してみようかな」ぐらいに。「もしかしたら部屋の空気が重いからかもしれないしなー」みたいな感じで気楽に考えながら「毎日頑張ってるし、今日はいいよね」って感じで付き合ってあげることが大事だと思います。ダイエットなんかしていたら、もっとメンタルやられますよ。別に太ってていいの。太っててもいいし、ムチムチでもいいじゃないですか。それも愛嬌。メンヘラなのも愛嬌。好きな人はいるから絶対、大丈夫。

――強い!

そう、強いんですよ!

――ちなみに本の中では「レベル1のメンヘラからレベル100のメンヘラまで成長させたい」というのがあったと思いますが、それは負の感情を増幅させるわけではなくて、うまく自分と付き合えるメンヘラを量産するということなのでしょうか?

メンヘラの母数を増やすんです。増やしていけば、自分と同じ感覚で共鳴してくれる子が世界に増えると思っています。1人が自分と同じ価値観で、1人が自分のアンチだとしたら、その後ろには10人ぐらいそれぞれに共鳴している人がいる。自分はメンヘラの教祖になって同じことを思う人をもっともっと増やしていこうと思っているんです。そうすれば自分も強くなれる。そして、わたしと同じように感じる子たちも強くなるんですよ。だって同じことを思う人はこんなにいるって思えるから。それはアンチも一緒で、同じことを思う人がいるから自分がやってることは正しいと思えるんです。紙一重だと思います。

――アンチに対しても、マイナスの感情を抱くんじゃなくて、肯定的な視点を持つんですね。すごく有意義な考えを学べました。

そうなんです。このあいだエゴサしたら「黒宮れいは男の話しかストーリーにあげない」って書いてあって、それはつい「確かになぁ」って思っちゃいました(笑)。でもこれって、わたしのブランディングが成功したってことなんじゃないかと。自分はもともと写真もあげないしツイートも少ないから、結局仕事と男の話しかしないんですよね。だから、アンチにまで自分の伝えたいことが届いているなら、いいかなと思っています。

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