連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』(NHK総合/毎週月曜~土曜8時ほか)の「るい編」で、2代目ヒロイン・るい(深津絵里)が住み込みで働く「竹村クリーニング店」の竹村夫妻の妻・和子を演じている濱田マリ。これまでも『カーネーション』『マッサン』と、ヒロインを見守る役柄を演じ、今では「濱田マリがいる“BK(NHK大阪)朝ドラ”は安泰」というイメージを抱く人もいるほどだ。

そんな竹村夫妻が、放送残りわずかとなった『カムカムエヴリバディ』第23週に再登場。そこで今回、『カムカムエヴリバディ』の共演者や演出家の話、朝ドラの話、”声“の仕事の話などまで、たっぷりと語ってもらった。

【写真】濱田マリインタビュー撮り下ろし コミカルなカットも

『カムカムエヴリバディ』裏話 るい役・深津絵里は「かわいい顔して恐ろしいやつ」

――竹村夫妻は非常に人気が高く、るいたちが大阪を離れ、京都に移り住んだときは、「竹村ロス」の声が続出していましたね。

濱田:竹村夫妻はすごく視聴者の方々に支えられていました。「〇〇ロス」なんて言われたのは初めてやから、どういうこと?と驚いたけど、すごくうれしかったですね。

――濱田さんと演出の安達もじりさんの組み合わせには、『カーネーション』を思い出す視聴者が多いです。

濱田:もじりさんが特徴的なのは、特に何も言わないこと。でも、本番の前にチラッと来て、コソコソと小っちゃい声でささやくんですよね。それが文章だったり、ワンワードだったりするんですけど、最後の調味料の一振りをする。それでだいたいの味付けが決まるというか。それぞれのシーンの要となる気持ちなどを、本番前にボソッと言うのが「もじり法」ですね。

お芝居をしっかりさせてもらえる現場で、撮られているときは意識しないのですが、オンエアになったものを観て、「うわ、めっちゃ愛されてる」って思います。
だって、明らかにすてきなんだもん。むっちゃ視野が広くて、心も深くて広い方だと思います。

――朝ドラご出演は3回目でしたが、朝ドラの現場ならではだなと思うことはありますか。

濱田:スタッフの皆さんの愛が深いことですね。美術も制作も演出も全ての部署が楽しみながらやっているし、若い人が先輩の背中を見て勉強している様子を見るのもすごくほほ笑ましいし。ヒロインの仕事量は正直、すごく多いので、むちゃくちゃ過酷じゃないですか…。私は大阪のおばはんを『カーネーション』と『マッサン』で演じていますけれども、もう一つの仕事はヒロインを守ると言ったらおこがましいですけど、ヒロインが気持ちよく仕事ができるためにどうすればいいかをちょっと考えます。そっとしておいたり、元気を注入するために面白いことを言ってみたり…。

――深津さんのヒロインぶりはいかがでしたか。

濱田:あの人、すごいですよ。私はるいちゃんが大好きな竹村和子としてやっとるわけです。村田(雄浩)さんとも一緒に本当にるいちゃんが大好きになっちゃって、ジーンとしているところに、はいカットとなっても、まだ竹村和子なんですよ。
でも、深津さんは切り替えが素晴らし過ぎて。

竹村夫妻が再登場をするんですが、ある場面で深津さんが歌を歌われるんです。以前、世良(公則)さんが「On the Sunny Side of the Street」を歌ったシーンがありましたよね。世良さんは、リハーサルと本番、さらにカットを変えて、計7回も生歌で歌ったんです。るいちゃんもそんな感じで同じく「On the Sunny Side of the Street」を歌うんですが、「るいちゃん、むっちゃ歌うまいやん。口パクやんな?」と言うと、一緒に見ていた世良さんが「あれ、全部生ですよ」と。絶対音程外さないし、それで芝居もしてしまうんですよ。

深津さんは、できないことがないんです。縫い物も料理もできるし、回転焼きも作れる。それで歌まで歌えてしまったら、歌手が廃業するでっていうくらいうまかったんですね。しかも、こっちはみんなワーワー泣いて、本番終わってからも感動の余韻に浸っているのに、深津さんはニコニコって笑って、演出家さんに「大丈夫でしたか?」って聞くの。「大丈夫もなんもないやん! 一人でリアルに戻るのやめてくれ!」って(笑)。
みんなを置いて、一人で深津絵里に帰りよるんだから、かわいい顔して恐ろしいやつだなと思って(笑)。

役者・歌手・ナレーション…マルチに活躍し続けて30年 一方で竹村夫妻に通じる母親の顔も

――ご自身にもお嬢さんがいらっしゃるそうですが、和子さんとるいちゃんの親子関係に共感するところもありますか。

濱田:和子はるいがジョー(オダギリジョー)を連れてきたとき、めっちゃテンション上がっていましたよね。私も23歳の娘の親として、彼氏が来たら張り切りますし、娘が大好きな人は私だって大好きです。それで、「お母さんはツムツムでどのくらいハイスコアを出すんですか」なんて聞いてくれたら、「これ見て!」みたいなね(笑)。私は娘と話すのがすごく好きなんですけど、娘の彼氏と話をするのもすごく好きです。私たちの知らない娘の一面を知っている人なので、彼氏を通して自分の娘の新しい面を知るみたいなところもありますし。

ただ、竹村夫妻は、るいちゃんのお父さんお母さんみたいな感じだけれど、ジョーがトランペットを吹けなくなったときも、落ち込むるいちゃんをハグしていないんですよ。「これでいいのかな、中途半端かな」と思ったんですが、それは正解で。自分の動物の勘を信じて良かったと思うんですけど、そこは奥ゆかしく、適正距離を保つ夫婦なんです。泣いてくれれば涙を拭いてあげるし、何も言いたくなければ聞かない、それが竹村夫妻の美学だなと。

――『うたコン』(2月22日放送分/NHK総合)の『カムカムエヴリバディ』特集では、歌も披露されていました。
歌声が昔と全然変わらないと評判でしたね。


濱田:「買い物ブギー」は自分的にはもうぎりぎりなんですよ。本番を迎えるまで食事ものどを通らなかったし、本番終わったら食欲が爆発して、3日間爆食だった。娘に「どやった?」と聞いたら、「メイクは意外と面白かったけど、動きが変。それに、堰(せき)を切ったようにしゃべり始めて、壊れたかと思ったわ。って言われて。

――歌の仕事も復活されるのでしょうか。

濱田:いや、私はモダチョキ(モダンチョキチョキズ)もやってましたが、自分では歌う人じゃないと思っているので、自分から歌いたいと思って歌うのはカラオケだけなんです。歌手たるもの、自分の表現として気持ちを歌う、歌詞の世界にどっぷり浸かって表現をすることが大切だと思うんですけど、私はそうではないんです。「ビジネス歌手」ですから。伝えたいメッセージなんてないし、私には思いを歌うとかはできないんです。だから、台本を渡されて演じるのと、歌を渡されて歌うのと、やっていることはほぼ変わらないかもしれない。
そもそもこういう役をやりたいとか、こういう歌を歌いたいとか、私は欲望がないんですね。そういうところは淡泊というか、ビジネスですね。

――濱田さんと言うと、『あしたまにあ~な』(1998年~2005年放送/テレビ朝日系)の早口ナレーションのイメージも強いですが、ナレーションもお芝居の延長線上でしょうか。

濱田:ナレーションは、顔がなく、声だけなので、お芝居をする以上にお芝居しています。『あしたまにあ~な』はすごく刺激的な番組でしたね。7年間務めさせていただいたんですけど、最初に原稿を読んだ時に、「10秒じゃこんなに入らないです」と言って、「でも、早口にしたら入るかもね」と、早口でやってみたら入ったんです。それで、全部こんな感じでやる?と。世間的には「早口の人」みたいになっていますけど、全然得意じゃないです(笑)。月曜分から金曜分まで一気に収録するんですが、最初なんて全然進まなくて、「これ、夜中までかかっちゃうんじゃないの?」と思うんです。それで、ウォーミングアップも兼ねて「無理! 舌回らへんわ。もっかいやらしてください」とか言うんですけど、水曜日くらいからどんどんのってきて、木曜日金曜日はワンテイクでいけちゃう。そんな感じで7年間悪戦苦闘しながらやっていたんですよ。


「ヒロイン役をやりたいと思った」過去も 現在は“寄り添うポジション”を確立

――濱田さんのトークはすごく楽しいですが、コメンテーターなどのオファーもあるのでは。

濱田:以前はそういうお仕事をさせていただいたこともありましたけど、コメンテーターさんは視聴者の声を代弁するとか、かなり制約があるじゃないですか。それより最近は、制作寄りの仕事が楽しいんですよ。4月から始まるNHKの『あしたが変わるトリセツショー』(7日放送開始/毎週木曜19時57分)といって、石原さとみさんがショーマンとして、いろんな食べ物や体のことなどの取り扱い説明書をショー形式でお届けする番組なんですけど、石原さんの隣にいるミミズクみたいな鳥のロボット「トリンキー」の声を私が担当しているんです。

いわゆる天の声ポジションなので、立場上、番組の筋を把握して、スタッフさんと一緒に作り上げていかなければいけない。そういう番組を作るスタッフの熱量を感じられる仕事が、すごく好きだなあと。ナレーションがそもそも、演者ではあるけど、一緒に番組に寄り添う、制作寄りのポジションですし。

――そういえば、お芝居でもヒロインに寄り添ったり、声の仕事でも寄り添ったり、寄り添うポジションを託されることが多いですね。

濱田:それは好きかもしれないですね。私とて、女子ですから、ヒロイン役をやりたいと思ったこともありました。でも、モダチョキで「全然、表になんか立ちたくない!」ということがわかったんですよ。私は表に立つ人を支える、そばで自分がやるべき業務を遂行できることがとっても幸せだと思うし、やっぱりバイプレーヤーなんですよね。役柄については、温度・湿度管理ができているつもりなので、間違えることはあまりありませんし、引き出しもそこそこあると思います。

やりたい役などは全然なくて、そういう欲望は淡泊ですが、いつも監督さんが思い描いている90点を超えた芝居をすることが私のやりたいこと。私はとっても使い勝手がいいですよ(笑)。昔、女性の監督さんに言われてうれしかったのが、「私は濱田さんのことを鷹の爪だと思ってます。濱田さんがいないと、味が締まらない」という言葉でした。私は素材ではなく調味料なんです。

最近は、干し椎茸のポジションを狙っているんですよ。かっさかさやねんけど、味がすごい出るでえ~、戻るで~、どこで止めとく~?みたいな。簡易的に持ち運べるけど、とんでもない食感と仕事しよるでというのを狙っています。(取材・文:田幸和歌子 写真:高野広美)

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