4月で東京進出4年目を迎えたお笑いコンビ・ダイアンの笑いが、ジワジワと浸透しつつある。今年元日に関東初の冠ラジオ番組『ダイアンのTOKYO STYLE』(TBSラジオ/毎週土曜20時30分)をスタートさせると、先月には冠番組『ダイアンのガチで!ごめんやす』(群馬テレビ/毎週金曜19時30分)、民放キー局初冠番組『ダイアンの絶対取材しない店』(テレビ東京系/毎週木曜25時)が相次いで始まっている。
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■ 単独のチケットは即完売 関西では不動の人気
トボけた表情でボソッとボケるユースケと、早口の鋭いツッコミの津田篤宏からなるダイアン。滋賀県出身、中学の同級生の2人がよしもとの養成所NSCの門を叩いたのは1999年だった。同期は在学中からブレイクを果たした超早熟のキングコングをはじめ、のちの『M-1グランプリ』(以下『M-1』)王者NON STYLE、同じく『M-1』王者のとろサーモン・久保田かずのぶ、さらには南海キャンディーズの山里亮太、東京よしもとにはピース、平成ノブシコブシと、「黄金世代」と呼べるほど層が厚い。しかし、その中でもダイアンについては、山里は2人を自身のラジオにゲストで呼んだ際「入学したときからのスーパーエース」だったと評してその実力を認める。
よしもとの若手芸人の登竜門となる劇場「baseよしもと」で同世代のライバルたちとしのぎを削り、漫才の腕を磨いていったダイアン。『M-1』決勝の舞台には2007年と2008年の2度駒を進めたが、出番のクジ引きで高得点が出にくいトップバッターを引いてしまうなど、運に恵まれなかったこともあり、めざましい結果は残せなかった。
2010年代になると、関西のテレビ番組への出演が増加。今も続くロケ番組『本日はダイアンなり!』(ABCテレビ/毎週土曜11時30分)がスタートしたほか、『今ちゃんの「実は…」』(同系/毎週水曜23時17分)などのロケで確実に結果を残していく。この頃になると、単独ライブはチケット発売と同時に即完売。2018年には上方演芸界で最も長い歴史を持つ賞レース『第53回上方漫才大賞』で大賞を受賞し、漫才師として不動の人気と地位を獲得した。
■ 東京の番組での姿は「ダイアンの完全体」じゃない?
そんなダイアンが芸歴18年目の2018年、42歳という「独特過ぎるタイミング」(山里)で満を持して東京進出を果たす。
東京の番組でも、いわゆる「ひな壇芸人」として共演する芸人が“イジらずにはいられない”ような津田の天性の愛きょうと、コンビの頭脳であるユースケのエピソードトークで一定以上の活躍はしているように思える。
しかし、東京進出後の3年間について、「ダイアンの面白さはこんなもんじゃない」「もっとやれるのに」と忸怩(じくじ)たる思いだったファンも少なくないのではないだろうか。現に、ダイアンのファンを公言し、2人を「お笑いの完全体」「お笑いの全て」と言ってはばからないアイドルグループ・NMB48の渋谷凪咲も、「あんな関西では面白いのに、関東では何であんなことになっているのか」(『ワイドナショー』2021年7月18日)とコメントしている。東京の番組での2人はまだ「ダイアンの完全体」ではないのか?
■ ダイアンの魅力が凝縮された「ラジオ」という環境
ダイアンのファンでない筆者の友人に、東京の番組での2人の印象を聞くと、「津田は大声を張り上げているだけ。ユースケはたまに口を開くと面白いけど、いかんせん手数が…」という辛らつな声が返ってくる。考えてみれば、東京に来てからのダイアンは「ひな壇芸人」という枠にハマりすぎてしまっていたのかもしれない。本当のダイアンは、もっと柔軟で、もっと自由なのだ。
そんなダイアンの魅力が凝縮している場所の1つがラジオである。2014年から昨年9月まで約7年間放送されていた『ダイアンのよなよな…』(ABCラジオ)は生放送の3時間1本勝負(途中から、『M-1』で優勝した後輩・ミルクボーイに時間帯を一部譲ってあげる形で2時間30分に短縮)。
ラジオの環境はいろいろな意味で2人に適している。元テレビ東京のプロデューサー・佐久間宣行に以前「人見知り」と指摘されたとおり、少しシャイな部分のある2人は、初共演や共演歴の浅い相手だとあまり深入りできないこともある。そんな2人が共にリラックスした状態で仕事ができるのは、2人のときであり、誤解を恐れずいえば、ユースケが一番おもしろいのは津田と絡むときであるし、津田が一番おもしろいのはユースケと絡んでいるときと言える。
■ 2人を見事に表現した名曲「二人の間」
「関西人が2人集まれば漫才になる」という俗説があるが、ことにラジオでのダイアンについてはそれが真なりと言える。とりとめのない天気や季節の話から、学生時代やNSC時代の思い出、はたまた浅いのか深いのか分からない時事・政治トークまで、何気ないフリートークをしていると、2人の掛け合い、間が、次々押し寄せてくる大波のような笑いを生み出していく。
生放送中、どちらかが言葉をかんだりヘマをしたりすると、もう片方がここぞとばかりに集中砲火してそれも笑いに変える。津田が高校に落ちたエピソードや、部活の怖い先輩に「この水飲めますよ」と媚びへつらった情けないエピソードなど、幾度もこすられオチも分かりきった話でも、古典落語のように何度も笑えてしまう中毒性がある。
かねてよりダイアンファンを公言していたロックバンド・クリープハイプの尾崎世界観が、2人のために書き下ろした「二人の間」は、まさにそんな2人の「間」にフィーチャーした楽曲だ。
歌詞の中にはダイアンのダの字も出てこない。限りなく抽象度の高い2人の人物の関係性が描かれるのだが、「誰のどんな関係性にも当てはまりそうでありつつ、どうしようもなくダイアンを思い描いてしまう」という作りの、まさに名曲だ。
■ 番組終了からたった1ヵ月で新番組 ラジオがダイアンを放っておくわけがなかった
『よなよな…』は2021年9月、ABCラジオの大規模な改編によって突如終了という憂き目にあう。終了は局の編成方針の転換によるもので、番組が不人気の末に終わったわけではないこともあり、SNS上には多くのリスナーの悲鳴がこだましていた。
しかし、ダイアンのフリートークをラジオが放っておくわけがない。
■ ようやく気づかれ始めたダイアン“最大の武器”
前述したように、東京進出4年目の先月、テレビ番組『ダイアンのガチで!ごめんやす』『ダイアンの絶対取材しない店』が立て続けにスタートしている。この2つの番組には共通点がある。細かい設定は異なるものの、基本的にはゲストを呼ばず、ダイアンがロケに出かける形式で、何よりも2人のやり取りがメインに来るような企画となっている。これは、ダイアン最大の武器が2人の掛け合い、「二人の間」であることを関東のテレビマンたちが気づき始めたということではないだろうか。
特に、今まで一度も取材を受けたことがないような“普通の店”を巡る『絶対取材しない店』は、第2回にして早くも「神回」とささやかれる放送になった。事前のコミュニケーションの行き違いで、番組の趣旨を把握していなかった店主の女性が、ダイアンとのやり取りでみるみるうちに不機嫌に。ピリピリ張り詰めた現場に、2人が珍しくタッグを組み、いかに場を和ませ女性に笑ってもらうか尽力。最終的に一度は閉じた女性の心を笑いによって開くという芸当をやってのける、緊張と緩和が凝縮したリアルドキュメントの様相を呈していた。
千鳥のようにほかの出演者を自分たちの世界観に引き込んでいくようなカリスマ性はない。
もしかしたらすぐにはハマれないかもしれないが、だまされたと思ってしばらく観続けてみてほしい。ジワジワと、じんわりと効いてくるのが“ダイアンの間”なのだ。(文:前田祐介)