1986年に公開された『トップガン』から36年、現在公開中の続編『トップガン マーヴェリック』で再びトム・クルーズとタッグを組んだプロデューサーのジェリー・ブラッカイマー。「製作当時21歳だったトムに、映画作りの全てを教えた」と語るジェリーが、野心あふれる若き日のトムを回想するとともに、ハリウッド映画をけん引するスーパースターに成長した彼のストイックな生きざまについて熱く語った。
【写真】トム・クルーズの仕事風景 『トップガン マーヴェリック』メイキングスチール集
本作は、世界的危機を回避するため極秘ミッションを決行する、米海軍エリートパイロット養成学校“トップガン”の活躍を描くスカイアクション。誰もが不可能と口にする無謀な作戦を成功させたい海軍は、アイスマンことカザンスキー海軍大将(ヴァル・キルマー)の特命により、伝説的なパイロット、ピート・“マーヴェリック”・ミッチェル(トム)をトップガンの教官として復帰させる。新世代チームと共に命懸けのミッションに挑むことになったマーヴェリックだが、そこには、今は亡き元同僚グースの息子ルースター(マイルズ・テラー)の姿があった。
●トム・クルーズはなんでも吸収する“スポンジ”のような男
前作を愛するファンのために、“郷愁”を感じるシーンをふんだんに盛り込みながら、初めて『トップガン』を体験する人にも「存分に楽しんでいただけるエンタテインメントに仕上げた」と自信をのぞかせるジェリー。物語上では、「この30数年、マーヴェリックはどんなことを経験し、今どういう状況にあるのか…そういった背景もしっかりと描いた」と強調する。マーヴェリックと同じ年月を刻んできたトムは、紛れもなくハリウッドを代表する不動のスーパースターに成長したが、前作で初めて会った時の印象をジェリーはこう述懐する。
「撮影が始まった時はまだ21歳だったと思いますが、とにかく映画作りに対してものすごい情熱を持っていました。『なんでも吸収したい! なんでも学びたい!』というトムの気迫に押され、私は教えられる全てのことを教えました。カメラワークや編集作業などクリエイティブな面だけでなく、人の雇い方、問題が起きた時の対処の仕方、さらにはプロモーションのやり方など、ありとあらゆることをね」。その熱量は、36年経った今も全く変わっておらず、そのブレない姿勢が彼に豊かな経験をもたらした。
「『トップガン』以降、ハリウッドの未来を担うトップスターとなったトムは、スティーヴン・スピルバーグやスタンリー・キューブリック、シドニー・ポラックといった巨匠たちと仕事をするチャンスに恵まれ、さらにはダスティン・ホフマンやポール・ニューマンら名優たちとも共演する機会を得て、彼らから学んだことも、全て自分の中に吸収していましたね。トムはまるで “スポンジ”のような男(笑)。
●トム・クルーズと仕事をする時は「本物」でなければならない
また、トムと仕事をする時は、常に“本物”でなければならない。いくらテクノロジーが発達しても、ことアクションに関しては、CGで安全にやろうという発想がない。常にリアルを求めている。「時には、『危ないからやめてくれ』と願うこともありますよ。でも、そこに関しては絶対に曲げないですよね。言っても聞かない(笑)。本作では、俳優全員がトムの考えたプログラムに参加し、3ヵ月かけてパイロットとしての訓練を受けましたが、それはもう壮絶でした。最初はプロペラ機からスタートし、曲芸飛行、ジェット機と段階的に強度を高めていくんですが、最終的に“7G(体重×7倍の負荷)”に耐えなければならない。わかりやすく言えば象に踏まれながら演技をする感覚ですかね、俳優は大変でした」と苦笑い。
だが、トムだけは「体力が異次元」だとジェリーは証言する。「前作では、F-14戦闘機(今回はF/A-18に進化)でしたが、フッテージ映像を観ると、吐いたり、失神したりしている俳優がほとんど。
●トム・クルーズは言い切った「アイスマンが出ないなら続編は作らない!」
現在59歳のトム。今作では自ら製作にも加わっているが、21歳の若造トムを教育した立場でもあるジェリーにとって、やりづらさはなかったのだろうか。バイタリティーあふれるトムと同じ立場になったことに対して彼は、「そんなことは全くないです。トムの性格はよく理解しているし、俳優としてもリスペクトしているし。たまに意見の相違があって口論になることはありますが、二人とも『最高の映画を作りたい』という同じ目標を持っている。だから、最終的には徹底的に話し合って、よりベストなアイデアを採用するだけなんです」と強調する。
アイスマン役のヴァル・キルマーの起用に関しても、ジェリー自身は(大病を患ったヴァルの状態を心配し)複雑な思いもあったようだが、「トムは、『ヴァルが出演しないなら続編は作らない』とまで言い切ったんです。
「映画を観に来る皆さんを楽しませたい」…その一心で映画作りにまい進するハリウッドの両雄。さしずめトムが太陽なら、物静かなジェリーは月。タイプは全く違うが、二人は心の奥底で深く、固く、つながっているようだ。(取材・文・写真:坂田正樹)
映画『トップガン マーヴェリック』は公開中。