あらゆるコメディ作品で抜群の存在感を発揮してきたムロツヨシが、公開中の映画『神は見返りを求める』では負の感情に支配されていく男、そして24日から放送・配信スタートする『連続ドラマW 雨に消えた向日葵』(WOWOW)では陰のある刑事役を演じるなど、得意分野である“笑い”を封印して次々と新境地に。そのワケを尋ねてみると、ムロは「自分に期待したいから」と語る。
【写真】50代に向けて「新しいことに挑戦する勇気がもっと必要になる」と語るムロツヨシ
■笑わせる必要がない! 重厚感あるストーリー&シリアスな刑事役で新境地に挑戦
『連続ドラマW 雨に消えた向日葵』は、吉川英梨の小説『雨に消えた向日葵』(幻冬舎文庫)を原作に、ある少女失踪事件の真相を追う刑事と、失踪した少女の家族の苦悩と執念の日々を描いたヒューマンミステリー。「連続ドラマW」初主演のムロは、自身の妹をある事件から守れなかった経験を持ち、罪滅ぼしであるかのごとく懸命に少女失踪事件の捜査にあたる刑事・奈良健市を演じている。
後悔にさいなまれ、それを原動力に痛々しいほどの執着で犯人を追う刑事役となるが、ムロは「僕のパブリックイメージとは違った役のオファーをいただいて、びっくりしました。何度台本を読んでも、笑わせる必要がない役柄」と自身も驚きがあった様子。「20代から舞台でも喜劇ばかりをやってきましたが、喜劇の中でシリアスなお芝居をする瞬間もありますし、そういった表情をじっくりと見ていただける機会になる。監督と脚本、そして役者としての自分を信じて演じさせていただきました」と意気込みを明かす。
演じた奈良について「過去を捨てることができず、それを背負って生きる覚悟をした男」だと分析したムロ。「自分にこれほどの使命感と責任感を持つことができるだろうか、と思わされるような人です。事件が進展しない苦しみもあるし、家に帰って妹の顔を見るのもつらい。奈良の気持ちを考えると、心の休まる瞬間がないですよね」と奈良の心情に寄り添い、「奈良の覚悟に、少しずつ自分の体を重ねるようにして現場に臨みましたが、演じてみればみるほど、キツかったですね」と苦悩を吐露する。
重厚感ある役柄を演じる上では、撮影現場での過ごし方も変化した。
■下積み時代に味わった“知ってもらえない恐怖”と “知ってもらってからの恐怖”
下積み時代を経て、40代となった今では映画、ドラマにと引っ張りだこの俳優となった。ムロは「夢が叶った実感がある」と率直な心境を打ち明けつつ、「19歳の頃、“役者の道を目指す”と決意するまでに、“本当にやるんだな、絶対中途半端はダメだよ、やるならば野垂れ死ぬまでやってくださいね”と、何度も自分に言い聞かせました」と振り返る。
これまでの道のりは険しいものでもあり、「昔はつらいだけで、先がまったく見えなかった。下積みなんていう綺麗事では済ませられないくらい、光が見えなかったですから。壁をぶち破れなかった原因を考えてみると、覚悟不足、努力不足ということになると思います。“俳優でご飯を食べていくんだ”と決めたからには、恥じらいを取っ払って、自分の愚かな部分も見せていかなければいけないと開き直ってからは、少しずつうまくいくようになった。やっぱりチャレンジしないと、面白いことは増えていかないと思います」としみじみ。「つらかった頃の自分のためにも、“夢が叶ったよ”と言ってあげないといけない。
芽が出るまでは「ムロツヨシという存在を知ってもらえないという恐怖があった」とも。しかしブレイク後には「知ってもらってからの恐怖がある」という。「“やっと自分を知ってもらえた”と思って、自分の得意分野や、成功体験を得られたと感じたものばかりをやり始めたんですね。すると、このままでは自分に飽きてしまうのではないかという恐怖が生まれました。実際に少し飽きてしまった時期があって危機感を覚えた」のだとか。「役者というのは、これは初めて挑むことだという恐怖心、これでいいのかという危機感を持つことが、絶対的に必要な気もしていますし、僕自身、恐怖心を持ちながら真正面から向き合ってみるというやり方が、一番自分に合っている気がしています」と恐怖を受け入れながら歩みを進めている。
■50代に向けて「新しいことに挑戦する勇気がもっと必要になる」
『神は見返りを求める』や本作などで新境地に挑んでいるのは、「自分に期待したいし、自分に飽きたくないから」だという。46歳になった今、ムロは「舞台を作っていく上でも、時代を見抜く力が衰えていく可能性もあります。日に日に恐怖は増しますが、新しいことに挑戦する勇気が、もっと必要になってくる」と未来を見据える。
「自分としても見たことのない、これまで知らなかった、役者・ムロツヨシを見てみたい。
「もし自分に飽きてしまって、“面白くないな”と思い始めてしまったとしたら、過去の自分だってうれしくないはず」といつも励ましてくれるのは、“過去の頑張った自分”。「そのためにはちょっと無茶をしてでも、役者として、自分の知らない一面を見せ続けていけたらなと感じています。とはいえ、60代を過ぎたら“飽きる”とかではなく、リラックスした状態で芝居をしたいなとも思いますね。セリフも覚えず、全部カンペを用意してもらって、それでも決める時はバチッと決めるみたいな。まるで昭和の大物俳優のような存在感! それが理想です!」と大笑い。
ムロの「自分に期待したい」という熱意が、見る者にとっても「次に何をするかわからない」とワクワクするような俳優としての吸引力につながっている。“新たなムロツヨシ”の登場が、これからも楽しみだ。(取材・文:成田おり枝 写真:高野広美)
『連続ドラマW 雨に消えた向日葵』は、WOWOW・WOWOWオンデマンドにて7月24日より毎週日曜22時放送・配信。全5話。